表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
らぶんちゅ ~宇宙で一番君が好き~  作者: CoconaKid
第十章 瑠璃色の星 -宇宙で愛を叫べ
99/100

 ガースは宇宙船に用心深く近づいて行く。

 広々とした格納庫に収められた様々な小型船や戦闘機の間を拭って隠れ蓑としていたガースだったが、それはクローバーにも有利な場所となる。

 姿を自由に変えられるクローバーはアメーバーのようになって宇宙船の上を次々這って、上からガースに近づいて行った。

 手を伸ばして手招きしながら、クレートに自分の位置を知らせ、クレートはそれに従って後をつけていた。


 ガースが乗ろうとしている宇宙船に気がつくと、今度は床を這いつくばっていく。

 ガースは足元まで注意を払っておらず、クローバーはかなり近くまで接近できていた。

 クレートは身を低くし、足元のクローバーの動きに注目する。

 クローバーが姿を自由に変えられるお陰で、いち早くガースの位置を辿る事ができ、腰を屈めて慎重に近づいていった。

 宇宙船の下から覗き込めば、ガースとキャムの足が見える。

 そのまま潜って下から潜入する。

 ガースがキャムに銃を向けたまま、無理やり宇宙船へと引きずり込んでいる姿が見えた。


 キャムは抵抗しているが、銃の安全装置がカチャリとはずされた音を聞いたとたん、身が竦んでいた。

 ほんの少し引き金に指が当たるだけで閃光が光るとこまで来ていると思うと、怖くて足が震えている。

 それはクレートにも恐怖を与えた。

 ガースは辺りを確認し、敵を想定して銃をあちこちに向けては慎重になっている。


 しかし、周りに気を取られているため、足元までは見てなかった。

 キャムが不意に足元に目が行くと、そこには不自然な銀色の敷物が敷かれていていることに気がついた。

 ガースはそれに気がつかずにその上を歩いて行く。

 そのときいきなり手が伸びてガースの足を掴んで引っ張った。

「一体なんだ!」

 声を上げると同時に足を取られてバランスを崩し、キャムを掴んでいた手が緩んだ。


 キャムはチャンスだと思って、それを振り払った。

「あっ、待て」

 ガースは銃をキャムに向ける。

 そのすぐ側で隠れていたクレートは小型船の下から飛び出し、キャムを守るために走った。

 クローバーもガースの動きを阻止しようと人の姿に戻って羽交い絞めにした。

 狙ったわけでもないが、クローバーともみ合う反動でガースは引き金を引いてしまった。


 銃が発射される音が聞こえたとき、キャムは怯えた。

 体が縮こまり、自分に当たったと思い込んだ。

 その音は、格納庫一杯に響き、誰もが緊張した。

 その後は、銃が発射された音の余韻がいつまでも耳に残り、皆静まり返っていた。

 キャムは何が起こったかわからないまま、体が麻痺している。

 だが何かにしっかりと後から抱きかかえられている感触が徐々に伝わってくる。

 そして落ち着いて顔を上げるとクレートが微笑みを投げかけてくれていた。


「クレート」

「キャム、大丈夫か」

 気は動転しているが、体はどこも痛くない。

「大丈夫です」

「そっか」

 クレートは安心して、そのまま力が抜けたかと思うと、がくっと倒れこんでしまった。

「クレート! どうしたんですか?」 

 キャムはクレートの体を支え抱きしめるように、手をクレートの背中に向けたとき、ぬるっとしたものに触れた。

 キャムの思考が停止する。

「いやーーー!」

 発狂した声が響き渡り、人々が集まってきた。


「キャム、大丈夫か!」

 兵士達と一緒に駆けつけたシドがその光景を見るや、顔を青ざめた。

 ジッロとマイキーが側に駆け寄り、我を忘れて叫びまくる。

「クレート、しっかりしろ」

「誰か、早く手当てを!」

 クレートの背中から流れる赤い血が鮮明に目に焼きつき、辺りは騒然となっていた。

 ざわざわと辺りは騒がしいのに、それは次第にキャムの耳から遠のいて行く。

 騒然とした様子だけが慌しく目に映りこんでいた。

 クレートに近づきたいとキャムは狂ったように取り乱している。

 ジッロとマイキーが辛い表情でキャムをとり押さえ、そして極限まで興奮したキャムはそのまま気を失ってしまった。

 そしてクレートは救急ルームに運ばれていった。


 

 クリアガラスのカプセルの中、真っ白な医療着に身を包んだクレートが目を覚ます。

 見知らぬ年老いた男が近づき、クレートが目を覚ました事を喜んだ。

 皺が刻まれて年を取っているが、自分をじっと見つめる美しい琥珀色のその瞳はどこか懐かしい気持ちにさせられた。

 年老いた男は操作をし、カプセルの蓋を開けた。

「気分はどうだい?」

 しゃがれた声が親しげに問いかける。

「ああ、そんなに悪くはないが、一体私はどれくらい寝ていたんだ」

「とても長くさ。だけど助かってよかった」

「キャムは無事か?」

 年老いた男はショックを与えないようにと弱々しく微笑むも、口元が震えて言葉が出てこなかった。


「一体どうしたんだ。皆はどこにいるんだ?」

「キャムは逝ってしまったよ。もうここには居ない」

「嘘だ」

「嘘じゃない。皆逝ってしまった。俺もそろそろ逝ってしまうけどな」

「えっ、君は誰なんだ」

「クレートの背中守ってやれなくてすまなかった。あれだけ俺に任せておけなんていってたのに恥ずかしいぜ」

「ちょっと待ってくれ。もしかして、ジッロなのか?」

「ああ、そうだ。俺も年を取ったよ」

「一体どういうことだ」

 自分の姿を確認するが、どこも変わった部分は見当たらない。

 それなのに、目の前のジッロは恐ろしいほどに年をとっている。


「クレートはずっと意識不明の状態だったのさ。だけど、キャムが延命治療を望んで、冷凍睡眠でずっと年取らずに寝ていたってことさ」

「一体ここはどこだ、あれから何年経ったんだ」

「ここは人工惑星の中の病院。ざっと70年近くは経ってる」

「それでネオアースはどうなったんだ」

「あれから別の異星人が来て、完全に乗っ取られちまった。地球上の人類は全て皆殺しさ。宇宙に居るものはなんとか生き残ってはいるけどね。めっきり数は減ったさ。このままではいつか滅亡するだろうね」

「エイリー族は?」

「そんなのとっくに出て行ったさ」


「なんなんだこの世界は。さらに酷くなっているじゃないか」

「ああ、クレートはこれからが大変だろうな。俺はもうそろそろこの世界から解放される。クレートが目覚めるまではと思って我慢してたんだ」

 ジッロは銃を取り出して自分の後頭部に突きつけ、引き金をあっさりと引いてしまった。

「ジッロ!」

 倒れたジッロの下で赤いものが輪を広げていった。



 クレートはハッとして目を開けた。

 そして体を起こし、辺りを見渡せば、真っ白な部屋にいた。

「クレート、目が覚めたんだな。大丈夫か?」

 そこにはマイキーが立っていた。

 先ほどの事が夢だと分かってほっとした。

「皆はどうした? キャムは無事なのか?」

 マイキーの顔が曇っていた。

「ジッロは、あの後、自分がクレートの背中を守れなかったことですごくショックを受けて、自殺したよ。キャムはクレートが死んだと思い込んで、ショックでポックリ逝ってしまった。心臓発作は初めてじゃなかったもんな」

「マイキー、冗談はよせ」


「冗談だったらどんなにいいか。もう全てがおかしくなってしまった。ガースには結局は逃げられちまうし、それでネオアースが宣戦布告で、見せしめにコロニーを一つ破壊した。クレートが撃たれなかったら、もう少しましな結果になっていただろうに。これからは最悪な時代になりそうだよ」

 そのとき、いきなり大きな揺れが襲い、あちこちで爆発音が聞こえてきた。


「ネオアース軍がここを攻撃しているんだ」

 マイキーはなす術がないまま、すっかり諦めた表情で冷めていた。

「嘘だ! 嘘だ!」

 クレートは思いっきり叫んでいた。

 建物の外では攻撃が段々と激しくなり、どんどんと爆撃音が近づいてくる。

 そうしてその建物の上にも爆弾が降り注ぎ、爆音と共に天井が崩れ去った。

 クレートが気がついたとき、辺りは瓦礫だらけだった。

 倒れていた身を起こして、空虚な目でそれを見つめる。

 側では赤く染まった水溜りができていて、瓦礫からマイキーの手だけがはみ出していた。

 また頭上から爆弾が落ちてくる。

 それは真っ白い光を放ちて全てを無のような白さに変えていった。

 クレートはもう何も考えられなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ