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らぶんちゅ ~宇宙で一番君が好き~  作者: CoconaKid
第七章 直感の導き -気になるほどに取り乱して
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「シド艦長、わざわざこちらにお越し頂かなくとも」

 ガースの表情が強張っていた。

「私の知り合いを殺した奴の顔を見に来ただけだ」

「俺は誰も殺してない!」

 海賊のボスは強く反応した。

 周りの兵士に体を痛められて制しされたが、シドは放っておけと手を挙げて知らせていた。

「だが、コロニーは爆発し、生存者0だった。同じことだ」

「バカバカしい。もともとあのコロニーには誰も人は居なかった。年老いた半白骨死体になった男が土に埋められ、周りはすでに生きる屍となったゾンビがうじゃうじゃいただけだ」


 シドの表情は全く変わることがなかった。

 だがその表情の影にクレートはどこかで見たような気になっていた。

 この宇宙で独立している大きな組織の長。

 冷たい表情、修羅場をくぐってきたような物怖じしないどっしりとした存在感。

 精悍で顔が整っているのも影響するが、男らしく人を惹き付ける魅力を備えている。

 どこか親しみを感じていた。

 じっと見つめていると、シドがクレートの視線に気がついた。


「こいつは誰だ。海賊とはまた違う人間みたいだが」

「はい、たまたま側を通りかかっただけで巻き込まれたらしいのですが、以前情報収集のときに協力を得たデリバリーサービスと名乗る船のキャプテンです」

「4-leaf cloverか」

「組織の名前を覚えていただいていて光栄です」

 クレートは形式だけの挨拶をしていた。

「ユニークな名前をつけたものだ」

 ふと口元がかすかに上向いた。

 滅多なことでスペースウルフ艦隊の頂点に立つものと話せる機会などない。

 クレートはもう一度、海賊の罪を晴らすために試みた。

 シドという人物に興味を持ち、話を聞く耳を持っているのか確かめたかった。


「差し出がましいのは充分承知だが、あなたの知り合いというのはもうかなり年を取っていたということは考えられないだろうか」

「何!?」

 シドの表情に変化をもたらした。

 訝しげにクレートを一瞥する。

「いや、この海賊は年老いた半白骨死体と表現していた。誰も生きた人間がいないといっている以上、その死体がそちらの知り合いという可能性がないかと思ったまでだ」

「クレート慎め。こちらはスペースウルフ艦隊のシド艦長であられるぞ。お前ごときのデリバリーボーイが口出しできるような立場ではない」

 ガースはかなりの地位を占めているのがそれでわかった。

 シドにかなり近い側近。

 ガースの方が年を取っているが、シドに忠誠を誓ったように仕えている。

「失礼は承知している。だが、側で聞いていれば話がかみ合わずおかしいと思ったまでだ。見たところこの海賊はどうも嘘をついているような気になれなかっただけだ」

「クレート、そちらの態度もかなり横柄で失礼極まりない。しかも海賊の肩を持つとは、余程の馬鹿としか思えぬ」

 ガースの心証が悪くなって行く。

 クレートとは相性の悪さが浮き彫りになっていくようだった。


 海賊達は、クレートの物怖じしない姿に食い入るように見守っていた。

 シドの目の色が変わる。

 何かを感じ取ってはいるが、それが疑惑を生じているのか、面白いと見ているのか、それは読めなかった。

「クレートと言ったな。かなり頭のキレがよさそうな奴だ。お前の言い分からすれば、すでに死んでいておかしくないとでもいいたそうだが、確かに、私の知り合いはかなりの年を取っていた。だからと言って、すでに死んでいたという証拠はない。海賊が嘘をつくという可能性は考えないのか」

 シドは試している。

 自分が他に何かの情報を持っているからこそ、海賊の肩を持ったと思っているのが見えた。

 シドも、相当の頭のキレがいい。

 下手にこれ以上喋ると、こちらの情報が漏れてしまう。

 キャムから聞いた話から推測すれば、シドの知り合いはカザキ博士に違いない。

 それを知っている事がばれてしまえば自分もあのコロニーに居た事が発覚してしまう。

 クレートは慎重になった。


「ゾンビが出たといった時点で違和感を持った。そんな見えすぎた嘘をこの場でつく方が珍しいと思ったまでだ。それならば裏を返して本当の事を言っているのかもしれないと仮定しただけのことだ。ゾンビに見えた何かが居たのかもしれない。それがそちらの知り合いの死にかかわりがある可能性もでてくる」

「馬鹿な! 何がゾンビだ。そんなたわごとを信じる方がおかしいわ」

 ガースが怒りを露にした。

 シドはそれを静かに制し、目を細めた。

「海賊からの証言を分析すれば、そのようにも考えられることもないが、それでもゾンビの存在はあまりにもナンセンスだ」

「ゾンビはこの場合どうでもいい。私が言いたいのは、貴殿の知り合いの他にも人がそこに居ることは考えられなかっただろうか」

「それはありえない。あの人はあのコロニーで一人で生活していた。複数の人間がいたことは知らされてない」

「一人で?」

 シドはキャムの存在の事を知らないでいる。

 この男の目的はカザキ博士についてだけだ。


「どうした、何を考えている?」

「いや、一人でコロニー生活をするのは珍しいと思ったまでだ。それに一人で生活して、どうして死体が土に埋まっていたと海賊が言っていたのかも気になった」

「海賊の言い分を信用するならばという前提がぬけている。そんな話を信じても意味がない。コロニーが爆発した事が真実だ。その原因を作ったのは間違いがない」

「それでは聞くが、その知り合いの仇を取るためにこの海賊を始末するということであろうか」

「ああ、そういうことになる。昔世話になった分、そうするのが私の供養だと思っている」

「俺は誰も殺してなどいない。あの爺さんは土に埋まってすでに白骨化が始まってた。俺の罪を問うならば、その爺さんの墓を暴いたことと、あのコロニーを偶然とはいえ破壊してしまったことだ」

 海賊はまた主張する。

 それが煩いと、武器をもった兵士は容赦なく腹をマシンガンの銃口の先で突付いていた。

 苦しそうに体を屈めている姿は海賊といえど、罪を擦り付けられてるだけにクレートは同情してしまった。


 俯きのまま、海賊のボスが声を絞るように喋り出した。

「俺は、ネオアースから宝を積んだ船が隕石海を通るという情報を掴んだ。それを襲い、そこに乗っていたアクアロイドというのに遭遇した。その船には宝など 何一つ積んでなかった。アクアロイドを問い詰めたら、何かを取りに行く途中と聞いて、それがあのコロニーに行ったきっかけだった。その後は殺人ロボットだ と思って、襲われるのが怖くて叩き斬ってしまった。そして、コロニーに向かった。だがそこにも何一つ宝物などなかった。何度も言うが、埋められた白骨化し た爺さんとゾンビしか見てない。俺たちは墓場に来たと思い怖くなってすぐに逃げ出した。コロニーの破壊もたまたま威嚇で砲撃したものが偶然にも致命的な場 所に命中して爆発を起こしてしまった。破壊するつもりはこれっぽっちもなかった。それが真実だ」

「今更命乞いか? 往生際の悪い奴だ」

 シドが冷ややかに言った。


「いや、違う。殺すなら殺せ。だが、そこに居るやつに俺の真実をちゃんと聞いていて欲しかっただけだ。クレートとか言ったな。お前は少し骨のある奴だ。こんな海賊の言い分を信じようとしてくれたんだから。感謝する。一人でも信じてくれる奴が居るだけでもう満足だ」

 そこに居た兵士達は海賊の言い分に失笑していた。

 あざけ笑って馬鹿にしている様子は、肌寒いものを感じさせた。

 ここでもまた大きな力に飲まれる弱者の姿が見えた。

 クレートの正義感が黙ってはいられなかった。


「スペースウルフ艦隊とあろうものが、仇とはいえ、恨みを持って憶測で無名の間抜けな海賊を始末する。これはいいものを見せてもらったかもしれない」

「貴様、それは侮辱罪にあたるぞ。情報を提供して協力した事があるからといって、それは図に乗りすぎだ」

 ガースが激昂する。

「侮辱罪? いや私は見たままを言ったまでだが」

 クレートにとってもそれは命取りの発言だった。

 だが真実を知っている以上、あの海賊の態度に無視できないものを感じた。

 そして新たに他の疑わしい部分が見えてきた。

 予めネオアースの船の情報を流してそれを襲わせるように仕向け、そしてコロニーにも向かわせるように、初めから仕組まれていたのかもしれない。

 クローバーは確かに使命を持ってキャムを迎えに行っていた。

 その詳しい理由はわからないが、コンサート会場の前で、クローバーがある程度の真相を自分に仄めかしたことによって、何かの重要性があると示唆していたとクレートは受け取った。

 その事を考慮すると、これには何かとてつもない裏がある。

 誰かが首謀者となって何かを仕掛けようとしている可能性が出てきた。

 この海賊達はただ利用されただけに過ぎない。

 そしてここで始末されようとしているのも、その首謀者にとれば計算のうちの一つなのだろう。

 この海賊達は知らずと何かの証拠を握っているのかもしれない。

 なんとしてでも救わねば。

 ここは賭けだった。


 スペースウルフ艦隊のシド艦長という一番の頂点に立つ地位。

 カザキ博士、即ちキャムの親代わりとなった人の仇をとろうとするほどの知り合いであるならば、非情なはずがない。

 自分の勘を信じて、クレートはシドと向き合った。

 この男がどう話を切り出すのか、それを挑発するようにクレートはシドの目を強く見つめる。

 シドもまた、クレートを慎重に見つめ返していた。

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