絶望する少女にトドメをさせ(後編)
私はいつの間にか眠っていた。もう昼過ぎだ。それも夕方近い。
こんな時間まで寝ていたとしても、だれも私を起こそうとはしない。
寝る前に聞こえた声。あれは何だったのだろうか。
寝ぼけた視点を戻したとき、私は驚いた。
目にする空間にびっしりと、魔法陣が浮かんでいたのだ。
『ほう、これはこれは……。自称中二の――じゃない、GMがんばったねー』
また、どこかから分からない所から声が聞こえる。
今度ははっきりと。男の声だ。
右下の魔力で作られた四角いボックスに魔法文字が走る。
私はなぜかその文字が読み取れた。いまの『言葉』と同じセリフだ。
「貴方はだれ?」
空間に問いかける。
その言葉は吸い取られるようにジアの発言として先ほど走った魔法文字の下に書き込まれた。
『俺は魔王。火炎剣のタッキー』
「魔王? 人々を闇に落とす邪神ではなくて?」
『あんなのと一緒にするなよ』
「あ、ごめんなさい……」
不用意な発言でどうやら怒らせてしまったよう。
『それで、これから何をすれば良いんだ? システムのマニュアルとかないの?』
「……さぁ?」
答えられるはずがない。
システム? マニュアル? 私には単語すら分からなかった。
空中に浮かぶ四角形の魔法陣群。
魔王によって、なんらかの力を得たのは分かるのだが、それが何を意味するのかが分からない。
『あ、あるじゃんステータス』
「あ……」
≪魔王≫が何かを操作する。
さらに新しい四角い魔法陣が現れ、そこに魔法語が浮かび上がった。
なぜか、その字もジアには読めた。
「なんでしょう、これは?」
『これは君のステータスだね』
『名前:ジア・スルターナ
HP:30/30
MP:10/10
SP:10/10
種族:人間
性別:♀
職業:未設定
ジョイント:貴族/王族 Lev.3
称号:スルターナ公国第一公女
ハートフルポイント:100 (※0でBAN)』
数値がずらずらと並ぶ。しかしこれはどうにも――
「なんでしょう、これは?」
『君の、今の力?』
「私のステータス、低すぎ?」
『えーっと……』
悪魔に魂を売ったにも係わらず私にはこの程度しか能力が無いのか。
悲しくなる。それは私が弱いから仕方がないのだろうか。
『いや、ちょっと、これは初期ステータスでぇ、成長すればきっと……』
「成長?」
なんだか慰めてもらっているようだが、気休めにもならない。
『えーっと、俺もこの世界って始めてで……、わーん助けてぇ、ドラ○○ーん!』
見えない魔王が何かを叫ぶ。
ドラ○○ーんとはいったいどんな魔法なのだろう?
「はいはいーい。こんばんわー。僕登場なのです。さっそくログインしてくれてタッキーありがとー」
次の瞬間、気づくと見知らぬ亜人の女の子がジアの隣にいた。
やはり何かの魔法だったようだ。
『ぎゃー。GMが出てきたー』
だが、魔王も驚いているようだ。
あれ? 魔法と違うのだろうか。
「だってちゅーとりあるだもの。そりゃでてきますよー。クローズドベータ限定だけどねー」
「いつのまに……」
私は亜人の存在がいつそこに現れたのかさっぱり分からない。
「あぁ、ジアちゃん安心して。危害を加える気はないから。
この度は契約してありがとうね。
僕はGMだよー」
ゲームマスター? ゲームの支配者? 意味が分からない。
『しかし、GMの姿格好、完璧すぎて吹いたw』
狐の耳に七つの雄。巫女服。
頭には緑、白、青のトリコロールでGMという大きな魔法文字がぐるぐるとゆっくり廻っていた。
なにか超越的な存在のように、思えなくもない。
「その辺はシステム担当の木森くんががんばったのです。モーションなんとかいう設定?」
『へー(棒』
「じゃ、チュートリアルを始めるよ。GMがチュートリアル直接するとか普通はないんだから、畏れ敬ってよねッ」
『はいはい――』
魔王はGMに従い、チュートリアルというのを始めるようだ。
これから何が起きるのか。
ジアは期待に胸を膨らませた。