襲撃(後編)
俺のジアちゃんが冒険者ギルドの入り口へ行くと、さっそく屈強で汚なそうな格好のおっさんに囲まれてしまった。
「ようよう、ここはスルターナのギルドだぜ。姫さんよぉ。こんな場所になんのようだい?」
ジアちゃんが、はじめての冒険者ギルドで受けた洗礼。
これよ、これ。
やっぱりコンピュータのRPGだったらクリックすると必ず場所を言うNPCがいるものだよねぇ。お約束だ。やっぱRPGはこれがないとね。
『うわぁ。自己紹介ありがとう。これまた典型的すぎだねぇ。じゃぁパターンA:時代劇風で』
実はあの後、俺はログアウトせずに『魔王になろう』のウィンドウを立ち上げっぱなしで放置しておいたのだ。
ほら、やっぱり嫁の寝顔とか見てみたいじゃん。
ほら、やっぱり嫁の着替えとか見てみたいと思わないかね。諸君!
見てみたっていいじゃないか2次元だもの!
だって、このまるで完全に実写としか思えないような、超絶HENTAI技術をふんだんに使った映像なんだぜッ。見ざるを得ないじゃないか。これが三次元だったら某ファーストフード店で席に座っただけで周囲の席の女の子が別の席に移動するレベルやもしれん。
すると話がどんどん勝手に進行し、ジアちゃんのメイドちゃんが他キャラであることを知る。
そして知ってしまったのだ。
メイドちゃんの中の人が「鶯」ちゃんであることを。
しかし、このメイドちゃん、この容姿で中身おっさんかよ。やっぱり。
俺はすぐにメイドちゃんの中の人に連絡をとった。
やつは「小説家になろう」にメイドすきーな小説を書いている。連絡をとるのは簡単だった。もちろん、「小説家になろう」では秘密の会話とかできないわけだが、そこはそれ、世の中にはス○○プとか、ツイッ○ーとか、便利なツールはいろいろあるのだ。
鶯ちゃんのメイドスキーは筋金入りで、それこそメイド喫茶を運営するために必要な従業員一人当たり売上高やら、売上高平均利益率やら、基本的な財務指標とかが素の状態でスラスラでてくるような人物だ。
俺は洗いざらいヤツから聞いた。
執事長が帝国本土からのスパイで、メイドの鶯嬢であるリナちゃんがそのダブルスパイだとか、鶯くん結構時代劇が好きだとか。戦うメイドさんはさらに好きだとか。
ふふん。最後のはリナちゃん見ただけで俺は一発で分かったぜ。しかも盗賊スキルとか通だな鶯ちゃん。
リナちゃんはジアちゃんとこぎたねーおっさんとの間に入り、鶯ちゃんが仕込んだセリフを吐く。
「控えなさい! この方をどなたと心得ますの? スルターナ家のご令嬢、ジア・スルターナ姫ですのよ、つまり冒険者ギルドのスポンサー。頭が高い。控えおろう!」
そしてジアちゃんがアイテムボックスから、印○ーよろしく鉄パイプを出現させて、床ドーン。
「は、ははーー」
土下座する、こぎたねーおっさん達。
決まった、決まったぜ、鶯のだんな。
あまりの嵌り具合に俺は爆笑した。
『ぷ。決まってるねぇ…(アハハ八八ノヽノヽノヽノ \』
ジアちゃんも笑っている。楽しそうでなにより。
だけどその鉄パイプは黒歴史だからやめて欲しかったねッ。
「えーっと、どのようなご用件で?」
その隙に冒険者ギルドのスタッフの女性がやってくる。
ナイス。いいぞスタッフ、タイミングよすぎ。
「冒険者ギルドのギルドマスターに逢いたいのだが」
「今日はご不在でして――」
「ではスルターナのジア邸に来いと伝えろ。いつならば来れる?」
「くっ……、少し調べさせてください……」
お、スタッフちゃん劣勢だねぇ。
『うぉ、リナちゃん威圧的だねぇ。さすが≪鶯≫さんのところの――』
戦うメイドさんスキーな鶯ちゃん、こういうプレーをさせたかったのだろうか。
『ご存知で?』
ジアちゃんが、会話で会話を仕掛けてきた。
俺はびびる。
もしかしてこれって、画面上で誰がいようとも2人きりで会話ができるってこと?
強調しよう「2人きりで」。
GMとの会話の時は気にしなかったが、なかなかすごい機能だ。
っていうか、今さら気づいたがこの人工知能すごすぎじゃね?
どんだけ日本人の大学生ってHENTAIなのよ。
ほとんど現実の少女みたいな受け答えじゃん。
ほんとにいたらまともに話かけれない自信があるぜ。
『そりゃ、魔王同志だもの』
俺はジアちゃんに適当に返した。
魔王≪鳴くよ鶯≫――
ヤツは美人のおんにゃの娘を自キャラとする同志だ!
「今日の夜にはジア邸に行くことができるようです」
「そう……。では行きましょうか」
とりあえず冒険者ギルドでのイベントはここで終了となった。
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ジアちゃんが自宅に戻る道すがら。
俺ずっと、ジアちゃんの育成方針について考えていた。どんな娘に育てるのが良いのだろうか?
MMO-RPGといえば、戦闘でレベルを上げて成長して俺TUEEEE-が定番の遊び方だ。他はは自分の嫁のおんにゃの娘に服着せたりとか、プレーヤーどうしだべったりするのとか。
でも服着せるための素材とかも、やっぱり戦闘で敵ぶち殺してGETしなければならないのもMMO-RPGのお約束である。だからクラス設定は大事。
ではどういうクラスにするべきか?
育成方針としては大別して3つ。
・肉体言語に訴えかける戦士系。
・魔術とか使っちゃう魔術師系。
・なんか作っちゃう生産系だ。
ふむ。戦士系はないだろ。
あの細い身体で大剣振り回すとか想像できないというか、ジアちゃん傷つくところとか見たくない。大事な嫁だぜ嫁。ジアちゃんが躍動して動くところは見てみたい衝動に駆られはするがな。擬音で表現するならそう、ぷるんぷ(ry
生産系もだめだ。
ジアちゃんがごはんと味噌汁とか作っているシーンを想像してみて欲しい。萌える、非常に萌えるのだが。
食べられないんだぜ。
そりゃまぁ、2次元なんだから当たり前なんだけど。
想像して欲しい。
ジアちゃんやリナちゃんが楽しく作ったご飯。
エプロンなんかして作るんだ。揚げたて、カリカリのフライドチキンのコンボ。うまそうだろう。
その横で俺はドラッグストアで買ってきた1個27円3割引マーク付きのモヤシを食べるんだ。
俺はジアちゃんの笑顔だけでご飯3倍は捗るけど、ストレスがまっはで溜まりそうだ。モヤシがすごくムシャクシャする。却下だ。
消去法で魔術師系だけど、これも攻撃、回復、支援と分かれるんだよね。
攻撃系はリナちゃんをアタッカーとするならいらないし、回復はまちがって地元のおっさんとか回復しようものなら女神様とか崇められてNTRされそうだし、するとこれまた消去法で支援系にしようと決まった。
支援系のクラスの中から、俺は面白そうなものを見つけてしまったのだ。
小説家になろうで最も有名なMMO-RPG作品も主人公は支援系だし、良くある設定の一つ、だよね。
俺がいろいろ考えていると、いつのまにやらジアちゃんは自宅にもどっており、ソファーで足をぶらぶらしていた。
さっそく会話してみる。
『というこで、ギルドマスターがこちらに来る前に、職業設定しようか?』
「職業設定、ですか? それをするとどうなるのでしょうか?」
『クラスによって開放する力の方向性が決まる』
「方向性、ですか?」
『大きく3つにわけると、肉体戦闘系、魔術系、生産支援系の3つに別れるな。ジアちゃんはやりたいこと決まった? 俺は魔術師系にしようかと思っている。肉体戦闘って、ジアちゃんの細い体じゃ無理だろ? 生産系は貴族のイメージに合わないしね』
「あのー。えーとー。私は空を飛んでみたり、妖精さんと戯れたり、してみたいです……」
かわいいことを言ってくるジアちゃん。
俺は自分の嫁がさらにかわいく思えた。
そして俺がやろうと思っていた支援系魔法クラスにも合致している。
『あぁ、ちょうど良かった』
「え、できるんですの?」
驚いた顔を見せるジアちゃん。
そんなんで尊敬のまなざしをするのはやめて欲しい。
『もちろん。ジアちゃんと思っていることが同じで良かった。じゃぁ、空間魔術師(Sky walker)を選ぶね』
クラスを選択するとステータスが変わる。
クラス補正により、HPなどのステータス値もあがったようだ。
『名前:ジア・スルターナ
HP:150/150
MP:100/100
SP:50/50
種族:人間
性別:♀
職業:空間魔術師 (Sky walker) Base.Level.1 Job.Level.1
ジョイント:貴族/王族 Level.3
称号:スルターナ公国第一公女
ハートフルポイント:100 (※0でBAN)』
「やりました! 魔王。魔法使いになりましたよ。それにHPも、MPも、SPもあがって……」
『はいはい。すごいねー。でもまだまだ魔法を使えるようにはなっていないからね』
スキル選択。そこまでしないと魔法は使えないのだ。
そしてジアちゃんが言うように、空を飛べるようにする、となるとちょっとレベルを上げないといけない、それには――
「後はなにをすれば良いのでしょう?」
『経験点をぽっと稼ぐ、かな?』
「経験点、ですか?」
おいおい経験点知らないのかよ。基本だろ。基本。
俺色に染めるゲーとして何も覚えさせてないというコンセプトは良いんだが、さすがにGMちゃんこのくらい教えておこうぜ。
『経験点っていうのはね。そのクラスに相応しいことをした場合に発生する、魔王からのギフトのことだね。例えば敵を倒すとか、例えば冒険者ギルドが依頼するクエストの消化なんて感じかな』
「今回やろうとしているような?」
『そう』
「でも……。そんなことで経験が積めるのですの? 思いっきりズルしているようにしか見えないのですけど……」
そう、公爵家の金という名の魔法のステッキを使った思い切りズルである。
こんなことをしたところで経験をつめるはずがない。普通なら。
でもこれ、MMO-RPGだから。
MMO-RPGはクエスト消化による経験点増加が可能なのだ。
……。できるよね?