懐かしの再会
ダンスって意外に重労働。
練習の時はこんなに着飾ってないから、ターンだってラクラクだったけど、今は違う。
ドレスは重いし、髪はてんこ盛りだから踊りにくいったらありゃしない。
もう無理、ほんとに。
二曲踊っただけで体中が悲鳴を上げてる。
情けないけど、明日は絶対筋肉痛になってる自信がある。
「三曲目に移るか?」
「勘弁してください、皇太子サマ……」
レイヴィスはまだ踊りたかったみたいだけど、断固拒否!
これ以上は無理。だって膝がガクガクしてるんだもん。
「この度は誠におめでとうございます」
ん?
この声!
「大公様! アマリア様っ!!」
目の前に、懐かしい人発見!
嬉しさで涙出そう!
「おやおや」
「うふふ、元気そうで安心したわ、アンジュ」
あまりの懐かしさと嬉しさで、思わずアマリア様に抱きついてしまった。
あ~、懐かしい。アマリア様の匂い、すごく優しい香り。
大公様のところから出てたった一ケ月しか経ってないのに。
この星での"帰る場所"はアマリア様の所だって実感する……優しい、優しい人。
隣で困った顔して眉尻を垂れている大公様も、大好き。
私の、こちらの世界でのお父さんとお母さん。
短い間だったけど、感謝してもしきれないくらい大好きな人たち。
「御無礼を御容赦下さい、皇太子殿下」
「頭を下げる事など必要ない、ジースト公。そなたは私の義父と言える間柄になったのだから。それに、姫も養父とはいえそなたらに会えて嬉しいのであろう」
大公様とレイヴィスが堅苦しい口調で話をしてる。
こういう堅苦しい会話は、聞いてるこっちが肩が凝る。
「アンジュ、綺麗だね!」
ハロルドが小声で話しかけてきた。
正装してるハロルドはとっても可愛い。
学芸会の王子様役の子みたいだね。
エリックもラルフもキッチリした格好だし、うん、結構格好いい。
エリックは私を見てニコリと笑ってくれた後、大公様とレイヴィスの話に耳を傾けてる。
「ふぅん、上手く化けたな」
そう、この口調よ!
人の神経逆なでする口調は相変わらずだね、ラルフは!
むかついたからスルー決定!
「いつものアンジュも可愛いけど、こんな風に着飾ったアンジュはとっても可愛いよ!」
「ありがと、ハロルド」
なんて可愛いんだろう、ハロルドは。
よかったねぇ、お兄ちゃんに似ないで。
「僕達、婚姻式の会場にも居たんだよ? アンジュ、気付かなかったでしょ?」
「そうなの? ごめんね、緊張しちゃって、あんまりギャラリーを見ないようにしてたから」
あの人ごみの中で皆を探すなんて無理だと思う。
でも、折角皆で来てくれたのに気付かなかったのは流石に申し訳ない。
「でも、今会えて良かったよ。こんな人が多いならすれ違うのも難しいんじゃなかって心配してたんだ」
「確かに凄い人だよね。呼んでくれなかったら分からなかったかも。ありがとうね」
ハロルドが満面の笑みを浮かべてる。
彼は仕草が子犬みたいで本当に可愛い。
癒し系だよね、ハロルドは。一家に一台欲しいところだわ。
「年始より、次男のラルフを大使として任命いたします。大使館での逗留となりますので、何かお困りの事がございましたら御連絡下さい」
「ああ、サシューロ大使は高齢であったから退任されるのか。あの御仁には大変お世話になった。退任される際は皇国より何か記念品を贈与しよう」
……ん?
何だ、この話の流れは。
「大公様。ラルフがこちらに……ラファリアット皇国に来るんですか?」
「ええ。皇国に駐在する大使として赴任させる事が決まりましたので」
――大公様が私に敬語を使うなんて、少しショック。
たとえ聖地でも小さな自治区を治める大公様と、世界屈指の大国の皇太子夫人とでは、立場上こういった口調になってしまうんだ……仕方ない事だけど、これはちょっと寂しい。
大公様はこちらの世界でのお父さんなのに。
……いやいや、今は感傷に浸るのはやめておこう。
問題は、ラルフがこっちの来るって事だ。
お妃修行中? に何度か面会したジースト大公領大使のサシューロさんは穏やか~なお爺ちゃんだった。
優しい口調で話してくれるから、とっても癒されてたのに。
あの人が引退して、替わりにラルフが来るの?
そんなぁ……私の"癒し"がなくなっちゃう……。
「ラルフ殿。ジースト大公領名代・大使として、また、姫の兄君としてこの皇国を支えていただきたい」
「……畏まりました」
レイヴィスに声を掛けられて、ラルフは滅茶苦茶低い声で応える。
地を這う様な声ってこんな声なんだろうね。
「ジースト公。明後日には姫の予定は空くはずだ。そのときにゆっくりと歓談されるがよい」
ゆくぞ、と腰に手を回されて歩かされる。
もっと大公様達と話したかったのに。
「ねえ、レイ? 明後日には大公様達と会えるの?」
お偉いさん達から声をかけられて時々立ち止まりながら、広間の中を歩き回るのは結構疲れる。
ダンスのほうがマシかもしれない。気を遣わなくていいから。
「時間を作るように言っておこう」
「決まりじゃないんだ……」
すごく残念。アマリア様とはもっと話したかったな。
しゅんとしてたら、腰に回るレイヴィスの手が少し力んだ感じがした。
「きちんと手配しておくから気に病むな。それはそうと、ジースト公には三人も子息がいたのだな」
「うん。一人くらい女の子が欲しかったってアマリア様が嘆いてたよ」
ハロルドが五歳くらいまではドレス着せられてたと言うのはやめておこう、彼の名誉の為に。
「大公夫人はそなたと同じ異世界から来たのであったな」
「そう、同じ地球人なの。大公様のとこにいる時はその話で盛り上がったんだよ」
「ならば、時々大公夫人をこちらへ招待するとよい。子息も大使になられたというから問題はなかろう」
「えぇっ、いいの? ありがとう、レイ!」
すっごく嬉しい!




