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ひとりファッションショー

「遅い」

部屋に入るなり開口一番がこのセリフってどうなのよ。

うん、確かにイライラしてるよね。

私がいない間、なんかやらかしてるんじゃないかな?

侍女Sがうつむいてるもん。

こんな調子で部下に八つ当たりしてたら駄目じゃんか、嫌われるよ?

「ごめんごめん。ほら、こんなに眉間にシワ寄せたら折角のイケメンが台無しよ」

超苦いお茶を飲んだみたいにしかめっ面のレイヴィスの隣に座って、ついでに眉間をなでなでしてやる。

まだ若いのに眉間にシワがあるなんて駄目だよ。

シワありのイケメンなんて私の中じゃ許せない。

「……例のドレスが届いておる。着て見せよ」

「え~、今着るの? 折角おやつ作ったのに」

「今だ」

この我侭め。

ここで駄々こねてもいいけど、壁に張り付くようにして立ってるデザイナーさんやお針子さん達に申し訳ないもんね。

留守してる間、散々あのイラつきオーラに当てられて参ってるはずだもん。

これ以上負のオーラに当たってたら病気になるわ。

着替える為に衣裳部屋に移動しましょうかね。

衣装部屋って言ったって、日本にいた頃の私の部屋より広い。

大きな姿見鏡と、ゴージャスなお姫様的ドレッサーが威圧的。

姿見鏡のそばに、カバーがかかったマネキンがふたつ。

「こちらが婚姻式に纏っていただくドレスでございます」

ひとつのマネキンのカバーを外すと真っ白な婚姻式用のドレスが出てきた。

よく見ると蔦とダリアっぽい花が刺繍されてる。

こんなに細かい刺繍を全部手縫いでしたんだよね?ミシンなんてありそうじゃないし……なんだか非常に申し訳ない。

どんだけの職人さんがどんだけの時間をかけて作ったんだろう。

恐ろしい迫力の国家権力に脅されて作るんだもん、やっぱ絶対王政ってすごいって思う。

王族ってこういう事なんだよね。

なんだか身が引き締まる思いがする。

いろんな人の思いと汗が詰まったドレスなんだよね、これって。

「その花はジェリスという花にございます。南方に咲く鮮やかな赤紫の美しい花ですよ」

黙ってる私を見て、イライザさんが説明してくれる。

きっと刺繍に疑問を持ったって思ったんだろうね。

イライザさんの話では、皇族に入るとそれぞれ象徴となる植物と動物が下賜されるらしくて、私の場合はジェリスという花とポレーヌっていう動物なんだって。

花は蔦科の植物なのかな?お花は薔薇みたいな、花弁がいくつも重なってる感じ。赤紫なのか……なんか派手だな。

そうだ、ポレーヌってどんな動物なんだろう?後でイライザさんに聞いてみよう。

――なんて事を考えてたら、あっという間に着替えが終わっていた。

文化祭のクイーン決めみたいに『ドレスに着られてる』みたいに浮いてたら嫌だなと思ったけど、意外や意外、そこまで浮いてない。

きっとデザイナーさん達の腕がいいんだね。流石プロ!

髪には女子の憧れティアラがあるし、乙女心は浮かれっぱなし。

「お綺麗ですわ、姫様」

イライザさんが満面の笑みを浮かべて褒めてくれる。

「皇妃陛下よりお品を預かっております。どうぞお改め下さい」

イライザさんが差し出したのは、箱自体がかなりお値段張る感じの小箱。

ダイヤみたいな輝きを放つ留め具を外して蓋を開けると、中にはピンクかかった真珠らしき宝石のネックレスが入っていた。

すごい、コレ。

何が凄いって、この真珠? の大きさ!

シュウマイくらいの大きさだよ!?

一体いくらすんのよ!?

手が震えてマジ怖いわ!!

ん?

シュウマイ真珠の下に、小さな紙切れがある。

サイドテーブルに小箱を置いてその手紙を開いてみると…


『ごきげんよう、可愛い姫君。ドレスを着たあなたを実際に拝見してから似合う宝飾を準備すると申したのだけれど、あの朴念仁がわたくしの立ち入りを禁じてしまったので、そちらに赴く事が出来ないのです。残念ですが、婚姻式のドレスに合いそうな首飾りを贈ります。婚姻式であなたの可愛らしいお姿を拝見する事、楽しみにしております。あなたの姉シシェンより』


……イケメン君、本当に実母を出入り禁止にしたのか。

変なところで有言実行の男だな。

しかし"姉"って何だ、シシェン様。"義母"の間違いだろ。

まぁ、突っ込む勇気はありませんけど。

「イライザさん。このネックレス、婚姻式の時につけるからしまっておいてくれる? 」

重いな、シュウマイ真珠……でも、もらったんだからつけないわけにはいかない。

序列とかはしらないけど、簡単に考えても皇帝の奥さんなんだから権力者には間違いないもんね、失礼な真似したらヤバイ。

「畏まりました」

イライザさんは小箱を受け取り、ドレッサーの隣にある棚にしまった。

「失礼致します」

お針子さん達が、どこかきつい所がないか、丈の長さとかをテキパキと見て、大丈夫だという結論が出た。

「では、姫君。次はこちらを」

デザイナーさんが出したのは、特注のピンクのドレス。

ホルターネックで、薔薇とリボンのチョーカーから指先までは薄いヴェール。

胸のすぐ下にベルベットタイプの生地でベルトみたいに絞ってあって、そこから流れるようにヴェールがスカートの上にフワフワと乗ってる感じ。

美里ママのをイメージしたんだけど、微妙に違う。

チューブトップだったはずなのにホルターネックになってるし。

でも、これはこれでとっても可愛い。

「すごく可愛いね、このドレス。予想以上に可愛くなってる。でも、今着ているドレスは脱いでいいの?レイに見せなくてもいいんだ?」

「はい。婚姻式の装いは式当日までお相手に見せる事は出来ない慣習でございます。ですが、こちらのドレスはそのような慣習はございませんので、皇太子殿下も一足早くお目にかかりたいとおっしゃっておられます」

よく分かんないけど、ウエディングドレスは当日までのお楽しみで、カクテルドレスは見てもいい、って事か。

「姫君の御所望とは違う形になってしまい、申し訳ございません。肌の露出が多く不敬でしたので、勝手ながらこちらで変更させていただきました」

ああ、やっぱりそうか。

こっちの世界の人は肌を露出しないもんね。

だから首元にチョーカーがついて肌を隠すようにヴェールがしてあるんだ。

ここは気候が日本で言ったら年中秋くらいだから、暑くて露出する季節がないせいかもしれないけどミニスカ履いてる人なんていないもんね。

「いいよ、気にしないで。とても可愛く仕上がってるから、すごく気に入ったし」

着てみると、すごく身体にフィットしてる。

露出を控えた、と言ってるけど、ホルターネックと胸のすぐ下のベルトの効果で胸が寄せ上げされて谷間がいつもより二割増しになってる。

これはモロに露出するよりエロい気がするのは私だけ?

巨乳になった気分で嬉しいけど、これって、ちょっと高い位置からなら谷間丸見えじゃね?

「花の妖精のようですわ」

髪も結い上げてドレスとセットの薔薇とリボンの髪飾りをつけると、アーセラが頬を赤くしながら、心酔するように見つめていた。

そんなアイドルに送るような視線をされると、照れちゃうじゃんか。

でもさ……"花の妖精"ってざっくりした褒め言葉だよね……。





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