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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ママさんバレー

作者: とべ

それを蹴飛ばしたのは、それが道にあったからと気分が晴れると思ったからだった。その日は最悪で、目を覚ますと一階から腐ったスイカを叩き割っているような音がしていた。降りると頭の弱い母の母が母の腹を蹴り続けていた。


「やめなさいよ」


わたしの声に振り向くと母の母は母の腹を蹴るのをやめて、台所へと飛び込んだ。母はなにか叫んでいたけど、すぐにぐったりと動かなくなった。わたしは母に駆け寄ることもできたが結果は目に見えていた。風を切るような高音が聞こえ、台所からやかんを抱いた母の母が出てきた。


「けぇえぇこぉお」


地の底から響くような声でわたしを呼ぶと、母の母はやかんをパスした。なんだか、すごく懐かしい感じだ。やかんはわたしの頭の上で炸裂した。雨が降り止むとわたしの顔から肩は赤く焼けただれていた。


「ひょおぉぉぉお!」


興奮した母の母が、倒れたわたしの腹でブギを踊っていた。


「はやくしないと遅刻するわよ」


血を吸った包帯のようにしおれていた母が、いつの間にかテーブルについている。卓上にはご飯、味噌汁、焼き魚が綺麗な三角形を作っていた。腹の上でのブギが止まり、息を荒げ母の母がテーブルに駆け寄る。


「けいこ」


母が微笑みかけていた。わたしの顔からは、湯気がもうもうと立ち込めている。


「けぇえぇこぉ」


母の母も入れ歯を剥き出しにし笑った。最悪だ、なにもかも。


「びゃー」


玄関を出ると太ったとら猫がうずくまっていた。わたしは右足を思い切り振り抜き、それの腹を蹴り上げた。脆い音がして足が柔らかな腹にめり込んだ。笑えた。不意にさっきのやかんを思い出した。ママさんバレーだ。子供のころ、小学校の体育館で夜な夜な母がやっていたのを思い出した。それが宙を舞うやかんと重なっていた。返せばよかった。あのときやかんを、パスを返せばよかった。そうすればあの頃に戻れた気がした。祖母と一緒に母のバレーを見に行っていた、あの頃に。


ふと足元を見ると子猫が二匹擦り寄っている。親猫は道の端で息絶えていた。わたしはあの頃を懐かしみ、ゆっくりと右足を振り上げた。


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