偽りの妖精さん
土曜。
それは魔王がずっとこちらの世界にアクセスできる日。
私とメイドのリナ、師匠のミキの3人はスラッシュ王国の首都についていた。
スラッシュ王国内は金曜日の夜間飛行で横断済み。
リナとミキは≪瞬間転移≫でこちらに送り届けている。
「で、ここがスラッシュ王国首都の冒険者ギルドね」
ミキはスラッシュ王国に来たことがあるらしい。
没落したとはいえ、ミキは帝国の中でも八聖者という重要人物のハズなのにフットワークが非常に身軽である。
スラッシュ王国は西に魔族領を抱え、冒険者ギルドは比較的活性化していることで知られている。スルターナ王国冒険者ギルドが日雇い労働による土木事業が中心であるのとは対照的だ。
スラッシュ王国首都の冒険者ギルドでは、いつもと同じく朝の時間帯、討伐依頼を受ける人たちで比較的ごった返していた。
「これは少し後にした方が良いかしら?」
「そのエアリちゃん? というのが討伐に行かれても困るからまずは聞いてみましょう。私に任しておいて」
師匠のミキが依頼を受ける列に並ぶ。
そういえば、始めて来る女性3人の冒険者パーティーに誰も近寄ってこないのはなぜだろう。
スルターナの街の冒険者ギルドであれば入ったとたんに囲まれたのに。
魔族領のある/なしでそんなにも冒険者ギルドの質が違ってくるものだろうか。
「≪殺しの≫ミキ……」
耳を澄ませば小声でそんな会話をしているのが聞こえる。
どうやら、師匠のミキはそれなりに知名度があるようだ。
私はサイドの髪をアップにして変装しているから、まさか隣国の姫とはばれないだろうしね。
「ん? お客様?」
冒険者ギルドの2階から誰かが下りてて来る。
「あ、エルフだ……」
それは妖精族ではなく妖精族であった。
おしぃ。ちょっと残念だ。
「妖精族じゃない……」
『いや、ジアちゃん。あれは妖精族が妖精族に化けているのであって、ほら、ステータス見てよ』
私は出てきた人が妖精族ではなかったことに多少落胆したが、魔王のフォローと操作によって妖精族のステータスを見ることができた。
『名前:エアリ
HP:982/982
MP:1240/1240
SP:300/300
種族:妖精族
性別:♀
職業:精霊の巫女 (Script Healer) Base.Level 110 Job.Level.50
ジョイント:妖精族 Level.2
称号:妖精帝国南部第744歩哨部所属
ハートフルポイント:100 (※0でBAN)』
「あ、ほんとだ」
「ちょっとー。何晒してくれちゃてんのよぉー」
そんな妖精族が私の腕を掴み、ぐいぐい引っ張った。
引っ張られるまま、2階へ連れ込まれる。
ミキとリナは後からついてくる。なぜかあきれた様子で。
落胆の表情が出すぎていたからだろうか。
『(おはようございます。ジア様。どなたのキャラクターです?)』
小声での会話?
なぜ名前がバレたのだろうかとしばし考える。
そうか。
妖精族のエアリも私のステータスを見ているんだ――
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「きゃッ」
妖精族が連れ込んだ部屋には裸の男が寝ていた。
「おはよう。ジア様 リナさん。そして……」
男は上半身だけ起こして挨拶する。下半身は毛布に包まれているので分からない。
「私は八聖者が一柱。炎術家のミキだ」
「≪殺しの≫ミキか。噂は聞いている。俺が剣士のケインだぜ」
「私も噂は聞いているよ。第三王子ケイン。あまり国王には良く思われていないようで……」
「第三王子が冒険者として目立っているからな。しかしまぁ領土も広げたし、いきなり暗殺されるとかはないだろ? 立ち位置は確保しているつもりだ。まだまだ甘いといわざるを得ないがな」
「はいはーぃ。政治的なことは置いておいて――」
「そういえば、ジア姫はどうしてスラッシュ王国に? 大方、ジア姫の魔王が何か駄々をこねたとかだろうが――」
ケインもジアがキャラクターであることは確認済みのようだ。
右手をせわしなく動かしてステータス等を確認するのが見える。
「いいえ。これは私個人の趣向です。単に私がたくさんの妖精族さんと戯れたかっただけで、妖精族のハズのエアリ――、さんに仲介をお願いしようと思ったのですが…」
視線が妖精族の方に向く。
妖精族のエアリは視線を感じ、ため息を付いた。
「呆れた。もしかして自分が楽しむためだけに国境を越えてきたの?」
シュワシュワリーン。っという謎の音とともに妖精族の身体が小さくなる。
その姿は物語でよく言われている妖精族の姿。
体長30cm程度だが、虹の羽が特徴的な妖精さん。
エルフの姿もかわいかったが、小さくなると、よりかわぃい。
「これで良い? 他の冒険者もいる手前、人化の術で姿を変えていたの。ごめんね」
「あー。ほんとに絵本の通りなんだねー」
私は目を輝かせる。
『はいそこ、さらに妖精帝国の妖精さんたちと接触できるように説得してね』
魔王からの指示。そうだ。自分で言っておいて忘れるところだった。
「えーっと、エアリさんにお願いがあるのです。私はたくさんの妖精族さんと戯れてみたいなー、とか思っているのだけど、妖精帝国さんとの仲介をお願いできないかしら?」
「んー。なんでまた? 面白い趣味だねー。って、さっきも言ってたか。でもなー。ちょっと難しいかな? どちらかというと、私は妖精帝国から逃げてきた感じだから――」
『あれ? アー。そういえばそういう設定あったなー』
魔王の会話。そういうことは早く気づいて欲しい。
『ちょっと、どうするのよこれ』
『困ったなぁ。せっかくここまで来たのに……』
魔王はクチほどには困っていないようだった。
「おぃ、ジアちゃん。自分の魔王と惚気てんじゃなねーよ。ともかくだな。今日は俺も登城しないといけないし、1日はスラッシュ王都を楽しんでくれないかな? エアリ貸すし。明日であれば話を聞くよ」
「ちょ、ちょっと私に断りもなくナニ私を貸し出しってんのよ!」
妖精族になるとエアリの怒った姿も可愛く見える。
「あ、ありがとうございます」
「そこ! 同意すんなー」
私のお礼に反応してケインがベットから起きようとして――、あわててエアリに止められる。
やっぱり彼は全裸だった。




