終章:俺達の日常はこれからだ
「ど、どういうこと?」
「一般的なMMO-RPGの平均寿命は約5年。そこまでは持たせてみせる。でもそれ以上はたぶん、無理。中には10年以上のタイトルもあるけど、日本人は特に飽きっぽいし、このゲームはそこまで長く引っぱれるタイトルじゃないもの。ロロたんには資金面で協力してもらっているけど、そこまでお願いするのは無理ー―。そうするとサーバーはいつか閉鎖することになるのです」
「そんな……。魔王と逢えなくなるだなんて…」
「逢えるよ。もっともその場合、ディストピアには帰れなくなるけどね。で、どうする? こっちに来る」
「来ます。魔王とこちらで暮らしたいです」
それは即答だった。
「あー。僕は純粋な君が羨ましいよ。で、仕事とかはどうするんだい? こちらではディストピアの貴族のようには生きていけないし、転移術で稼ぐということもできないよ」
「それは――」
「そこで提案なんだけど、早めにこっちの世界で暮らしてみるとかどう? 戸籍とか保険とかの雑務は僕がやるから。学校にも通って慣れるがいい。勉強も問題ないよ。ジアちゃんを召喚した時点でのタッキーの知識がジアちゃんにはリンクされているから。教科書見れば知識が浮かぶように思い出せる」
でないと、日本語がそもそも理解できないでしょう? と続ける。
「それに、放置しておくと悪い虫が付くかもしれないよ?」
ちらりと横を見る。そこには七日野亜細亜がいた。
「虫って……。タッキーといい、ほんと酷いなこっちの人は……。でも――」
「でも、まんざらでもないんでしょう?」
「そりゃ、嫌いではないけれど」
少しだけ顔の赤くなった亜細亜にジアがむくれる。
酷いことをされながらも、私に酷いことをされそうだったら、身体で庇おうとかいう思考の持ち主だ。つまりはそういうことなんだろう。
「行きます。行かせて下さいお願いします」
ジアは七日野ようこ懇願し、ようこは満足そうに頷いた。
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結局のところ――、思惑通り帝国騎士団の数の暴力により勝利したエンパイヤ帝国は空中庭園、≪砂丘≫トトリーを手に入れることとなった。
その際、妖精帝国側と揉めに揉めることになったが、一部の地域を妖精帝国側の縄張りとする引き換えに大地のゴーレムや精霊魔術の力を背景に防風林の設置、テトラポッドなどの護岸整備を手伝うことで落ち着いたようだ。
その1週間後、今度はアジア・サーバ側はルーピー・サーバとのサーバ間演習を行い、それにも負け、常夏の楽園≪離島≫ハワー・アーンズなる空中庭園を残念賞として貰ったようだった。なんでもルーピー・サーバー側の住人はアジア・サーバの面々がディストピアと遊んでいる間、ひたすら廃狩りに明け暮れていており、レベル差が強くでてしまったようだ。動画サイトを漁ると勝利時の中二の美少女ちゃんの満面の笑顔を確認することができる。反面、七日野亜細亜は終始、仏頂面だった。そしていつも教室で顔を合わしているにも係わらず、口も聞いてくれない。
その間、俺は俺の嫁であるジアちゃんとは毎日話はしているのだが、何か戦後処理等で忙しいのか、常にもましてボーっとしているし、何かあるとすぐに話を切り上げようとするし、どうにも要領を得ない。
そしてひと段落の事が終わったとき、それは起きた。
「なぁ、タッキー。今日転校生が来るそうなんだが、お前何か知っているか?」
ホームルーム。いつもの通り大崎から声を掛けられたが、内容が強烈だった。
うわ。なにそれ。まさか金髪碧眼ロリ巨乳の俺の嫁だったりしないよな。
「いや知らない。この前転校生として、七日野がこのクラスに来たのだから、別クラスなんだろ?」
「どうもそれがな、名前がジア・ハセガワというらしんだ」
俺は思わず七日野の方に顔を向けるが慌てて顔を背けられ無視される。
だが一瞬見えたあれは――知っている顔だ。
少し笑みが見えたもの。
とてもビンゴにしか見えない。
そう考えると、最近ジアちゃんの反応が薄かったことが気にかかる。
あれはもしかして、「魔王になろう」の世界で中二の美少女ちゃんと会話とかしていたのだろうか。
中二の美少女ちゃんちゃんの得たいの知れない政治力でもしジアちゃんが学校に転入とかしてきていたら、今日のお昼とか放課後とか俺のところに来そうで周囲の視線が怖いのだが。いや、来たところで恥ずかしいだけで困りはしないのだけれど。
そんなそんな戦々恐々としているうちに昼になり、そして放課後になった。
「というわけで、アニ様帰りましょうか――」
当然のように帰りに教室へやってくるジアちゃん。
教室の面々は七日野亜細亜とまったく同じ容姿の人物の登場に目をまるくしている。
「あぁ、やっぱりそういう――」
呟くのは浅井瑠奈だ。これで根も葉もない尾鰭が付いて情報がばらまかれることが確定したぞっと。
「ジアちゃん……、転入は良いけど勉強とか大丈夫なのかよ」
そうだ。勉強とか大丈夫なのか、ジアちゃんといい、亜細亜ちゃんといい。
「大丈夫ですよ。キャラクターには召喚した時点のマスターと同じ知識が備わりますから。教科書見れば思い出します、だそうですわ?」
不可解な理論でどうやら心配ないようだ。
「ふーん。そういう設定なんだ……」
「魔王にろう」を知っている大崎はそういう「設定」ってことで納得しているようだ。いや、それもどうなんだろう。
「ほらそこ。いちゃつかない。2人とも帰宅部ならさっさと帰りなさいよ。貴方達みているとどうにも胸焼けがするのですよねー」
七日野亜細亜は俺達に帰宅を促す。
「えーっと、亜細亜ちゃんとジアちゃんは、どどどどういうご関係で? 名前からして似てて容姿までそっくりって――」
もしかして双子なの? と、亜細亜に詰め寄る浅井。ジアちゃんに直接聞くよりはクラスメートの方が話しやすいのだろう。
「東欧にいた私たちが日本に引き取られた先が私が七日野家で、ジアが滝川家だったてことでOK?」
きっとこれもあらかじめ用意していたQAなのだろう。
七日野亜細亜の返しは淀みがなかった。
「あぁ、引き離される姉妹。そして妹はタッキーの毒牙に掛かる。可愛そうに。そういうプレイ?」
「見るからにあれ毒牙に掛かりまくってますね。私にも来ないのかしら?」
なんだか女子一同の視線がこちらに来て、かつ猛烈に寒いのだが。
これはさっさと戦略的に逃げるに限るぜ。
俺はジアの腕を掴み。さっさと逃亡した。
「来ないかしらって……、来たら掛かるの? タッキーの毒牙に」
「掛からないわよ。でも容姿同じだから、タッキーが間違えられて迫ってきたらどうしよう流されそう」
「そこで流されルナー。なら間違えられないようにせめて髪型替えればいいじゃない。ショートにするとか」
「それ、このタイミングだと完全に失恋した負け犬じゃないですかー。でも、髪型ねぇ。縦ロールとかならいいのかな。お姉様の魅力でタッキーを悩殺するとか――」
「金髪縦ロール! 悩殺するのかよ。でも亜細亜のロリお姉様はいいかも? 何かそんな感じするし」
「なら、まずは可愛いパーマのできる美容室を探すところからかな――」
「それなら――」
そして、俺達のあらたな日常が始まった――
次回作始めてます。こちらから→ http://ncode.syosetu.com/n5694cx/




