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魔王になろう(本当の異世界を少女と歩むMMO-RPG)  作者: Tand0
Saga 4 砂丘トトリーの戦い
30/52

少女とお風呂

 スラッシュ公国迎賓館――


「はーぃ。それでは二次会を始めたいと思いまーす!」

「ちょっ」


 おれはビールを片手に乾杯の音頭を取ろうとしていた。

 その迎賓館にはごく少数の男女しかいない。


 公王ケイン、嫁のエアリ、パティ、サナ。メイドのリナ。妖精さんたち、そして、なぜか私ことロージス家の娘、アートだ。


 言い換えよう。1人の男とそれ以外の嫁と女しかいない。

 私はこの場にいていいのだろうか。

 いるだけで何かされそうだ。


「ちょ、ちょっとー。あんな緊急事態なのにそんなことしてていいの!

 ジア姫がかどわかされたんですよ!

 ケイン! あなたの花嫁の一人なんでしょう!?」


 パティが怒るのはもっともだと思う。


 だがしかし。


「それじゃー、スペシャルゲスト入場です! 魔王ロロ様と嫁のジア・スラッシュさんでーす!」


 それを見越したかのごとく左手の指を鳴らすと2人の女性が現れた。


「どもー」「こんばんわー」

「はぁぁぁぁ」


 パティは目を丸くして驚く。

 私だって驚いた。


 1人は、ジア・スルターナあらため、ジア・スラッシュ。

 もう一人は、魔王ロロ――


 驚くな、という方が無理である。


「いやぁ、ジアちゃんの身を自由にするにはあのくらいやらないと、ってアートさん他言無用ね」


 当然のように口止めされた。それはそうだろう。


「あのぉ、すみません。私こう見えてもエンパイヤ帝国のものなので報告しないわけにはー」


 だが、ロージス家でも下の方の家臣である私は、報告しないわけにはいかない。


「あーせっかくのジアちゃんの空間魔術を使った利権がなくなるとか、ロージス家も残念だったねぇー」


 極めて残念そうにドヤ顔で返すケイン。


「あれ? こんなところにジア様がいるわけないですわよね。きっと目の錯覚だったわね……」


 速攻で私はは利権のために簡単に裏切った。――振りをする。


 表立っては言わないが、裏では知らせる方向だ。

 裏の情報として、あらかじめ上層部にインプットを入れておかないと、可能性すらつぶしておかないと大変なことになる。


 なにしろここには魔王ロロまでいるのだ。その存在が知られればうかつに手は出せない。それは、そもそも、公式に妖精帝国の属国となったスラッシュ公国には簡単には手が出せないのだが、それに輪をかけて困難になった、ということを意味する。


 それを知らず、もし何かあって戦争とかになったら――


 攻撃に魔王を使い、補給路はジア様を、側面支援には妖精帝国の妖精族(フェアリー)群、さらに、パティのように精霊魔術師であれば大抵は妖精族(フェアリー)の味方であろうから、エンパイヤ帝国内の魔術師はほぼスラッシュ公国に回る可能性がある――

 そもそもケインを中心としたパーティーだって、ドラゴンすらものともしない強豪なのだ。それを披露宴という場で見せ付けた。だいたい普通はドラゴンなんて倒そうと思うほうが馬鹿馬鹿しい話である。


 しかし裏の情報を流せば、諜報に長けたスルターナ家がそれを知りえないはずがない。そうなったら――今から胃に穴きそうなその神経戦を私は容易に推測できた。


 まさか、そこまで見越して私をこの場に呼んだの?


「それじゃ、改めましてかんぱーぃ」

「「かんぱーぃ」」


 ケインは私の心配などまったく気にかけない。暢気に盃をかかげる。それに併せて他の皆も今度は盃をあわせた。


 私はそれを厳しい視線で眺め続ける――


「さぁて、宴もたけなわということで! ついに今日は初夜ですよ――」


 そしてケインは本日のメインイベントを宣言するのだった。


「アートさん、逃げましょう。メキド共和国の案内をお願いしますねッ」

「ふむ。規程路線だけどね。ジアちゃん。ちょっとくらいは――」


 手招きするケインだが、当然のようにジアは避けた。


「逃げましょうッ」


 私の手をとるジア姫。


 でもまぁ、いまは味方だしね――

 なにかあっても、ジア姫が味方ならなんとかなるだろう。


 そんな甘い考えを描きつつ、私たちは文字通り姿を消した。



 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・



 メキド共和国――


 南方であり温暖な気候の土地柄でエンパイヤ帝国とはゆるい敵対関係にある。

 しかし政治的な政闘とはうらはらに、民間では意外に仲がよく、商人を中心とした交流はそれなりには盛ん。


 エンパイヤ帝国の中心に近いロージス公爵家ではあるが、さすがに交易を主な生業とするロージス家であって、メキド共和国にも支店をいくつか持つ。

 もし戦争になった場合には主家と断絶状態になり、回復すればまた元に戻る。戦争が起ころうが起こらなろうが関係ない。そんな関係、らしい。


 らしい、というのも俺がジアちゃんから聞いたまたぎきだからだ。

 ちょっと前までは「ふーん。GMちゃん設定がんばってるなぁー」程度で聞き流せたのだが、今となっては「結構複雑な政治情勢なんだねー」と頭を働かせるなければならないのが辛い。なにしろそこに嫁がいるのだ。


 そのロージス公爵家の庇護を受けたジア・スラッシュは、冒険者までに身を落としつつも、ロージス公爵家にはなくてはならない人材として重宝されている。


 空間魔術。

 やっぱり戦闘力は皆無の地雷的な魔術ではあるが、こと運輸に限れば便利だ。


 いろいろな経緯のもと、嫁をエンパイヤ帝国には行けない身体にしてしまったが、空間魔術によってジアちゃんは簡単に一人での生活基盤を作り上げ、それなりに楽しい生活が送れているのではないかと思う。


 ――今度はいろいろ発明とかしてみようか。

 次のイベントを考える。


 ほら、他の異世界トリップものと違って、こっちには「インターネット」という強力なアイテムにアクセスし放題なんだから、どんな変なものでも時間さえかければ導入できちゃうんだぜ。みたいな。電波でも発射してみようか? スマホでも作ってみる?

 最近の俺はどうにも「魔王になろう」の世界にどっぷりと浸かっているようだった。


「それで、私が再びそっちに行っていいのは3週間後ですの?」


 夜の空を杖で散歩しながら語りかけるジアちゃん。

 心なしか悲しそうだ。


「あぁ、そうなる。それから土日も夜しかログインできないな……」

「どうしてこんなことに――」

「――ジアちゃん。君のせいでしょ。バイトして君のために服買わないと!」


 裸は困るんだよ俺が。いろいろと!

 目のやり場に困ってしまうというか、理性が持たない。

 真の魔王になって自称中二の美少女(GM)に笑われたくない。


 しかし、恥ずかしがるような声を出す俺に、ジアちゃんは俺をからかいたくなってきたようだった。


「いいじゃない。裸くらい」


 この爆弾発言である。


「いやいや。だめだよ。まずはコスプレから始めてだなぁ」

「コスプレ?」


 いかん、無垢な少女を闇に落とすような行為をしては――


「ほら、まずは付き合うならソフトなのから始めたいと。なにこのパフパフ抹茶ラテを食べようと思ったら今だけ1080円こだわりぎっしりパックが来た、みたいなのは困るわけで」

「例えがわかりませんわ」


 く。俺もわけがわからねぇ。

 困ったときの某ファーストフードチェーン押しは効かなかったようだ。


「えーっと、そうね。ケーキは別口みたいな?」


 それだとまるごと喰っちまいそうなんですが。


「ふふふ…。私は≪瞬間転移≫スキル説明文の『アイテム/装備品は持ち込めない』あたりで覚悟していましたけど?」


 彼女覚悟きめちゃっているんですが。

 こう、頼めばOKな状態なのだろうか。

 例えば、夜の寝るときだけこっちに来てよ、とか。


「大体ね? いつも私の裸なんて見飽きているんでしょう?」


 突然俺に冷や水を掛けるような言葉を投げかけてくるジアちゃん。

 そして冷たい視線。やめてほしい。


「私、知っていますのよ。

マスターがこっちの世界を見ているときは矢印(マウス)が動くんですもの。

見ているんですからね。お風呂でも胸のまわりとか動かしているの」

「あわわわわ。いやいや画面越しと直接とじゃぜんぜんちがうじゃん」

「つまり、認めるのね」


 く、墓穴を掘ってしまった。


「いやらしぃ」


 そういいながら矢印(マウス)をつつく嫁の姿がすごく色気があって、その艶かしさにくらくらする。


「って、服買うんだがジアちゃんサイズどのくらい?」

「えーっと、メートルでしたっけ? 基本となるものがここではちょっと……」


 そういえばジアちゃん。なんで日本語話せるんだ? メートルも知っているし。


「なんだったら、今からそちらにいって、採寸を――」

「却下」

「ふぇぇ……」


「とりあえず、最初に大き目の服を買っておくから。それからまずは買い物だな」

「うれしいです。本当の二人でのデート、ですよね」

「お、おおぅ」


 デートという言葉に動揺する俺。


「でも最初の服って、大丈夫なの女物でしょう?」

「大丈夫だ。アマ○ンで買うから。

 そして、ブラの着かたとかも任せろ」


 俺が下着についてインターネットで詳しく調べるからッ。印刷だってして手渡しちゃうから。

 が、ジアちゃんにはなぜかオキにめさなかったようだ。


「……。いやらしい」

「あぁぁぁ―――」


 そんな感じで今日も夜がふけていく――

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