戦闘(後編)
ちょっと話が戻ります。魔王サイドです。
登城するケインを見送ったあと、うちの嫁のジアちゃんとメイドのリナちゃん、殺しのミキ (笑い)、妖精族のエアリの4人は、スラッシュ王国の冒険者ギルド1階にある食堂で朝ごはんを食べつつ雑談モードに入っていた。
朝の早い冒険者のクエスト処理などが終わり、しかし今の時間帯は朝の収穫などを終えた農家などが食事に来ているような時間帯であって、やはり結構混んでいる。そんな中、繰り広げられれるガールズトーク。
話の中心はイケメンのケイン君がいかにカッコいいかだ。
いけない。俺嫉妬しちゃう。って俺の話されても困るがね。
『いやー、ケイン君ぷちハーレム状態でいいよねぇ』
『あら? では私がケイン君に対抗して、男の子集めて逆ハーレムでも作ります?』
『なぜそんなマゾいことをしなければならない。ジアちゃん嫁として最高なのにそんなことするわけないだろう』
男どもに群がられるジアちゃん。嫁をそんなところに放り出すだなんて――むらむらする。
しかし、今日のジアちゃん。変装という名目でだまs――たわけではないが、ツィンテールにしてもらったことで、さらにロリがかっていて可愛いな。素直にそういうと照れてた。
そういえば魔法使いの格好にも簡単になってもらったし、もしかしてなにげに好感度あがっているのだろうか?
「とかさー。あのとき無理やり私を奪っていたいったケイン君が――」
「「きゃー」」
放置しておけばどんどんへんな方向へと盛り上がりを見せる中、邪魔するヤツラがいる。
「失礼。エアリ様とお見受けしますが?」
それは数人の兵士。
(なんだこの、物語を引き立てるだけのアホみたいな連中は?)
なんでも、これからエアリのお父様に合わせてくれるとか、ついに結婚を――とかなんとか言ってエアリを連れ出そうとしている。怪しい。怪しすぎるぞこいつら。
基本的に妖精族は素直なのか、人が良いというのか、エアリはすっかり話を信じ、兵士たちにホイホイ付いていこうとする。
さすがに騙されやすぎだろう。
「お父様を紹介されて、そして感動の再開。結婚――。すばらしいわぁ~」
いや、うちの嫁も騙されていた。
お父さんジアちゃんの将来が心配です。って誰がお父さんだッ。
『ジアちゃん、エアリに付いていってあげなさい。感動のイベントを見逃すとかないよねー』
俺は騙されついでにジアちゃんについて行くように指示した。
騙されているとかジアちゃんに言って、もしジアちゃんの表情が変わったりしたら、兵士たちが気づかれたことに気づくかもしれない。
やはり天然ものは強いのだ。人工ものには適わないかわいさ。
「お願い、私も連れて行って。そんな感動のシーンを見逃したら私悲しいよ」
「うんうん、ジアちゃんも来てー」
『あ、リナちゃんには隠れて付いてくるように会話で伝えといて』
『あはーい』『リナ、付いてきてね』
兵士が何かアブナイ行動を起こしても、俺らには≪瞬間転移≫というスキルがある。逃走するのにこれ以上有効なものはない。だが、念のため盗賊クラスを持つリナちゃんを保険にしておく。
しかし、この会話。GMと俺とか、俺と自キャラ、自キャラと他キャラの間ではできるのだが、俺と他キャラとか、俺と他キャラの魔王かとは話ができないようだ。不便このうえない。
普通、MMO-RPGの醍醐味といったらユーザー間の会話にあると思うんだがなぜできないのだろう。今度運営に要望を出しておこうか。もしかしたらイベントとかこなせば出来るようになるのかもしれないが。
そして連れて行かれた先。
普通に城だった。
あれ? まさか普通に「お父様」に合えるのか?
なにそれ、俺ら単なる出歯亀じゃん?
兵士たちはどんどん進み。そして話もどんどん進み、ついに国王との謁見の間に入る。
そこで、王子と思われる男のどなり声が聞こえた。
(あーやっぱりな、ありがち、ありがち)
これはお家騒動系のイベントだろうか。でも自称中二の美少女ちゃん。さすがに直球すぎないかこれ?
「こやつ。魔術の力を用いて我らを守護する神聖なるエルフの姿になっているが、真の実態は違うということを俺は知っているぞ。すでに魔術師どもが確認済だ」
「あ? え!? ばれた? ばれちゃった? やばいねー。どうしようケイン」
「ちょっとまて、違う! エアリは魔族などではない!」
「女好きのお前は、南の領地街の女とでも乳くりあっていれば良いのだ。殺れ!」
「え? ケインに私以外の女? どういうこと?! ちょっとケイン――」
エアリの隣にいた兵士がいきなり短刀を抜き、エアリの心臓を――
『させるかぁ! ジア! エアリに触って!』
『あ、はい!』
ジアちゃんがエアリに触れた瞬間、俺は≪瞬間転移≫のアイコンをクリック。
「え??」
エアリとともにジアを≪瞬間転移≫させ、ケインに前に転送させる。
『あっぶねー。何考えているんだこいつら。エアリちゃん殺す気かよ』
『殺す気なのでは?』
理解が追いついてきたリナちゃん。
「なんだとぉ。高位転移魔術――」
第一王子が叫ぶ。
「近づかないでッ。転移術で腕とか持っていかれたくなかったら!」
リナちゃんが鉄パイプをアイテムボックスから取り出す。いや、MAG値が上がるのは分かるんだがいちいちソレだすのはやめよう。俺の黒歴史的に恥ずかしいから。
「西部黒鉄器だと! そのような酔狂な杖を掲げるお前は、まさか――」
「我が名は、帝国がスルターナ公爵家の第一王女、ジア・スルターナ!
あなた、むちゃくちゃすぎます。
こんな可愛い女の子が魔物なわけがないでしょう」
いや、ジアちゃん。その理論もむちゃくちゃなんだが。
というか、相手の人エアリが魔物とか言ってなくね? てか、妖精族って魔物なんじゃね? こっちの妖精族の扱いしらんけど。
「ふ。見えたぞ。ケイン! 帝国の令嬢を捕まえて女にすることで帝国の威を狩り、この国をのっとろうというのだろう?
名声を集め、住民からの支持を得ようとしたのはこのためなのか?
お前ら、この裏切りものを切り捨てろ――」
「さっきは魔族がどうのこうの言っておいて、今度は私がダシ?
言っていることが本当にむちゃくちゃになってるんだけどー」
この第一王子、要はケイン君になんでもいいから言いがかりを付けていじめようとする気まんまんである。こうなるともう中身は正直どうでもいいんだろう。むしろ、よりむちゃくちゃな方が権力振るっている気がしていい気分なのかもしれない。いいがかりも甚だしい。
「黙れ! しれものがッ」
「どっちがよ」
「ふふふ……。ははははははははは――」
言い合っているさなか、突然後方のケインが笑い出す。
「なにがおかしい」
うん、俺もそう思うよ。
「いやなに、こんなピンチだというのに、まったく倒されることが想像できなくてね。この後、エアリをよそにジア姫をどう口説こうか、とかしか思いうかばねぇ……」
「うわ最低……」
いやまったく。
「ふ、武器もなしに吼えてもどうにもならんわ。衛兵! さっさと――」
「武器なら……あるさ――。残念だったな――」
煌く星の長剣が虚空から飛び出す。
とてもいいシーンだが、それ単にアイテムボックスからアイテム出しただけだから。
しかしうんわぁ、すんげーぴかぴーかしてるよ。そして十万のイカヅチか~。まさか! もしかしてネタ元がばれるといろいろ危険なアレかッ。
「ケイン。それは魔法か――」
「はは。魔法ですらないよ。この程度」
うん。そのネタ、ジアちゃんに出会ったときに真っ先にやったからね。
「正体を現したなケイン! まさか王に刃を向けるとは愚かな。これでお前を殺しても何の支障もなくなった。さぁ衛兵どもよ! 斬れ! 斬り捨てぇ!」
敵ちゃんが叫ぶとともに、衛兵達は斬り掛かって来る。
ケインは剣を床に向けて咆哮。
『竜破・魅核凍陣!!』
その瞬間、床全体に亀裂が走る。
うわ。かっけー。スキル専用BGMが流れ始めたー。
なんか轟き叫んでるー。
『ジアちゃん! スキル発動に合わせて転移を! 抱きつけ!』
「≪瞬間転移≫!」
ジアに≪瞬間転移≫をさせ、ケインともどもジアの自宅に飛ばす。
『あちゃー。やっちゃったよ……。でもしょうがないよねぇ』
次の瞬間。激しい音があたりに響いた。
ジア邸。余波で崩れ落ち始める。
『なぜ急に転移を? 魔王。 家が大惨事なんだけど』
『そりゃ…』
「ケイン! あのまま兵士くんたち殺してたらハートフルポイントが一瞬で0になってたよ。ちょっと反省してよね!」
崩壊した邸宅の中で、エアリがケインに怒っている。
そう。この世界にはステータスの中にハートフルポイントなんて設定がある。
『名前:ジア・スルターナ
HP:342/342
MP:3855/3855
SP:824/824
種族:人間
性別:♀
職業:空間魔術師 (Sky walker) Base.Level.35 Job.Level.35
ジョイント:貴族/王族 Level.3
称号:スルターナ公国第一公女
ハートフルポイント:100 (※0でBAN)』★←ここ★
このハートフルポイント、何かすると減少して、0になるとBAN (アカウント剥奪)。されるらしい。だってそう書いていあるんだから。
きっと、これは魔王や自キャラが暴走しないようにするための歯止めだと思うけど、ちょっと酷いな。対人とかやりたいときはどうするんだろう?
しかしこのゲームぬるすぎだな。
結局のところ俺、2回しかスキルをクリックしていないんだが。
もっとうまく立ち回れば屋敷崩壊とかはなかったのかもしれないが。
「ちょっと! 和むのは良いけどリナとか、ミキ様とか救出してこないと!」
怒りの矛先をケインだけではなくジアちゃんにも向けてくるエアリ。
「そうだ。俺のPTの連中も救出してこないとマズイ」
確かに。今は単に逃げただけだ。
あのいいがかり連中が今後何をし始めるか分かったものではない。
やつら、どうせ後先なんて考えていないだろ。
俺たちの戦いはこれからだった。
だが、ハートフルポイントのある世界で、今後どう進めていけばいいのか―-




