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魔王になろう(本当の異世界を少女と歩むMMO-RPG)  作者: Tand0
Saga 3 少女と異世界を歩んだらこうなりました。
23/52

この岩はとてもいいわ

 妖精さんと行く、スラッシュ公国の鉱山近くの岩場。

 そこは旧魔族領のテリトリー。


 国王が冒険者時代だった――といってもまだ2週間前だが――ときに切り開いた土地であり時折魔物も現れるという危険地帯でもある。


 妖精族(フェアリー)は頼もしい。大地のゴーレムを始めとする精霊魔法。すごく強力。

 そしてなにより可愛い。そんなたくさんの妖精族(フェアリー)に囲まれて戯れてみたい。


 そう、昔私はそう思っていた。


 確かに1騎、2騎であれば良かった。心が洗われる。

 だけど、3騎、4騎と増えていき、10騎を超えたあたりからは感想が変わる。


 怖い――


 恐怖以外のなにものでもない。

 ぶんぶん飛ぶ妖精族(フェアリー)の群れ。

 数が大いと、それはもう単なる蟲の群れにしか見えない。しかも普通の虫とは違い、体長30cmとちょっと大きい。

 それが空を埋め尽くすがごとく縦横無人に飛んでいる。

 そして物凄い大きなブゥゥゥーンという羽音。


 スラッシュ王国の政変をなんとかしようと、妖精族(フェアリー)のエアリちゃんのツテから妖精帝国に行って。

 見てしまった妖精さんのあの数。

 1、000を超えるあの群隊。


 さすがに顔が引きつってもおかしくないよね。


 というわけで、今回私の護衛として妖精族(フェアリー)を付けてもらったけど、付くのは1騎だけにしてもらった。

 でも、妖精族(フェアリー)さん「1騎いればたくさんいる」というエンパイヤ帝国の格言は有名だから、姿が見えないように精霊魔術で身体を隠しているだけかもしれない。実際、エアリのときもそうだったようだ。これは師匠のミキから聞いた。


 実際、エアリさんの周りには大量の妖精族(フェアリー)が付いていたらしいし。私やケイン様が妖精帝国に行って簡単に話しがまとまったのもそれが理由だった。


 私は妖精さんと共に≪飛行≫術でその場へと降り立つ。


「この岩とかいいんじゃない?」


 妖精族(フェアリー)の護衛――名前はアリーナ――は、岩場の岩を指し示す。

 それは大きな岩だった。というか断崖絶壁だった。


「岩の採掘場としては良さそうね、ここ」


 均質な岩が上に向かって伸びている。どうしてこんな地形ができあがるのかさっぱりわからない。


「じゃ、やれるか分からないけどハリキッテ行きましょうか」


 私はアイテムボックスのウィンドウを開いた。

 そう、今回はこの岩を採取してアイテムボックスに大量に入れることが目的だ。

 意味が分からないが、魔王(マスター)がいうには攻撃用らしい。

 どうやら岩で攻撃するらしい。岩をアイテムボックスから取り出したら攻撃?

 意味が分からない。


 でも魔王(マスター)の言うことだから何か意味があるのだろう。

 いいえ、なんとなく想像はつくのだけれど。

 私は西部黒鉄器(なまくら)の錫杖を取り出し、≪飛行≫で岩場のてっぺんを目指した。

 それにしてもいい岩だ。黒光りしている。

 あっさり頂上に到達した私は、岩に触りながらウィンドウを操作する。

 大きな岩が一つ、一瞬にして消え去った。


「大地魔法?」

「アイテムボックスだよ」

「あぁ、空間魔法なんだ。ジアちゃん空間魔術師だものねー」

「ん? どうして私が空間魔術師って知っているの?」

「今だって飛んでいるじゃん。びゅーんって。羽もないのに空飛べるんならそれは空間魔術師だよ」


 羽があったら飛べるのだろうか? そういえばアリーナの羽は妖精族(フェアリー)の身体の大きさに対してかなり小さい。なんであれで飛べるんだろう?


「ん? あたいはこの羽で風系統の精霊魔術を操れるんだよー。だから精霊魔術の使えないところだと飛べないんだよねー。そんなところには行かないけどさー」


 じっと羽を眺めていたら解説してくれた。


 基本、妖精族(フェアリー)はおしゃべりだ。


 私はアリーナとたわいのない、そんな楽しい会話をしながら、岩場の岩をどんどんアイテムボックスの中にしまっていった。重さによる制限はないようだったが、数は1アイテム999個が限界だったらしく1アイテム目がそれ以上取り込めなくなったところで今日の冒険はお開きになった。戻りは≪瞬間転移≫で一瞬だった。


 岩場は、見事に平地になっていた。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 翌日。


『イェ━ヽ( ゜Д゜)人(゜Д゜ )ノ━イ!! ジアちゃーん。調子に乗ってるかーぃ!』

『はぁーぃ。魔王(マスター)。調子に乗ってまーす♪』

『いやー、それ乗っているの(てつパイプ)だからー』

『えへへー』


 旧魔族領だったスラッシュ公国の土地を妖精族(フェアリー)のアリーナと進む旅。

 スラッシュ公国の西端ではまだまだ凶悪な魔物がいると聞くが、いま≪飛行≫している場所は、ケイン君たちが大方の魔獣を倒したとされる所だ。


「入植は進んでいるみたいだねー」


 畑として柵だけが見える平地。

 そこに幾人かの農民の姿が見える。

 私が飛行しているのに農民が気づくと、農民の人は「おーぃ」と叫びながら手を振る。

 私とアリーナはそれに笑顔で答えた。

 距離が遠いから見えているかは分からないけど。


『≪瞬間転移≫で兵士さんとか農民さんの移動をかなり手伝いましたからね。以前は補給とかも全て手伝っていましたけど最近は補給路とかも整備されてきたみたいで……』

『補給の重要性はにほんじ――魔王の人ならだいたい理解できているからねー』

『最近は、≪天空のシロ≫とかも言われています』

『おー。二つ名じゃん。 すごいねー。えらいえらい』


 褒められて少し顔が赤くなるのを感じる。

 そこにアリーナが声をかけた。


「なにぼーっとしているのぉ? 見つけたよー」


 そう、今日は土曜日。

 ついにゴブリン退治の日が来たのだ。


「で、どうやってゴブリンさん倒すのぉー。あたいが火豚(ファイヤー)で焼くよー」

「いや、それをやったら私のモンスターを倒す訓練にならならいから――」


 上空100m。

 しかし、私には攻撃系のスキルはない。つまり攻撃手段はない。


 通常、まともな攻撃系のスキルのないクラスは地雷職と言われ、パーティなどでは呼ばれないクラスだそうだ。

 もちろん、今はメイドのリナや、ケイン君たちとパーティは組んでもらえるだろうからそれでいい。

 でも将来的にそうなるとは限らないからね。


 足元をのしのしと歩くゴブリン。しかし遠すぎてまるでゴミのような点にしか見えない。

 当然、私たちに気づいてはいない。


『相手が飛行したり、飛び道具があると使えない技なんだが、とりあえず上空から攻撃するには使えると思うんだよね』

『岩を上から落とす、ですか?』


 正解と思われる解答をクチにする。

 なんとなく岩を収集したときからそうじゃないかなーと思っていたのだけれど。


『ジアちゃん普通の攻撃力ないからねー』


 やっぱりそうだった。


「どうしたの? ジアちゃん?」


 アリーナには魔王(マスター)との会話は聞こえないので、私がぼーっとしているように見えるようだった。


「じゃ、ちょっとやってみますねー」


 上空でアイテムボックスを開く。

 そして岩を取り出す動作をしてみた。


「あ…」


 すると当然、岩は空中に存在しつづけることができず、ものすごい勢いで落ちていった。


『ま、ニュートン先生の万有引力の法則によると、落ちる速度はみんな一緒なんだけどね。だからものすごい勢いというのは間違ってはいるんだが――』


 どーん……

 大きな音が響き渡る。


『だが威力は速度二乗と、質量の積だからね。大きな岩であれば――』


 大地が震撼している。

 圧倒的な破壊がそこにある。


『ふははー。鬼謀を抱いて轢死しろ、ゴブリンどもめー』

『なにか可愛そうですわ』

『鳥虫獣害を起こすMOBなど死んで当然なのだよ、ジアちゃん』


 何が起きたのかまったく理解できずに死んでいったゴブリン。

 やっぱり可愛そうだが、まとめてどんどん倒したおかげか、急激に経験点が上昇している。


『このままどんどん倒していこうか。岩は――まだ998個あるね、ってどんだけ拾ったん』

『この前アリーナちゃんと頑張りました』

『あぁ、とりあえずの目標はJob.36ね。≪視線感知≫のLevel.5覚えて、やっぱり回避する手段がないと弓とか遠隔魔法とか持っている敵が来たときに狙い撃ちされるから……』

『はい!』


 やっぱり魔王(マスター)は私のこと考えてくれていたんだ――。


 その日、旧魔族領ではなにか岩のようなものを上空から打ち落としたかのような振動と音が、ずっと響き渡っていた。


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