好きだよ。マスター
「おぉぉー。なんじゃこりゃぁーー」
俺の思考は、そこで止った。
嫁として褒めまくった、褒められてすっかり出来上がっている女の子。
俺誤のみの、金髪碧眼ロリ巨乳属性の女性。
自分を好きな少女。
それが全裸で俺の前に、いた。
異世界から、トリップしてきた。
なんじゃこりゃー、としか言いようがない。
え、まさかあれ、ホンモノの異世界だったの?
いや、確かに触れ込みは「本当の異世界を私達と一緒に旅してみませんか?」だけどさ。まさか本当に異世界だとは思わないじゃない。
いや、『魔王になろう』の画面は確かにめちゃくちゃクリアで本当の異世界っぽかったよ。
いや、『魔王になろう』のAIの受け答えは本当に生きているんじゃないかって思ったよ。
いや、『魔王になろう』の嫁の表情は本当に可愛かったよ。
うん。でもまさか本当にホンモノだとは思わないじゃない。
『魔王になろう』の画面を見る。
なぜかケイン君たちがドラゴンと戦っていた。
長期戦になりそうな雰囲気だ。
わけがわからない。
いや、そんなことしている場合じゃねぇ。
ササとか食ってる場合じゃねぇよ。
「魔王。やっと会えた。やっと会えたよぉ……」
ぼろぼろと涙をこぼしながら上目使いで訴えるジア。
「魔王なら出来ると思ってたんだよ。異世界への≪瞬間転移≫。私、魔王に会いたくて、会いたくて――」
「ちょ、ちょっと待て――」
そのまま椅子から転げ落ちる。
2人して倒れこんだ。
俺が押し倒すような格好になる。
ヤバイ、これはヤバイ……
心臓の鼓動が速くなるのが止められない。
これはどう見ても、犯罪だ。
「とりあえず服着よう。服な……」
取りい出したるは男物のYシャツ。だってそれしかないんだもの。
着せてみることをシミュレートしてみる。
「やばい、よりエロさを感じる」
タンスを漁る。とりあえず気やすそうなジャージを発見。
ださけりゃエロさは少しは減るだろう。
「これとかどう」
渡す。俺は後ろを向いた。
PCの『魔王になろう』のウィンドウを見る。
戦闘は終わったようだ。
倒され、血抜きされるドラゴンがとてもシュールに見える。
GM3『おーぃ。見てるぅー?』
GM3『おーぃ』
GM3『タッキー大丈夫ぅ?』
メッセージウィンドウに自称中二の美少女の書き込みがあるのを見つけた。
タッキー『うへ、助けてよ。うちに、うちに超絶美少女が光臨してー』
GM3 『へー。よかったじゃん』
タッキー『うん、いいんだけど。いや良くなくて……』
「魔王。着ましたけど?」
「あ……」
裸のジアちゃんを見るのは犯罪臭がしてヤバイ感じだったが、服を着せたことでようやく落ちつ――
「あの、そんなにじろじり見られると、恥ずかしいです……」
落ち着くわけがなかった。
特にジアちゃんは下着を着ていないのだ。
ジャージは、身体のラインがはっきりとわかる。
恥ずかしがって身じろぎする姿がエロすぎた。
タッキー『大体なんでこんなことになっているんだよ。ゲームの世界は実はホンモノの異世界でしたとか俺、聞いてないんだけど!』
GM3 『そんなことないのです、最初から言ってるのです。それこそあらすじの第1行目からなのです。ほら見てみてよあらすじ! そうすればPV1個増えるし』
自称中二の美少女はPVを稼ぐのに必死だった。
タッキー『いやそうだけど、いやそうじゃなくて――』
GM3 『で、召喚されたジアちゃん襲わないのです?』
タッキー『誰が襲うかぁ。ケダモノかよ。こういうのは順を追ってだな――』
さすがにいきなりとか躊躇われるだろう。
GM3 『姫が魔物に攫われ、なんとか戻ってくるものの、なぜか身ごもって帰ってくる。ほぉーら、状況的にみんな察して許してくれるから大丈夫だぜッ』
タッキー『ぜんぜん大丈夫じゃねー。そのストーリーだと俺が黒幕で超犯罪者じゃないですかぁー。外国産鶏肉を国内産と偽って販売するより酷いよ』
GM3 『そこはほら。GMから一言。魔王になろう?』
タッキー『その魔王ぜったいタイトルが想定していた魔王とちげ――』
GM3 『じゃぁ勇者?』
タッキー『だめだこいつ、だれかなんとかしろーー」
「ふーん、私のこと、こんな画面で見ているんだ……」
身体を寄せ、興味深そうにディスプレイを眺めるジアちゃん。
ちょ、ちょっと近いって。
「じゃ、ちょっと戻ろうかな。私はもう『一度でも見た』し。ばいばい。また会おうね。魔王」
そういって俺の頬にキスをしてからディスプレイの≪瞬間転移≫のアイコンをつつく。
何か不穏な言葉を吐きつつ。
なに「一度でも見た?」だと。家政婦かよ。
いやまて、一度でも見たってことはジアちゃんは何時でも自由に「ここに」に≪瞬間転移≫可能ってこと?
「あれ? 飛べない?」
つんつんディスプレイを触るジアちゃん。
いや、そりゃ無理だろう。
キスした反動か顔が真っ赤で、かつ、なにかすごく気まずそうだ。
「いや、そこはマウスで動かすんだよ」
俺がマウスを右手で動かすとジアちゃんも右手を合わせてきた。
胸が背中に押し付けられる。
その姿に俺はドキリとする。
「じゃ、今度こそばいばい。好きだよ、魔王」
ボタンがクリックされる。
その瞬間、ジアの姿は現実から消えた。
その場にはひらりと落ちるジャージが残されるのみ。
「なんだったんだ? 一体――」
1人の部屋。一瞬、全てが夢だと思えてくる。
ただの気の迷いかと。
だが、そこに金の長髪が数本落ちているのを見る。
俺は現実に引き戻された。




