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Fortune ―ファウストの聖杯―(Prototype)  作者: 明智紫苑
本編、アスターティ・フォーチュンの物語
12/32

今年の桜は良い桜

 アヴァロン連邦暦346年のクリスマスイヴ。私は家でミヨンママ、ブライアン、ミナ、ヴィクター、デヴィル・キャッツの二人と、パーティを開いていた。

 マリリンの赤ちゃんは10月に生まれていた。女の子で、名前はクラリス(Clarice Rosemary Gaynor)だ。私はマリリンに出産祝いのプレゼントを贈った。今のゲイナー家もクリスマスパーティを開いている頃だろう。

 デヴィル・キャッツの二人は、今年の今夜も我が家に泊まるので、遠慮なくガバガバとスパークリングワインを飲み放題だ。私は未成年だからまだお酒を飲めないけど、多分下戸だろう。

 私たちはローストチキンやスモークサーモンマリネなどのご馳走を食べ、パーティはお開きになった。

 今夜はヴィクターも家に泊まる。ヴィクターはミナの部屋にいる。二人で色々と話しているだろう。


 私は一人、自室でテレビを観ている。今、音楽番組を放送しているが、あのロクシーのクリスマスソングのビデオクリップが流れたので、私はサッサとチャンネルを替えた。

 邯鄲トイズのロクシー人形は、ミヨンママの知り合いの女性の娘さんにあげた。今の私には、もう必要ないものだから。以前は憧れていた「偶像(アイドル)」に幻滅した今では邪魔なものでしかないから。もちろん、人を人と思わない「セレブ」は珍しくない。ロクシーもそんな凡庸な「セレブ」に他ならない。私もミヨンママも、彼女が一番の「仮想敵」だ。

 アガルタのマツナガ博士もロクシーが嫌いだと言っていたけど、なるほど、確かに男性目線から見れば「男を単なる財布やアクセサリーとしか思えない女」に過ぎないだろう。一部の成金男が「生きたアクセサリー」として連れ歩くような美女。確かに彼女のような女性像を不快に思う人間は老若男女問わず少なくない。それに、あの人の人気はすでにピークを過ぎているような気がする。

 来年、私は高校二年生になる。今は仕事と学業を両立しているし、大学にも進学するつもりだ。目標はすでに決まっている。あの人、フォースタスの母校アヴァロン大学文学部だ。大学入試のためにも、音楽活動は少し控える必要がある。今の私はセカンドアルバムの録音作業があるけど、それ以外はメディアへの露出を控える。

 来年は、うまく行けばルシールとフォースティンが私の通う高校に進学するはずだけど、久しぶりにあの二人と一緒に遊びたい。今の私の立場はなかなかそのような余裕はないけど、テレビやラジオへの出演を制限すれば、あの二人と遊ぶ暇を確保出来るだろう。



挿絵(By みてみん)

 年が明けて347年、4月。私は無事に二年生に進級した。そこに、さらにめでたい知らせがあった。

 ヴィクターとミナが結婚するのだ。しかも、すでにミナのお腹の中には赤ちゃんがいる。二人はすでに入籍しているが、結婚式を挙げるのは6月だ。いわゆる「ジューンブライド」だ。そして、出産予定日は10月だ。

 今年の私は、あまりメディアに露出しない予定だ。何とかうまく学業と楽曲作りの両立を果たしたい。そんな私の通う高校に、ルシールとフォースティンが入学してきた。

 私はあの二人の他にも友達が出来た。


「アスターティ!」

 新しいクラスメイト、ベリンダ・モンマス(Belinda Anita Monmouth)。小麦色の肌のかわいい女の子だ。

 淡い栗色の巻き毛。パッチリとした大きな目。愛嬌のある笑顔。屈託のない人当たり。私は、彼女に対して警戒心を抱く必要がなかった。そのベリンダのおかげで、私は少しはうまく他のクラスメイトたちと付き合えるようになった。

 この高校は、以前通っていた中学校よりもずっと気楽に過ごせた。ある程度開放的でリベラルな校風のおかげか、女生徒たちの関係も「女社会」のマイナス面をほとんど感じさせない。もちろん、様々な「属性」によって色々なグループがあるけども、ここは良い意味で「他人は他人、自分は自分」という言葉がふさわしかったし、その通りの生徒たちが多かった。

 ベリンダが言う。

「シャーウッド・フォレストの劇のチケットがあるけど、観に行ける?」

「シャーウッド・フォレスト? 劇団?」

 そうだ、マツナガ博士が注目している劇団。以前、映像を見せてくれた、あの劇団だ。

「パパとママと三人で行く予定だったけど、パパに急用が出来たの。だからチケットが余ったのだけど、一緒に行ってくれるかな?」

 私はその劇を観たくなった。

「ありがとう。行けるかどうか、うちのママに訊いてみるね」


 私は家に帰ってから、会社にいるミヨンママに電話をかけた。

「もしもし、ママ?」

「どうしたの、アスターティ?」

「あのね、私の友達がシャーウッド・フォレストという劇団のお芝居のチケットをくれるって。あの人のお父さんが急用で観に行けなくなったから、チケットが余ったというのだけど…」

「当日券があるなら、私も観たいわね」

 ママもシャーウッド・フォレストに、そしてスコット・ガルヴァーニという役者さんに興味があるようだった。

「ヒサもあの劇団や役者さんに注目しているわ」

 ヒサ…マツナガ博士だ。ミヨンママはどういう訳か、マツナガ博士とは古くからの知り合いなのだけど、この二人がどうして知り合ったのかは分からない。多分、ミサト母さんの紹介だろうけど、色々な意味で謎だ。まあ、あまり深く追及しない方が良さそうだ。

「今度の土曜日ね。行きましょ」

 ママは許可してくれた。

 私は今年の春も、街中の桜の写真を撮っている。ソメイヨシノやヤマザクラ、八重桜にその他色々。桜の花に限らず、私は写真を撮るのが趣味だ。そのまま眺めるのも良いし、コンピューターで画像を加工するのも面白い。来月上旬には藤やライラックなどの花の写真を撮りたい。

「今年の桜は良い桜。多分、来年も」

 私はこれからもずっと、アヴァロンシティに春が訪れるたびにセントラルパークの桜の花を撮り続けるだろう。

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