ラスボスの恐怖の微笑み
かーなーりーご無沙汰してました!すいません。
多忙+パソコンがクラッシュするという不運に見舞われておりました。
とりあえず生きてます(笑)
作者が登場人物を覚えてないのに読者様は覚えていらっしゃるか不安です(・∀・;)
んんん~~~~~!!!
角度を変え更に深く入り込み、逃げても追いかけて絡めとろうとして来るなんて、どんだけだよ!
口を離そうとしてもがっちり右手が頭を固定してるし!
離してくれないんじゃ、息つぎも声も出せないじゃないかっ!
結婚式とかでこんなディープキスするなんて聞いた事ないよっ。
口紅が変になっちゃうじゃないの!
ってか、イライザさんから聞いた話と全く違う。
過去三回も額にキスだったのに、何故にディープ? しかも長い!
しかも!!
コイツ上手すぎる!
なんだか悔しい!!
「……せ、宣誓をしかと見届けました。新たな絆を誓いし二人に祝福を!」
やっと艶かしく動く触手のような舌から解放された途端、サンタ大司教が顔を真っ赤にして声高に叫んだ。
動揺してたような気がするのは……気のせいではないよね……。
間近でこんなディープキス見せ付けられたら、お爺ちゃんなら恥ずかしいだろう。
キスに慣れてる私だって恥ずかしい。
人前で、しかも見せ付けるようにキスした事なんてないもん。
私はこれでも日本女子なんだぞ。一応大和撫子なんだぞ!!
「額にするんじゃなかったの? 」
反転して扉に向かって歩き出しながら、手を引くレイヴィスに小さく、鋭く問いかけてみる。
「額に口付けると申しておったか? 」
「今までは額だって聞いてたんだけど? 」
「どこに口付けをするかなど決まっておらぬ」
満面の笑みを浮かべながら、参列者に視線を送るレイヴィスはしれっと言ってのける。
確かにそんな事言ってないけどさ!
今までがそうだったんなら今回もそうだと思うじゃないか!
くそう・・・・・・何だか騙された気分。
何が"女好きではない"よ。
こいつにBL疑惑をかけたのは誰だよ! って私だ!
このイケメン皇太子はエロだ。ムッツリスケベだ。ツンデレだ。
イケメンとはウハウハなハーレムの中に存在するものだと私は思っているけど、こんなムッツリ系を望んでない。
このムッツリめ!! と悪態をついてる間に扉をくぐり、先ほど通った廊下とは別の廊下に出た。
明るい日差しが天窓から入ってきていて、少し眩しい。
廊下には侍女さんが大量に控えていて、わらわらと準備をしている。
「殿下はこちらへ、姫様はこちらへどうぞ」
一番偉いと思われる頭上にお団子をした年嵩の女官さんが指示し、侍女の大群は言われた通りに私とレイヴィスを引き離し別室に押し込んだ。
あっという間にドレスを脱がされ、大きな鏡の前に強引に座らされて、化粧を落とす――と思ったらまた化粧。
さっきまではキリっとした出来る女系の化粧だったけど、今度は甘めな感じ。
ドレスに合わせて化粧を変えるのはどこの星でも一緒みたい。
化粧の後は髪のセット。
複雑に編みこまれて、ふんわりふわふわなヘアスタイルになった。
かなり盛ってる感じで、リボンだけでなく生花が所々につけられる。
その速さはまさに神業。パリコレでのスタッフ経験があるんじゃないか?
「アンジュ様。少しだけでもお召し上がりになりませんと、式典できつうございます」
ミュスカがサイドテーブルにパエタというサンドイッチみたいなパンを置いてくれた。
何かの肉をスモークしたのと、野菜とチーズが挟んである。味付けはもちろんきつめの塩コショウ。
マヨネーズプリーズ!!
よし、決めた!
明日でも時間が空いたら絶対マヨネーズ作ってやる! そしてこの星に浸透させてマヨ文化を定着させてやる!
あ、忘れてたけど、大公様のトコで仕込んだ味噌も出来上がってるはず。
マヨと合わせて味噌文化も浸透させよう。
――とか考えながら、何とか完食。作業でいじられながら食べるのってキツイ。
もう一つ食べようかと思ったら、立たされてドレスを着させられる。
ちょっときつめにコルセットをされたから、もう一つパエタを食べるのは諦めた。
こんな窮屈な状態でもう一つ食べたら、きっと具合悪くなっちゃう。
「とても美しゅうございます。御伽噺の花の女神のようでございますね」
全て仕上がった姿を見て、侍女の大群が口々にそう言う。
試着の時に"妖精"って言われたけど、今度は"女神"に昇格しちゃった。
その御伽噺に載ってる花の女神とかいうの、見てみたい。
……いや、見ないほうがいいかも。
理想と現実。知らない方がいい事実だってあるよね、うん。
そうこうしている内に、部屋を出て廊下を歩かされる。
これから宮殿の最奥宮の中にある"何とかの間"っていう所に向かうらしい。
式典会場の名前なんていちいち覚えない。
だって、絶対日常生活には必要ないもん。
パティシエールを目指してた私には、栄養学のほうが重要だもん。
管理栄養士の資格だって、もうすぐ手に入るはずだったんだぞ!卒業したら!
なのに他所の星に飛ばされちゃったもんだから、資格がパアよ!
なにしてくれるのよ、ほんとに!
あ、違う違う。
いや、今問題なのは。
やたらと長い廊下を歩かされる、この無駄さが問題よね。
何で婚姻式と式典の会場がこんなに離れてるのかって事よ!
こんなに離れてたら招待客の移動だって時間がかかるし、とっても効率が悪い気がする。
空港にある動く歩道があればいいのに……ピンヒールで歩くの、かなり疲れたんだけど。
『女神』は私なんかじゃなくて、科学者とか技術者を召喚したほうが良かったんじゃないのかな?
私は料理とお菓子作る事だけしかできないけど、そういう人を呼んだらこの星はもっと文明化すると思う。
いや、決してこの星が文明開化していないとかいう訳じゃないけど……現代っ子としては、文明の利器がないと不便だと感じる訳で。
電気がないから部屋の灯りはランプで、それはいい雰囲気だけど――冷蔵庫もない、レンジもない。もちろん携帯電話もパソコンも……不便極まりないったらありゃしない。
せめてハンドミキサーだけは発明してほしい。
エジソン的な人物、やってこいっ!
そうだ、今夜夢で『女神』と会おう。
そして、はっきりと人選を間違えてるぞ、って言ってやる!
ちょっと現実逃避していたら、大きな扉の前でレイヴィスと合流した。
婚姻式とあまり服装は変わっていない。
ただ、深紅と金糸で刺繍された重そうなマントを肩からさげ、金の額冠をしている。
顔が派手だから、服が派手でも見劣りしない。
ここまで派手なのが似合ってるんだから、アイドルみたいに羽を背中にくっつけても全然似合うと思う。
いや、ぜひ羽を背負ってほしい。きっと似合うはず。
そんな事思ってたら、部屋の中から大音量でファンファーレみたいな音楽が流れてきた。
穏やかなクラシック曲っぽいけど、私の希望としては入場定番曲の闘魂を思わせる曲にしてほしかった。
だって気分は戦闘モードだからね。
かかっってこいやーーー! って感じ。
「参るぞ」
「イノ……了解」
危ない危ない。♪猪●!ボンバイエ♪ って言うところだった。
頭の中、完全に「1・2・3!ダー! 」 だからね、仕方ない。
レイヴィスに手を預け、ゆっくり開く扉から一歩踏み出した。
"何とかの間"はドーム球場並みの広さだった。
その広さの中に、大勢の着飾った人達。
招待客の人達は部屋の真ん中にある絨毯を避けて立っている。
その絨毯の上を、レイヴィスに手を引かれながら歩いていく。
部屋の最奥には階段があって、その最上段にいわゆる玉座なんだろうと思われる椅子に座ってる人物がいる。
向かって右には深紅のドレスを着たシシェン様。
その隣の椅子に座っているのはレイヴィスよりも金糸が多く刺繍されてる服を着た、がっちりとした男の人――多分、セルデン皇帝陛下。
最上段の一つ下には、絨毯の右側に三人の大人の女の人と、男の子が一人と女の子が二人立っている。
左側にはリジェーナ様達レイヴィスの夫人が三人。
「ねぇ、リジェーナ様と一緒の段にいる人達って、ロイヤルファミリー?」
「ロイヤル? ……我が皇家の一員かという質問ならば、それは正解だ。父帝の夫人達だからな。リジェーナ、そして父帝に近い位置におるのがユファノ第一夫人……父が皇太子であった時代より母とは仲が悪い」
「ああ、だからあんなに無表情なんだ」
ゆっくりと歩きながら、見事に無表情なユファノ第一夫人を見る。
アーセラから聞いた"宮廷裏話"によると、ユファノ第一夫人はどこだったか大国の公女様で、プライドが人一倍高い人なんだそう。
皇国皇室は一夫多妻制で、何人かの妃が輿入れし、後継となる男子を産んだ妃が皇妃となるのか慣習なんだって。
ユファノ第一夫人は、皇妃になるものと輿入れしてきたのに、そのすぐ後に皇国公爵家のシシェン様が輿入れしたから約束が違うと文句を言ったとか。
そして、皇妃候補筆頭であった公女である自分よりシシェン様に御子が生まれ皇妃位を確立したもんだから、二人の仲は壊滅的に悪いらしい。
「ユファノ第一夫人のすぐ後ろにいるのがロヴェルツ、私の異母弟だ。その隣にいるのがロヴェルツの婚約者ファルグレイブ伯爵家のセレイン」
細身で教育ママを連想させるユファノ様の隣にいるイケメンはじぃっとこちらを見ている。
レイヴィスがクールなイケメンとしたら、弟君は甘めのイケメン。
日本に生まれてたら、イケメンアイドルとして歌って踊っていただろうと思われるほど、完璧なアイドル顔。
そんな童顔アイドル顔で、しかも熱のこもった視線でガン見しないでほしい。
仲の悪い兄なんか見ないで、隣にいる可愛い婚約者さんを見なさいっての。
彼女、ちょっと顔色悪いじゃないか。
「セレインの隣にいるのがルアンナ第二夫人、そしてエーテル第三夫人だ。若いのは末の妹ミラクレア」
ルアンナ様とミラクレア様は優しそうな委員長って感じ。
お二人とも母娘であると一発でわかるくらいの激似っぷり。
エーテル様は結構若い。美里ママくらいかな。
「末の妹? 他の兄弟は?」
「実姉二人、異母姉妹三人は他国や皇国貴族に降嫁している。何人かは身重で来ていないが賓客席にいるはずだ」
さすがに覚えきれないぞ、名前と顔。
「ふぅん……やっぱり政略結婚?」
「当然だ。我々王侯貴族にとって婚姻とは義務だからな、私情など関係ないのだ」
「ヤな世界だねぇ」
「まぁ、例外はある。異母妹のマレンデルはカシュード王国の第二王子と結婚したが、二人は恋愛結婚だった。夫人の娘とはいえ、皇国の第四皇女が第二王子に嫁ぐなど前代未聞だったが」
「うわ、いいね、その話。超ロマンチック。後で詳細聞かせてよ」
「……面倒だな」
「きっといい話なんだろうね。うん、楽しみ」
レイヴィスはそう言ったけど、軽く無視。
だって階段までたどり着いちゃったからね。
階段の麓まで来ると、大御所ハリウッドスターみたいに渋くてカッコイイ顔立ちの皇帝陛下の顔がよく見えた。きっと若い頃はかなりのイケメンだったんだろうと推察。
渋いオジサマ皇帝がサっと手を挙げると、今までのとは違った壮大な音楽が流れ始る。
階段を上り、皇帝陛下と皇妃陛下のいる段の手前で一礼する。
「アンジュ・シャトゥー・ジースト姫。"大いなる意思"への宣誓をしかと受け止め、我が皇族の一員となるのを認めよう。新しき余の娘として、皇太子夫人の称号を与える」
皇帝陛下の短くてありがたい祝辞をもらい、くるりと方向転換。
参列者のほうを向くと、司会者のようなおじさんが届いている祝辞や祝いの品も目録を読み上げる。
こういうの、どこの世界でも一緒なんだね。
しっかし、無駄に長い。皇帝陛下の祝辞なんて意外にあっさり一言だったのに、なんでこうも祝辞が長いのよ。
永遠に続くかと思った祝辞の読み上げが終わり、曲が舞踏会ちっくなものに変わる。
部屋の影からわらわらと給士が出てきて、部屋の一角に料理やお酒を並べ始めた。
そっか。立食パーティ形式なんだ。
「わたくしの予想よりもはるかに可愛らしいわ、アンジュ姫」
渋い皇帝陛下と腕を組んでシシェン様がにこにこと笑いながら壇上から降りてきた。
そう言えば、まだお礼を言っていなかった。言っとかなきゃ!
「シシェン様。先日は見事な首飾りをありがとうございました」
マナー通りに、ドレスの裾をつまんで礼をする。
ディズ●ープリンセスちっくなやつね。
「あの首飾りを婚姻式でつけてくださったわね。とてもお似合でしたもの、贈った甲斐がありましたわ。今お召しになられているドレスも素晴らしいわ」
うふふ、と妖艶に笑う年齢不詳の深紅のドレスを着た美女は、その風格からしてラスボス的。
美しい笑顔の下に色んな打算や欲望が渦巻いてる感がありありです、シシェン様。
「陛下。アンジュ姫の可愛らしさはいかがかしら?」
「このように可憐な姫ならば、甲斐性なしの息子より余の後宮に入れるのであったな」
「まぁ、陛下。御戯れを」
クスクスと笑うシシェン様だけど、目が笑ってないから超怖い。
勇者のパーティを全滅させたラスボスの笑い声にしか聞こえません!
「冗談はさておき、そなたのような可憐な姫を新たな娘として迎える事が出来、ジースト公には感謝しておる。レイヴィスと良き関係を築けるよう、祈っておるぞ」
渋さ全開のオジサマ皇帝陛下は悪戯っぽく笑い、私の頭をなでなでする。
――お父さんになでられてるような、何だか懐かしい感じがする。
渋い皇帝陛下はレイヴィスに何やら耳打ちして、眉をひそめた息子を見ながら満足そうに頷いてシシェン様と一緒に別の招待客の所へと去っていった。
何を言われたのか、レイヴィスは苦虫噛み潰したような顔を消さない。変なの。