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らぶんちゅ ~宇宙で一番君が好き~  作者: CoconaKid
第六章 危険な展開 -思いが強まっていくどうしようもなさ
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 荷物の受け渡しはスムーズに運び、クレートはいつもの要領で取引終了のサインをデバイスで処理をする。

 その間、キャムは運ばれていく荷物をぼんやりと見ていた。

 医師や看護師、その他特別医療スタッフが入れ物の蓋を開けて、中からそれぞれの箱を出して確認しては、お目当てのものを手にしたものから走って去っていった。

 キャムはワクチンや薬といったものを想像していた。

 これでまた誰かの命が助かるなら、とてもいい仕事をしたと満足していた。

 だが医師たちの声が聞こえたとき、はっとした。


「おい、それはキドニーだぞ。レバーはこっちだ」

 それは人間の臓器だった。

 キャムは生々しさなものを感じ少しドキッとしてしまった。

 臓器移植を否定するのではなく、前日にロビンと話したときに子供が誘拐されて臓器の売買にされる可能性を聞いたからだった。

 これは病院からの依頼なだけに、そういった怪しいものはないと自分に言い聞かせた。

 人が目まぐるしくバタバタしている真ん中で、キャムはボーっとしていたせいで、慌てていた医師とぶつかってしまった。

 医師が持っていた電子カルテが手から滑り落ちて、キャムは咄嗟にそれを掴んでなんとか難を逃れた。

「す、すみません」

「いや、こちらこそすまなかった」

 キャムが手にした電子カルテを医者に渡そうと、手元をみたとき、そこには見たことのある画像が映し出されていた。


「えっ?」

 真っ白い小さなすずらんの花を想起させる少女の写真。

「チッキィ…… そんな、うそ」

「君、すまないが、そのカルテを返してくれないか」

「こ、この女の子は」

「ああ、この臓器提供者のプロファイルだ。心臓が弱い子だったらしい。まあ、そのお陰で、入手しにくい子供の臓器が手に入った訳なんだが。これも運命なんだろう。救われる子供もいるってことさ」

 慣れているだけに淡々と話すが、キャムには重い言葉の何ものでもなかった。

 目に涙を溜めながら、そのカルテを返した。

 その後は事務的に運ばれていくそれぞれの箱を見つめ、悲しみの渦に引き込まれていた。


 前日までは元気にしていた姿を見ていただけに、あまりにもショックが強すぎてキャムの心が砕けてしまう。

 ペタンと地面に座り込んでしまい、キャムの瞳から光が消えた。

 仕事で運んできたものが、知っていた女の子の臓器だった。

 果たして本当に病死だったのだろうか。

 そんな疑いまで芽生えてしまう。

「キャム、どうしたんだ」

 クレートが声を掛けるも、放心しすぎて答えられなかった。

「運んできたものがなんだかわかったんだな」

 クレートは中身を知っていて仕事を受け入れていた。

 それは当たり前のことである。

 この船のキャプテンとして荷物がなんであるか確認しないはずがない。


「急なことだったそうだ。病院側は出来る限りの対応はしたそうだ。酷だがこういうことはよくあることだ。黙っていてすまなかった」

 クレートの心遣いは良く分かる。

 もし、これが自分とは関係のない全く見知らぬ人であったなら、救急に携わった誇りをもてるかもしれない。

 しかし、一度でも声を交わし、元気な姿を見た知っている女の子だったから、キャムは衝撃を受けていた。

 クレートはそこまでは知らなかった。

「さあ、そこにいても邪魔になるだけだ、立つんだ」

 クレートに手を差し伸べられたが、キャムは一人で立ち上がった。

「僕は大丈夫です。取り乱してすみません」

 元気のない沈んだ声だった。

 そしてとぼとぼと船に戻って行く。


 ジッロが声を掛け、ちょっかい出そうとするも、キャムは何も言わずに無視をしてしまった。

「おい、キャム、一体どうした」

「ジッロ、ごめん。ちょっと一人になりたいんだ」

 つれないキャムの態度に、ジッロは一抹の寂しさを感じて動揺してしまった。

 その原因が知りたいと、クレートに走り寄った。

「おい、一体何があったんだよ。キャムの奴なんか変だぜ」

 クレートは臓器を運んできた事を告げ、隠して気を遣ったことが裏目に出てしまっただけだと説明した。

「ちょとまて、今、心臓発作でなくなった少女の臓器って言ったな」

「ああ、そうだが」

「その子、俺たちが昨日病院で会った子かもしれない」

「なんだって」

 クレートだけがその事を知らなかった。

「多分そうに違いない。だからキャムはショックを受けてるんだ。俺ですら、そんな話聞いて苦しいぜ」

 ジッロはどうしようかと逡巡しながら、やはり放っておけなくて、キャムの後を追うように走っていった。

 クレートはどうすることもできない思いを抱きつつ、運ばれていく箱をぼんやりと眺めていた。

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