お父様? ダメ、ですか?
『あー。やっぱ勝手にシナリオが進行しているよー』
自称中二の美少女が書いている本編通り、物語は一気に進んでいた。
エアリは自身の目の前に現れた妖精族にお願いし、ジアの≪飛行≫も駆使して妖精帝国まで連れて行ってもらい、行った先でケインは妖精皇女に直談判してスキルの情報などと引き換えにスラッシュ王国を攻めるようにお願いしたのだ。
そこから先は電光石火の動きである。
『やっぱ、メイドのリナちゃんの魔王である≪鶯≫くんが嫌がったのも納得だねぇ』
『どうされたのですか? 魔王?』
『いやぁ、剣士ケインくんって『魔王になろう』という小説のメインストーリーじゃん?』
『あの、GM (?)さんが書いている?』
そう、『魔王になろう』は基本自称中二の美少女が書いている小説を元にして作られているMMO-RPGだ。個人的に何かをする、とかであればともかく、その中心人物とともに行動するのであれば、小説の進行にあわせGMの意思によりイベントが進んでいくのは当然のことだ。
なるべく破天荒、なるべく面白く、リアルよりも雰囲気重視という小説のコンセプト。めちゃくちゃなのは仕方がないのかもしれない。
もっとも、≪瞬間転移≫や≪飛行≫についてはジアちゃんが固有で持っているものであり、シナリオ的には発動するタイミングとか相当変わっているはずで、そのあたりを醍醐味として感じろ、と自称中二の美少女ちゃんは言うのかもしれないが。
『そうそう、こんな風に全力で物事をおもしろおかしくしようとしているから、ジアちゃんとまーったり話ている暇がなくなっていくんだよねー』
『私は日々充実していて良いかと思いますけど?』
『充実って、戦争とかはやっぱりだめだよ。人死ぬし。やっぱり狩るならモンスターだよね』
『最初はゴブリンから始めて、最後は成長してドラゴンを倒す英雄、みたいな?』
『そうだよ。憧れない?』
『なれるのであれば、もちろん。でも私強くなれるのかしら。この前も魔王のサポートがなければ、≪瞬間転移≫を押して貰わなかったら死んでいましたし』
『そこはサポートするよ。そのための魔王なんだし、なんたってジアちゃんは俺の嫁なんだぜ』
というか、ジアちゃんが勝手に動かれて敵をズバズバ倒してもそれはそれで面白くない気がする。俺にボタン押させろみたいな?
『はい。ありがとうございます』
うっとりした表情を見せるジアちゃん。
尊敬のまなざし? 照れるぜ。現実にこんな感じでこんなかわいい娘に微笑えまれたらビビッて100m逃走してできる自信がある。
『なら、次の目標は――ゴブリン退治ですかね?』
『あぁ――』
『私、ゴブリンとか倒してレベルを上げたら取りたいスキルがあるのですよ』
『ほう、それは――』
『一般スキル。視線感知――です』
『ほほぅ、それはなかなか……』
俺はレベル5のスキル内容を見て納得の声をあげた。
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これを取ればついにアレができる。
そのときになったら、もしアレができたら、魔王を大いに驚かしてやろう。ジアはそんなひそかな楽しみを抱いていた――
『スキル名:視線感知
習得可能 Job.Level.15 (Level.5のみ35) / Skill.Level.5 (Level.4までパッシブ)
スキルを使用された場合視線を感知できる。視認数はDEX、視界はINTに依存する。
魔王の視線を感知するにはマウスが視認できなければならない。
視線を有しないものには無効。
- Level.1 視界内のみ。
- Level.2 遮蔽物無効。
- Level.3 距離無効。
- Level.4 ウィンドウ表示。即死系の超遠距離スキルを受けた場合に表示されるウィンドウと同じ。
- Level.5 視線感知後1クリックできる。一部の迎撃系スキルとの併用不可』
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スルターナ公国の首都、スルターナ城。
一体、我が娘は何をやっているんだ――
というか何が起きているんだ――
スルターナ公国が公王、ワリィ・スルターナは衛兵からの報告があがるたび、胃がきりきりするような思いを味わうことになった。
一つ。どうやら、息子の婚約者は隣国の王城を制圧したらしい。
一つ。どうやら娘は隣国スラッシュ王国を妖精帝国とともにスラッシュ国軍を攻略しているらしい。
一つ。どうやら、娘はスラッシュ王国軍を一瞬で無力化した挙句にスラッシュ王国の首都に凱旋してパレードまでしたらしい。
目を覆うような、とても信じられない内容ばかりだ。
「公王! 報告します」
「こ、今度はなんじゃ?」
またどうせろくでもない物だろう。ワリィは覚悟した。
「ジア・スルターナ姫様、ケイン・スラッシュと名乗る者を連れて面会を求めています」
「げほッ、げほッ。な、なんだとー。と、とにかく連れてまいれ」
「ははー」
どうやら覚悟が足りなかったようだ。
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「うむ。わしがスルターナな公王、ワリィ・スルターナじゃ、してそちは?」
「俺はケイン・スラッシュと申します。このたび、多方面からのご支援をもとにスラッシュ王国の国王となりました、いえ、いまは妖精帝国にいまは占領され受け入れましたから、スラッシュ公国の公王ですが」
「それはつまり……、クーデターではないかね? それとも妖精帝国による侵略戦争?」
「いいえ。違います」
「その根拠は?」
「スルターナ家の立場としてもクーデターや侵略戦争とするのは都合が悪いですよね? だから、違います」
「ふむ……」
確かにここまでジア・スルターナが係わってしまえばスルターナ家としてはクーデターなどと非難することはしにくい状況ではある。もしそう言えばジアやミキの存在により、共犯の汚名を蒙ってしまうからだ。
「ところで話が変わって。今回の件で俺はジア・スルターナ姫を大変気にいった。そこでだ、ジア姫を俺が娶ろうと思うのだがよろしいかな?」
「げほ。げほッ」
顔を真っ赤にするジア。
突然の話に咳き込むワリィ・スルターナ。
傍目にはジアが恥ずかしがるうら若き二人にしか見えない。
ジアを自分の身体に引き寄せるケイン。
見つめあう2人。
「もう……」
ジアは一瞬抗議するが、了承したように俯く。
「それから父上? 悪いんだが家臣団から農政に詳しいやつを何人か貸し出してくれないかね。その辺俺は弱くてかつ文官を大量に粛清したせいで大変なんだ。それからやるなら帝国の効率的な制度とか入れてもかまわんぜ――」
「誰が父上じゃ――」
「お父様? ダメ、ですか? 私、好きな人と添い遂げたいんです」
ケインの態度はかなり不遜なものではあったが、ジア姫の『好きな人と添い遂げたい』は、かなりのインパクトをもって父親を襲った。今までの経緯からしてもなにかあったことは間違いない。何があったのかはさっぱり分からないが。
「う……」
世間一般と同じく、父親とは娘には弱い生き物であった。
翌日。
ケイン・スラッシュとジア・スルターナ、ほか3人との婚約が発表された――
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その夜――
こんな会話が広げられたという。
『うまく行きましたねケイン様。話を聞き入れてくれてありがとうございます』
『ジアの事情は知っているからね。せいぜい良い防波堤になってやるさ。偽装とはいえ、エンパイヤ帝国の一公国と縁ができるなら十分見返りもあるしな。しかし「私、好きな人と添い遂げたいんです」かぁー。そのスキな人って当然俺じゃなくて、君の魔王なんだろ? 焼けるねぇ』
『はい……』
『うわぁぁぁー。俺もエアリに言われてえぇぇ~』
『しかし、なんでいきなり4人も結婚なんて発表したんです?』
『木を隠すなら森というだろう。偽装隠すんならいっそハーレムにしろやって、うちの魔王魔王が……。――ってすまん。俺も本当は好きだけど』
『なるほど……』
『その冷たい視線やめてー。というのと、エアリがぶっちゃけ怖い。君とエアリ*だけ*だと「実は本命わー」とかエアリに疑われるんじゃないかと。こう見えても、本命はエアリ一筋なんだぜ』
『そのエアリちゃん、何か言ってた?』
『頼む聞いてくれ。俺ぁ怖くてきけねぇぜ』
『はいはい――』
※ちなみに、実は修道院コースというのもありますが、ジアは気づいていません。




