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らぶんちゅ ~宇宙で一番君が好き~  作者: CoconaKid
第十章 瑠璃色の星 -宇宙で愛を叫べ
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 キャムは冷たい床で手足を縛られたまましくしくと泣いていた。

「お前、女みたいな泣き方するな」

「女なんだから仕方ないでしょ」

「えっ? 女?」

 ついヤケクソになってキャムは言ってしまった。

 言った後になって自分ではっとして、その失態に後悔してしまう。

 乱杭歯男の顔が、ニヤリと笑みを浮かべ確かめようと近寄ってきたからだった。

「本当に女なのか」

 手足を縛られたキャムには抵抗も、逃げることもできない。

 乱杭歯男は、キャムの宇宙スーツの胸元のジッパーを下げようとしていた。


「やめて、やめてよ」

 キャムは一生懸命体をくねらすが、無駄だった。

 胸の辺りまでジッパーが下ろされ、キャムは顔を青ざめた。

 何をされるのか分からない恐怖が全身を走った。

 そのとき、突然アラーム音が船内で鳴り響く。

 そのお陰で、状況が一瞬で変わり、乱杭歯男はビクッとし、すぐに操縦席へ戻った。

 キャムもまた煩い音の中でも安堵を得ていた。


 しかし、何が起こったかわからず、状況を知りたいと、向きを変えて操縦席に視線を向けた。

 レーダーパネルには数体の宇宙船が近づいてくる様子が映し出され、この船に向かってきている。

 敵か味方か、ドキドキとしながら見守っていた。

 乱杭歯男はすぐにコンピューターをはじき対応に追われていた。

 向かってくる宇宙船の機種を確認すれば、スペースウルフ艦隊の戦闘機と分析結果がでて、顔を青ざめていた。

 その直後、緊急通信システムが作動して、パトロール隊と自然に繋がってしまい、スピーカーからメッセージが入った。


「こちら、スペースウルフ艦隊、パトロール部隊。シド艦長の命令により、そちらを保護するようにとの仰せだ。有難く思え。但し、変な真似はしないように。その後に戦闘機が待機している。怪しい動きをしたときは容赦なく撃つ」

 一体何のことだと思いつつ、通信デスクで救助信号がオンになっていたことに気がついた。

「お前の仕業か」

 しかし気がついた時は遅かった。

 すでに戦闘機に四方八方囲まれ、ここで逃げたりしたら攻撃されてしまいそうだった。


 仕方がなく、とりあえずは、いう事を聞いてスペースウルフ艦隊の船へと向かう。

 落ち着いて対処して、こちらの間違いだったと言えばなんとかなると、乱杭歯男はごくりと喉をならした。

 キャムはスペースウルフ艦隊と聞いて、クレートの話を思い出した。

 そこのシド艦長という人が話の分かる人だと言っていた事を思い出し、キャムは助かるかもしれないと期待していた。


 

 乱杭歯男は、艦にあげられ、そして広々とした格納庫で船を停泊させた。

 キャムを船に置いたまま、乱杭歯男だけ外にでると、自分の船の周りに制服を着た男たちが、もしものためにと集まって銃を構えている姿に慄いた。

「あのですね。これはちょっとした手違いで」

 なんとか分かってもらおうと、腰を低くしてへつらった笑いで誤魔化したが、歯並びの悪い汚い歯が、見るものの気持ちを害していた。

 そこに、シド艦長が直々にやってきたから、周りの兵士は驚いていた。

 その中でリーダー各の一人が「わざわざお越しにならなくても」と遠慮がちにシド直接に耳打ちしていた。

「いや、救ったからには、艦の代表として挨拶するのも礼儀かと思っただけだ」

 そして乱杭歯男に向き合った。


「怖がらなくてもいい。私はこの船の艦長だ。スペースウルフ艦隊といえども、人道的な処置はとる。で、一体何が原因だ。船の修理に必要なものがいるのなら用意させよう」

「それが、その、救助信号がオンになってる事を知らなかっただけで、こちらの手違いで起こったことなんです。それなのに、わざわざ助けの手を差し伸べて下さいましてありがとうございます」

 乱杭歯男の歯ばかりをシドは見ていた。

 直感でなんだか信用置けないものを感じ、そして顔から脂汗が出ていることで、何かばれては困る事を抱えていると感じた。

 シドの直感は時々鋭かった。

 それなりのカリスマ性を帯びているのは、そういう普通の人とは違う感性をもっていることも大いに影響していた。

 その感覚は乱杭歯男を悪者とみなし、シドの態度が厳しくなった。


「そちらの所属名と名前を名乗るのがまず筋というもの。君は礼儀を知らないのか」

 どことなく心証が悪くなっているのを感じ、乱杭歯の男の顔は青ざめていった。

 弱い者の前では権力を振りかざして威張っていたが、その立場が逆になってしまっていることに乱杭歯男は落ち着かない。

「わたくしは、ハンク、ただのしがない商人でございます。この度は本当にご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

 早くこの場からさりたい。

 その一身で、必死になっていた。


「ハンクか。一体どんな商売をしているんだ」

「その、物を売っている普通の商売です」

「どんなものを売っているのだ?」

 何気ない質問をして、シドは様子を探っていた。

 乱杭歯男が必死になればなるほど怪しく見えるために、その違和感はなんであるか突き止めたくなっていた。

「そのコロニーの特産物や、骨董品など、売り物になればなんでも仕入れてます」

「ふーん、そうか。だったらこの私にもその売り物とやらを見せてくれないかね。もし気に入ったものがあれば購入するが」

「いや、そんな滅相もない。スペースウルフ艦隊のシド艦長の目に留まるようなものなど何一つありませ……」


 そこまでいったとき、船からアラーム信号が発された。

 宇宙で発するものだけに、それがこの艦内で鳴り響くと、不快きわまりない音だった。

 皆、耳を押さえて睨んでしまう。

「す、すみません。なんか船の調子が悪いようです。すぐに止めてきます」

 その前に、兵隊の一人が、船の側に近づき、何か処置ができないかと見ていると、先頭付近の窓で人影が動くのに気がついた。

「シド艦長。誰かまだ船にいるようですが」

 それを伝えると、乱杭歯男は首を横に振って否定した。

「誰か、船の中を調べろ。この男はなんだか怪しい」

 シドが叫んだとたん、数人の兵士が船の中へ入っていった。

 アラームはすぐさま収まったが、その後、キャムを抱いて船から下りてくる兵士の姿を見て、皆釘浸けになっていた。


 乱杭歯はそれでもなんとか誤魔化そうとしていた。

 だが、手足を縛られた状態では、この場合何をいったところで、拉致しか考えられない。

「この男を念のため、拘束しろ」

 その一言で、立場が逆になった。

 キャムはそれを冷めた目で見ていた。

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