男は黙ってパフェを食え
「で、タッキー?」
バーン。
席から立ち上がり私はタッキーの机に両手を置き、タッキーを睨み付ける。
少しだけ怒りの表情。
周囲はその動作に釘付けだ。
「放課後ちょっと私と付き合ってくれない? 駅前の喫茶店とかどう?」
「えーっと。ことわ…」
パターンとしてタッキーが一旦断ることは予想ができている。
私は第2の手を走らせる。
「じゃぁ大崎くん。今後の方針についてちょっと――」
「え、俺?」
驚いた顔の大崎君。名づけて当て馬作戦。
失敗してもアジア鯖の進行の話をすれば良いし、問題ない。
ま、彼には悪いんだけれど。
「くっ……。分かった。俺が行く」
当て馬作戦は成功したようだ。
「ありがとう。そんなタッキー好きよ」
踵を返す私。にやけた顔を見せないように。
ざわざわ…。
それを見ていた周囲のひそひそ話が始まろうとしたとき、タイミングよくチャイムが鳴り午後の授業が始まった――
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放課後。喫茶店――
いくら狭い店内だからといっても、4人座れるテーブルで対面ならともかく横に座るのはないのではないだろうか。
いま、俺の隣には俺好みの美少女。亜細亜ちゃんがそこにいた。
「ちょっと、いくらなんでもいきなり横座りとかデートじゃないんだから……」
「しょうがないでしょう。あんなにゾロゾロ人が付いてきたらないしょの話とか、いけない話とか近くじゃないとできないんだから――」
「そりゃ、あんな派手にお誘いなんてしたら隠れて付いてくるのは当然だと……」
ふと首を振る。見知った顔がサッと顔を伏せた。
バレていないとでも思っているんだろうか。
そこの大崎。笑ってんじゃねぇ。
「少しは見せ付けようとかいう甲斐性はないの?」
「ないない。で、ジアちゃん。今日はどういうドッキリなの?」
「えーっと、なら、単刀直入に聞くわね」
ジアはずいと迫る。
「私とどこまで進んでいるの? 酷いこととかしていない?」
「は? ジアちゃん? もしかしてジアちゃんって別人?」
「遺伝子レベルで同じですけど?」
「ん? 双子か何か?」
しかし、ジアちゃんは公爵家のご令嬢で双子とかいった設定はなかったはずだ。
「まぁ似たようなものね」
しかし、返ってきたのは肯定の言葉だった。
そして囁く。
「もしかして、もう私とエッチとかしたの?」
「してねぇよ!」
思わず立ち上がる。
周囲の視線が一気に俺の元に向かうのを感じた。
そしてひそひそ話しをされる。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。そして、後でどんな尾ひれが付いて学内をゴシップが駆け巡るのか分からないのが怖い。
ジアちゃんが俺の袖を引っ張る。
引き寄せられるように俺は顔を真っ赤にしながら再び座る。
「よかった。安心したわ。タッキーがへたれで」
「へたれで悪かったな」
憮然とする俺にもジアちゃんは動じない。
俺の腕を抱え耳元で囁く。
「私はね。タッキーに酷いことをされたことがあるんだ。何度も何度も――。だから、今度は――今度は、絶対に酷いことをするとかやめてよね。もししたくなったら私に言ってよ。替わりになってあげるから」
「ん? 替わるって何を?」
私に言ったら何が起きるのか。事案か?
戸惑う俺に対して、亜細亜ちゃんは睨みつけてくる。しかし周りからは見詰め合っているように見えたのかもしれない。
「お持ちしました」
そんな2人に喫茶店の女店員がパフェを持ってやってくる。
そして二人の前に置いた。
「でかい。」ごくりと喉を鳴らす。
あぁ、もちろん喉を鳴らしたのはパフェに対してだとも。
横にいる亜細亜ちゃんのことではない。
「ではごゆっくり」
いい笑顔で女店員は去っていく。
きっと二人を彼氏、彼女とでも思っているのだろうか。
スプーンとストローが2つある。
ジアは俺の手を放しゆっくりと立ち上がった。
「言いたいことはそれだけ。あ? 驕りだよね? 私何も食べてないのだから」
「あ、俺お金あんまりないんだけど……」
「んー。じゃぁ今度お仕事あげるわ。ようこに話を通しておくから、後でコールして」
「ようこって誰?」
「GM3」
「あぁ、あの中二の美少女ちゃんか――」
そして彼女が立ち去った後。
でかいパフェを前に、これどうしようか。
と頭を悩ませる俺の姿があった。




