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魔王になろう(本当の異世界を少女と歩むMMO-RPG)  作者: Tand0
Saga 4 砂丘トトリーの戦い
49/52

みなごろし

「いや……、いやぁ――」


 取り乱すジアをネームは制した。


「この程度で魔王が死ぬわけがないであろうが。ばか者ッ。さっさと≪瞬間転移≫でここに魔王を連れ戻して来い。ジアは――異世界に行ったことがあるんだろう?」


「あっ――。あー。そう、よね……」


 よろよろと立ち上がりジアは空気中の何かに右手を這わせ≪瞬間転移≫のショートカットをクリックしようとして――


「いやまて」


 言ったそばから止められる。それにびくりとジアは身体を震わせた。

 あることに思い至ったジアはこれからネームがすることの予想がなんとなく付いたからだ。


「いま、魔王は死にました。

 しかし、彼は実際には死んではおりませぬ。

 魔王の術によって、各人が故郷とする場所(セーブポイント)に戻っただけなのです。

 この術は人間にも掛かる。そのカラクリによって来週のその空間では人も生き返るわけです」


「そんなこと、信じられるか」


「えぇ、それは魔王であったから復活するのだ、実は人は死ぬのだ。とかだったら困りますよね? ジア。こちらに両手を広げて立ってくれないかな」


 いわれた通りジアはネームの前に立つ。

 胸に突きつけられた、血に塗れた錫杖。

 何をする気か、周りの人全員が分かる。

 ジアにはその想像が確信に変わる。


「証明してみせろ。そしてすぐに戻って来い」


 その杖をネームは勢いよく突き刺した。


「分かり、ま…」


 言葉を最後まで発することなく消えるジア。

 「ひぃ」などという将校にあるまじき悲鳴。ざわめきが起きる。


「どうだろう。ジア姫の命と引き換えに騎士1万の命は貰えないだろうか。それも生き返るのだ。安いものだろう?」


 ネームは冷酷な笑みを浮かべた。


「本当なのか……、だが、しかし――」


 戸惑うソラ・ウェイバー将軍。


「はは。面白いではないか。ソラ・ウェイバーよ」


 口を挟んできたのは将軍ソラ・ウェイバーのさらに後方。

 貴賓席に座る現エンパイヤ皇帝。


「あわよくばその、何といったか、空中庭園を我らが物にできるわけであろう?

 それにその戦争では人は死なない。つまり負けたとしても軍は無傷のままということだ。こんなお気楽な戦いがいままで帝国にあっただろうか。

 しかし、ふむ。それでは体裁が悪いか。

 『ただ一人の小娘を助けるため、帝国陸軍騎士が一丸となって強大な敵と立ち向かう』あたりの方が話としては面白いか。吟遊詩人どもに与える餌としても良かろう。そのあたりはソラ・ウェイバー。適当に創作しろ」


「はッ。ジア姫、命がけの説得劇。さぞや大作になりましょうぞ」


 そこに魔王がジアに抱えられて中央に再転位してくる。

 安堵する声。

 なぜか二人の顔が赤いのは気になるところだが、死んでも生き返ることができるということは確実に伝わったのではないだろうか。


「人が死なないということはこれで明らかだな」


「PvPモード期間中はこの復活状態が空中庭園での戦闘に参加したもの全員に掛かる。欠損などの状態異常も治るからお得だぞ。ただし、めちゃくちゃ痛いがな」


 苦しげな表情で魔王は胸を摩る。ジアと魔王の身体は服までも再生していた。


「欠損などの状態異常も治る、だと――」


 将軍ソラ・ウェイバーは驚く。

 そんなことがありえるのであれば利用しない手は、ない。


「よろしい。ならば帝国陸軍1万の兵を持って事に当たる。日時は7日後、帝国大演習場から転移ということであったな。者ども、取り掛かるがいいッ。帝国陸軍兵士の勇士を異世界の連中に、エンパイヤ皇帝に捧げるのだ! 解散!」


「「おぉーー」」


 そして、後に「砂丘トトリーの戦い」と呼ばれる新たな歴史の1つがここに刻まれ始めるのであった。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 時は少し戻る。


 タッキーこと俺が目を覚ますとそこは暗い寝室の中であった。

 動こうとするが動けない。

 俺は両手両足を拘束され、頭には良くわからないヘッドギア、胸には心電図に使うような電極がいくつも貼り付けられている。


「やぁ、タッキーお帰り」


 ベットの横には、中二の美少女ちゃんが座っていた。


「なにこれ」


「僕らは亜細亜くんやジアちゃんのようには『飛べ』ないのです。だから向こうの世界には意識だけ飛ばしているのです」


「まんまVRMMO-RPGができるんだな『魔王になろう』って」


「各種装置の値段が高すぎるから商用化ベースには乗らないのですけどねー」


 そうして喋っているうちに俺は起き上がる前の状況を思い出す。


「まずい、速く戻らないと――」


「あれ? 死に戻りだったりとかするのです?」


 自称中二の美少女ちゃんの瞳が怪しく光る。

 そして舌なめずりをしてにじり寄ってくる姿。

 右手に握る小さな錠剤のカプセルを見て俺は呻いた。


「まさか、またキスとかするつもりなんじゃないだろうなー」


「ふふーん」


「ちょっと待ったぁぁぁ!」


 とそのとき、寝室入り口の扉が開かれた。

 明るい光が寝室に差し込む。

 ぜいぜいと息を切らしながら発せられる声。

 ジア・スルターナの姿。


 あ。ジアちゃん凄く怒っているように見えるのは俺だけだろうか?

 これはちょっとマズイかもしれない。やろうとしていた行為、身体の接触。言い逃れができるようにはとても見えない。


「やばい。浮気の現場が押さえられたのです。どうしようタッキー」


「浮気じゃねぇ!」


 それからいろいろあり、ジアちゃんを宥めすかしてようやく帝国陸軍大会議場に戻ったわけだが、俺がどうやって再び眠らされたかについては非常~に恥ずかしいのでここでは語らない。

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