少女への追跡を阻止せよ
「おぃ! そこで見ているのは分かっているんだ魔王!
さっさと、根性決めて押しやがれ!
でないと、この俺が、このジア・スルターナの全てを奪うぞ!?」
そう俺が叫んだ瞬間。
ジアの姿が掻き消える。
『あー。やっと行ったか』
『良かったねー。ケイン君おつかれー』
事情を知っているエアリとケインは、身体では驚愕を周囲に見せながらも会話ではしみじみと労を互いにねぎらうという離れ業をこなしている。
『あとは後始末だよなぁ。どうすんだこれ――』
周囲の観衆はジア姫が突然消えたことに騒然となっている。
特に固まっているのはスルターナ家の者だ。
まぁ、無理もない。目の前で花嫁が粒子となって消え去れば。
『これ。「あー、ちょっとジア姫はシャイで逃げられちゃったんだ」とかいったら片付くかな? んまくく?』
『無理なんじゃないかなー。でもでも安心して。私の魔王が超絶フォローしてくれるって』
『うわ、嫌な予感しかしねぇ。てかエアリのマスターって、まさかの――』
急に辺りが暗くなる。
あれだけ明るかった空が雲に覆われ、いつのまにか曇天になっていた。
雷鳴が響く。
しかし雨は降りそうにない不思議な天候。
ウォォォォー
どこからか獣声が響く。その声はドラゴン――
BGMが戦闘的なそれへと変わる。
『ほら、ケイン君! ネタがキタよ、合わせて合わせて~』
「やはり見ていやがったか! 魔王!」
その背に乗るは人ならざる人型の魔人。
頭には赤・白・青の大きなGMの文字がトリコロール。
「『押して』推参する。我は魔王! 魔王、ロロ・イェンヘー・アスター」
周囲が阿鼻叫喚の混乱に陥る中、俺は辺りを静めるために叫んだ。
「下手に動くなぁぁ! それから不用意に攻撃もするなよ! ジア姫が既に囚われていることを忘れるな!」
動揺する兵士たちの動きがぴたりととまる。
いやだって、この魔王ロロって、エアリの魔王だし、下手に攻撃されて傷でも付けられたら俺が困るんだよね。
「く。ジア姫が自ら囮になって魔王を誘き寄せようとしたのが裏目に出たかぁぁ――(棒」
『こらケイン君、もっと感情込めないと!』
大げさにつぶやく。ここは完全にアドリブである。
エアリからの突っ込みが痛いが、そんなセリフすぐに思いつけるわけないじゃない。
「みごとな失敗だな。ジア姫は貰った。アレは魔王のものだ。返して欲しければ我が元にでも来るがいい」
魔王ロロはのりのりで合わせてくる。
「だがその前にこいつを倒してからだな――」
魔王ロロは消えた。ドラゴンを残して。
吼えるドラゴンは上空を一周するとケインに向かってきた。
慌ててアイテムボックスから星降る光の剣を取り出す。
ヴォン――。と攻撃的な音が響く。
「おぃ、最後は力業かよッ。エアリは≪羽≫を展開、パティは援護を!」
「「了解」」」
ドラゴンがブレスを放つ。
「妖精族は風盾を展開して周囲を守れ! その他は邪魔だ! 退避しやがれ!」
ケインはその炎弾を切り落とし、群集を守るとドラゴンに向けて走りだした。
エアリの自然周期回復魔術が展開され、パティが風による防御支援に走る。
よーし、これでとりあえずうやむやになっただろうがぁぁぁ!
風の支援を受けて跳躍したケインが、ドラゴンに斬りかかった。
・
・
・
・
・
・
「その命ある限り、永遠の愛を尽くすことを誓いますか?」
「「誓います――」」
剣士ケインと4人の姫。
それぞれ色とりどりのウェディングドレスを纏い、挙式は進んでいた。
そして誓いのキス。
エルフの、妖精帝国の美姫であるエアリとのキスを終え、黄色い声の嵐の中、次はスルターナ家のジア姫の番となったとき。
事件は起こった。
ジア姫を抱きしめた後、周囲を見回すケイン。
何かに気づいたのだろうか。
突然ケインは叫ぶ。
「おぃ! そこで見ているのは分かっているんだ魔王!
さっさと、根性決めて押しやがれ!
でないと、この俺が、このジア・スルターナの全てを奪うぞ!?」
その瞬間。ジアの姿が掻き消える。
呆然と立ちすくむケイン。
エアリも、他2人の姫も、驚愕に目を見開いている。
そして急に辺りが暗くなった。
あれだけ明るかった空が雲に覆われ、いつのまにか曇天へ――
雷鳴が響く。
ウォォォォー
どこからか獣声が響く。ドラゴンだ。
それは不凶を運ぶ死の象徴。
「やはり見ていやがったか! 魔王!」
そのドラゴンに向かって叫ぶケイン。
いや、精確にはドラゴンではなくその背に乗るもの。
漆黒の髪に黒の瞳――それは魔人だった。
「下手に動くなぁぁ! それから不用意に攻撃もするなよ! ジア姫が既に囚われていることを忘れるな!」
ジア姫はこの魔人に連れ去れたというのか。
その手段をケインは知っているのか?
「押して推参する。我は魔王! 魔王、ロロ・イェンヘー・アスター」
その魔人は、自らを魔王ロロと名乗った。
「く。ジア姫が自ら囮になって魔王を誘き寄せようとしたのが裏目に出たか――」
やはり手段をケインは知っていたのか。
「みごとな失敗だな。ジア姫は貰った。アレは魔王のものだ。返して欲しければ我が元にでも来るがいい」
だが失敗したようだ。
そういえばジア・スルターナ姫の別名は≪天空のシロ≫。
その空間魔術により魔王に対して何かできるのかもしれない。
スラッシュ公国は魔族領を西隣に持ち、かつ近年かなりの量を分割している。魔王から反感を受けるのも無理はない。
そんな魔族との争いの中で、ジア姫は何らかの手段により囮となって魔王を誘き寄せ、何かを行い、そして失敗、捕まったということなのだろう。
「だがその前にこいつを倒してからだな――」
魔王ロロは消え去る。ドラゴンを残して。
吼えるドラゴンは上空を一周するとケインに向かって突撃してきた。
ケインは異次元から自らの剣を取り出す。
それは十万の雷を従える無敵の剣だ。
「おぃ、最後は力業かよッ。エアリは≪羽≫を展開、パティは援護を!」
「「了解!」」」
「妖精族は風盾を展開して周囲を守れ! その他は邪魔だ! 退避しやがれぇぇ!」
ドラゴンがブレスを放つものの、ケインはその炎弾を切り落とし、群集を守る。
エアリが精霊の巫女が有する自然周期回復魔術を展開し、パティが風による防御支援に走る。
風の支援を受けて跳躍したケインが、ドラゴンに斬りかかった。
それは冒険者パーティが見せる見事な連携だ。
また、新たなる伝説が始まろうとしていた――




