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人の話は最後までよく聞きましょう

お偉いさんの宰相が喜び勇んで邸を出て行った頃、私は問答無用とばかりにラルフに首根っこ掴まれて大公様の執務室に連れ込まれてた。

酷いよね、ヒトを猫みたいに扱うなんてさ。

ましてや私はレディなんだぞ!しかもアンタより一歳も年上だってのに!

「――という訳です、父上」

ラルフは宰相さんと私のやり取りを一言も漏らす事なく報告する。

ロマンスグレー全開の大公様は頭を抱え、隣にいたエリックもテレビでよくある超苦いお茶を飲んだような顔になってる。

「アンジュ。お前はまだこちらに来て日が浅いというのに、そんなに簡単に結論を出していいのかい?」

渋い俳優さんみたいな大公様は、ため息まじりに言う。

ため息ひとつでも絵になるってステキです!

でも、なんでそんなに深刻な顔してるんだろう?

「簡単にって言いますけど、このチャンスを逃したら駄目だと思うんです。だって、宮廷料理人なんて、そう簡単になれるもんじゃないでしょう?」

「……」

私の発言に、みんなは石像になったかと思うほど硬直した。

私、どっかのゲームみたいに石化とか鋼鉄化する呪文とか使っちゃった!?

もしかしたら凍らしちゃった?

って、そんな訳ないよね。

何よ、フリーズしちゃうほど宮廷料理人になるっていうのが変なの?

「まさか、アンジュ……宰相が『お仕えする』って言った意味、取り違えてる……のか?」

エリックの眉間のシワがどんどん深くなっていってる。

せっかくのイケメンが勿体無い!

「お仕えって、仕えることでしょ? あ、もしかしてメイドさんって意味だったの?」

あぁ、そっか、いきなり宮廷料理人っていうのは話が飛びすぎ?

まずは下働きからっていうのがセオリーだよね。

でも、メイドさんも悪くはないかな。

ここのメイドさんもメイド喫茶みたいなフリフリエプロンしてるわけじゃないけど、結構かわいい制服着てるし。

「メイドでも侍女でも大丈夫ですよ。一応、日本でも色々バイトしたし。いつまでもぐうたらして働かないっていうの、落ち着かないし」

ちっちゃなカフェでバイトした事あるから大丈夫。看板娘的な扱いされて、結構繁盛したのよ!

「いや、違うよ、アンジュ」

「何が?」

何故だか、今日のエリックとの会話はいつものようにスムーズに運ばない。

「宰相閣下が仰っていた『お仕えする』という言葉は、宮廷料理人になるわけでも、侍女になるわけでもない」

「?」

「皇太子殿下に『仕える』というのは、夫人になる事――つまり、婚姻関係を結ぶという事なんだ」

「はぁ!?」

どっか~~~~~ん!!!

爆弾が頭に直撃した! っていう位の衝撃を受けた。

夫人? 婚姻関係?

つまり結婚しろって事?

私、それに対してOK出しちゃってたって事???

「うそっ!」

「嘘でこんな話はしないよ。まさかお前の噂がラファリアット皇国にまで届き宰相殿の耳にまで入るとは思わなかったから、お前を守る体制を整えてあげられなかった。せめて目に留まるのは避けようと隔離していたというのに……不運にも偶然が重なってしまった」

大公様はうつむいて深い深いため息を吐いた。

いや、そんなに落ち込まなくても!

深く考えもせず、相談もせずにOK出したの私だから!

そもそも、隔離されて外に出たいって駄々こねたのは私だし、目立つなって言うラルフを無視したのは私だから!

昔っから、『人の話はよく聞きなさい』ってお説教されてたもん!

……私ってバカ?

「あの宰相殿の事だ、もうラファリアット本国では受け入れの準備に取り掛かっているだろう。もはや、発言撤回は無理と考えたほうがいい」

どガーン!

今度は頭に岩が落ちてきた感じ。

金タライだったら笑えるけど、岩だと笑えない。

「しかし父上!」

「ラルフ。我が大公家は聖域を守る一介の自治区領主にすぎん。いかなる場合でも中立を保たねばならん誓約があるゆえに諸国は友好的ではあるが、大国たるラファリアット皇国に対抗する力は無いに等しい。口約束といえ、アンジュが返事をしたという時点で我等はそれに従わねばならん」

「そんな……」

「僕も嫌だよ、アンジュがお嫁に行っちゃうなんて」

ハロルドは目を潤ませて縋ってくる。

なんだか小型犬に甘えられてる気分。

「お前も諦めなさい、ハロルド。お相手がラファリアット皇国皇太子である事を幸いだと思うしかあるまい」

大公様は立ち上がって、自己嫌悪のあまり青一色に染まってる私の肩にポン、って手を置いた。

「ラファリアット皇国の皇族は多夫多妻制で、その分、離縁もよくある話だ。お前は養女とはいえ、私の娘。あちらの気質が合わなければ、いつでも気兼ね無く戻ってきなさい。いいね、アンジュ」

もう! なんて優しい言葉を言ってくれるんだろう。

アマリア様がドイツに還らないでいた理由も分かるよ。すごく素敵な旦那様だもん。

戻ってこい、って言葉は本当にありがたい。

その言葉があるだけで、心の持ち方が違う。

全然知らない国の見たこともない人と結婚なんて、本当に考えられない。

まず日本にいたら有り得ない話。

でも、ここは日本じゃない。

だから何が起こったって不思議じゃない。

いいよ、いつかは日本に還れるんだもん……何事も経験だよね。

日本じゃ絶対に経験出来ない皇太子の嫁って立場、味わってみるのもいいかもしれない。

――そう思わなきゃ、やってらんないよね!



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