砂丘トトリーの戦い
時は7日後の日曜日。13:00。
夜20時までのディストピア・サーバとアジア・サーバのサーバ間交流戦が始まった。
緊張する雰囲気の中。アジア・サーバ側のGMである七日野亜細亜が戦いの開始を宣言する。
「いまここに――。公式勇者、七日野亜細亜が聖戦モード9Hを発動する!」
GM専用のクラス:公式勇者のスキルによって、この空中庭園世界の法則が書き換えられ、死してもしなない状況が作り出される。
その宣言は戦いの始まりを意味していた。
「総員! 配置に付け! 闘う準備を整えよー」
熊のような大男が叫ぶ。それにアジア・サーバ側の参加者が緊張を走らせた。
その直後。上空――
「いたぞー」
目のよい歩哨の男が空中にある異変に気づく。
あれは≪天空のシロ≫。ジア・スルターナの姿だ。
西部黒鉄器の杖に乗り、天空を駆ける少女。
そこでアジア・サーバの面々は天空に浮かぶジアのスカートの中にある逆三角形を見て隠された≪天空のシロ≫の真の意味を悟ってしまう。
(これは見続けるのは不謹慎ではないだろうか)
そうした声をあげ、目をそらした瞬間、ジアはアイテムボックスからあるものを取り出した。
ただの岩だ。
上空で取り出した大き目の岩は極めて自然に地上へと落下していく。大地を揺るがす強大な力。あんな質量兵器、むろん当たればいくら魔王の加護を受けた強靭なキャラクターといえど生きていられるはずがない。
「鬼謀を抱いて轢死しろ!」ジアの叫び。
「来るぞぉぉー」熊が返礼を返す。
熊らは小説版の知識であの攻撃が何かを知っている。アイテムボックスから現出するアレは単なるアイテムにすぎない。タイミングよくしまっちゃえば大丈夫。自信がなければ塹壕に飛び込めばいい。
叫びながら熊はそれ以外のアクション。モンク職のスキルを繰り出す。
右、下、右下 ボタンを押した後、大パンチボタン。
マウスパットが必須な接近戦用・対空瞬間無敵の必殺技。
「岩手・拳!」
熊に向かってきた岩はそこで粉砕される。
その他では『配管工』スキルでAボタンを押すことで対上空無敵を発生させるプレーヤーもいた。
しかし落とされた岩は1スロット分。全999個。
アイテムボックスにうまくしまうことが適わなかったプレーヤーは次々に岩で死んでいった。
「なんだあれは!?」
岩に続きさらさらと吹き散らされる大量の白い何か。
あれはおそらく、小麦粉だ。
燃えやすい乾燥した小麦粉。
ここは砂丘トトリー。基本的に大地も乾燥している。
空気に触れ拡散したソレは岩のようにアイテムボックスにしまうには細かすぎた。その小麦は、もはや粉塵といっても過言ではない――
『まずい。他の魔王にあれが粉塵と気づかれたら、絶対ネタやらかすぞー』
熊は自身の魔王からの会話を受ける。風魔法で吹き飛ばすべきだと。だが全てが遅すぎた。
「くそう! 戦いの火豚を放つ前に死んでたまるかぁぁ――」
岩を辛うじて避けたものの身体に重大な欠損が及んだ男が叫ぶ。
火炎系精霊魔術≪ファイヤー≫のスキル。
その戦いの火の豚が世界に現界した瞬間。陣営は炎に包まれた。
粉塵爆発だ。
ドドーン。
一気に爆ぜる炎の勢い、失われる酸素によって死にこそはしないが、しかし大ダメージを受けるキャラクターたち。
そこへ――
「我らエンパイヤ帝国陸軍騎士団! ただ一人の少女を救うため、今ここに参戦する! どうせ死にゃしねーんだ。全軍突撃! 我に続けを継続伝令――」
声を発するは歴戦の将軍、ソラ・ウェイバー。
大量に転移してくるディストピア世界の兵士達。
「うそだろ、おぃ。誰だよ15人とかいったやつ!」
「やつらはNPCだ。レベル的には勝てるはず」
「だが数の暴力できやがった!」
次々と現れるその数は津波のよう。
彼らは軍馬に騎乗し、ランすチャージによって突撃を図る。その数約1万。
その他歩兵が2千。こちらは身体に傷のある人達が多くを占めている。彼らは聖戦による復活により負傷・疾病・障害などの状態異常から身体を回復しようとする、まさに死ぬことを求めにやってきた死兵だった。
「「みなごろしだー」」
「「処刑!」」「「処刑!」」「「処刑!」」
さらに周囲には妖精帝国から妖精族600。
それを統括する、八聖者であり炎術家≪殺し≫のミキ。
最後尾に十万のイカヅチを従える星降る光の剣を携えたケイン・スラッシュ。
そして回復職最高位、妖精族エアリ・スラッシュ。
「はは。だが忍者は汚い!」
その背後を突いてアジア・サーバーの盗賊職がエアリに斬りかかる。
それを弾いたのはディストピアの同盗賊職、メイドのリナ。
弾いた瞬間、ケインの剣が姿を見せた盗賊の足を切り裂いた。
だが、直接ケイン達を狙う盗賊職は一人ではないのだ――
壊される戦線。ディストピア主戦力へのダイレクトアタック。
戦いはいきなり終盤を迎えようとしていた。
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上空という利を捨てて地上へと降り立つジア・スルターナ。
降りた先には冒険者ギルドの七日野亜細亜と猫耳族のドーラ。
並び立つ両陣営のTOP。
亜細亜は魔術で四方に≪次元の壁≫を放つことで周囲との結界を形成した。
『ここは私でジアを抑える。私とシアの姿が同時によく見えるようにな。エセネアくんは南側の軍に対応願えるかな』
すでに≪次元の壁≫によって周囲との会話はできなくなっているため、会話での指示を飛ばす亜細亜。
「よし! ギルドマスターが今ジア・スルターナを抑えている。我々は敵軍に対応せよ!」
熊のような大男、エセネアはアジア・サーバ側のメンバー立て直しのため力の限り周囲を鼓舞し叫んだ。
次回作始めてます。こちらから→ http://ncode.syosetu.com/n5694cx/




