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ロールケーキ作りました

ご無沙汰してます。


イケメン君との晩餐から一週間。

一週間は怒涛の日々だった。

ああ、いけない。遠い目になってた。

午前中はラファリアット皇国の歴史や皇族貴族についてを学び、午後はマナー講座とダンスの練習。

もともと歴史好きだから、勉強も苦じゃない。ただ、高校時代に習った世界史よりも名前と地名が長くて覚えるのには苦労しそうだけど。

マナーは西洋形式だから、学校で習ったのとほぼ同じ。

少しの違いは地域性の違いで済まされるみたいだから、今の所叱られる事もなく済んでる。

花嫁修業的な勉強の合間に、何年か前に日本から飛ばされてきたっていう人と会ったんだよね。

久々に見た、典型的日本人・大澤憲一郎くん。

メガネ萌えしそうなアラサー男子。

城下でお医者さんをしてる大澤くんは、ケン・オーサって呼ばれてる。

おおさわ、って発音しづらいんだって。

私の苗字さとう、もシャトゥーだしね。仕方ないか。

原因不明の皇帝陛下の病気を治癒した奇跡の医師、なんだって。

主治医だと診察がてら挨拶に来た大澤くんを捕まえて喋り倒した。

それほどたいした話はしてない。ただ、食事について盛り上がった。

●クドナルドの照り焼きバーガーが食べたいとか、ス●ローで寿司食べたいとか、そんなたわいもない話。

その夜は日本が恋しくて泣いちゃったんだけどね。

泣いちゃった次の日だって、花嫁修業は容赦なくやってくる。

ホームシックなんてキャラじゃない。

忙しいのは余計な事を考え込む時間がなくて助かってるっていうのが本音。

いろいろある勉強の中で、一番楽しいのはダンスの練習。

実の母親に育児放棄されてたせいで、小さい頃はお隣の妙子おばさん――美里ママのお母さん――が私の面倒を見てくれてた。

妙子おばさんは活動的で、地域のボランティア活動にも積極的に係わってたから、色んな所に私を連れてってくれた。

そのひとつが社交ダンスサークル。

何度も練習を見学したし、ステップも教えてもらった。

それが今効いてる。

少しの経験でも役立つんだなって、実感する。

そして、お茶の休憩を挟んだら、お待ちかねのお料理タイムがやってくる。

イケメン君が手配してくれて、ほんの一時間ちょっとだけど南宮の厨房を貸してもらえるようになったの!

厨房長はプロレスラーみたいな厳ついおっちゃんだけど話すととってもいい人で、料理好きな私をすぐに受け入れてくれた。

材料が少ないからまだ手の込んだのは作れないけど、十分ストレス発散が出来る。

昨日はスコーンを作った。もちろん、この国の特産物である果物でジャムも作って。

ジャムの存在を知らなかった厨房の人達は、本当に目玉が落っこちるんじゃないかって位に驚いてたし、食べて尚更驚いてた。

さて、今日は何を作ろうかなぁ。

「姫、コレでいいですか?」

おっちゃん、もとい、シザレー厨房長が大きなポリ容器みたいなものを見せてくれた。

容器の中には真っ白な液体。

ひとすくい舐めてみると、これはまさに生クリーム!

この星、バターはあるのに生クリームがないという不思議な現象があったんだ。

乳脂肪分の高い牛モドキ(聞いた所によると濃いブルーの色した動物らしい)から出来るバター。

バターやチーズの原料だという意識が強いのか、それ自体を使うって事がなかったみたい。

「うん、これだよ! 取り寄せてくれてありがとう」

シザレーさんに礼を言って、早速作業に取り掛かる。

今日は念願だった生クリームが手に入ったし、ずっと作りたかったロールケーキを作るのだ!

鼻歌を歌いながらひたすら卵を泡立てる。

途中疲れた時はシザレーさんや他のスタッフさんがやってくてた。ってか、やりたがってたからお願いした。面白がってやってくれたおかげで、すぐに生地が出来ちゃった。

生地を天板に薄くならして十五分くらい焼いてる間に、生クリームを泡立てて、豊富なフルーツをカットしておく。

うふふ、楽しみ~。

「あ~、やっぱりここでしたね、姫君」

「あ、イルクさん、ハージェスさん。こんにちは~」

スポンジを冷ましてたら、イケメン君、もとい、レイヴィス皇太子殿下の従騎士さん二人がやってきた。

従騎士だけあって、二人とも背も高いしガッチリしてる。

イルクさんはノリがいいお兄ちゃんで、とても面倒見がいい。

ハージェスさんは――モロ好み顔。

もちろんイケメンなんだけど、ちょっとワイルドでクールな感じで、某歌って踊るグループのダンサーみたいな。

格好いいなぁ、本当に。

簡易鎧を着けてるけど、それがまたライブのコスプレみたいで格好いい。

でも、出来たらキレイに整えてあるアゴヒゲを剃ってほしい。

「アンジュ姫、姫のお部屋で殿下がお待ちです」

「レイが来てるの?」

あのイケメン君は私が"殿下"って呼ぶのを嫌がる。"レイヴィス"って呼ぶように言うけど、発音が難しいから"レイ"って呼んでる。

つい"殿下"って呼んじゃう時があるけど、途端に機嫌が悪くなるから普段でも言わないように心がけてるんだよね。

大事なパトロンの機嫌を損ねるわけにはいかないから。

「はい。急ぎお戻り願います」

「政務が溜ってイライラしてたから姫の部屋に気分転換に行ったんですけど、留守だったんで」

「余計な事を言うな、イルク」

うげ。イラついてるのか。

普段でもちょっと怖いくらいの雰囲気のイケメン君なのに、不機嫌丸出しだったら怖いと思うわ。

正直、会いたいとは思わない……でも、会わなきゃ駄目よね、この状況下では。

「じゃあ、ちょっと待ってくれる? ちょうどスポンジも冷めたし、仕上げに入るから」

会釈してくれたから、オッケーって事よね?

うん、作業しよう。

薄くクリームを乗せて、フルーツ置いて。

またクリームのけてクルクル巻いて。

コツは生地の端っこまでクリームを塗らないこと。

下に敷いたガーゼっぽい布ごと持ち上げて、クルっと回転。

うん、上手に巻けたわ~♪

長く出来たロールケーキを半分に切って、それぞれまわりに生クリームを塗って、フルーツを散らして……完成!

ああ、美味しそう! 早く食べたい~!

「アーセラ、コレ、お部屋に持って行ってくれる?」

半分だけ、お部屋に持って帰る事にする。

いつもなら厨房で味見がてら皆で食べるんだけど、部屋に皇太子を待たせてるのにそんな真似はできないもんね。

「シザレーさん、厨房を使わせてくれてありがとう。それと、片付けしなくてごめんなさい」

「何をおっしゃるんです、姫! 片付けなんて気にせずにどんどん使っちゃってください!」

「うん、ありがとう。この半分、味見してね」

恐縮するシザレーさん達に手を振って、ハージェスさんの先導で部屋に戻る。

イルクさんは私とアーセラの後ろについて、警護してくれてる。

「忙しいみたいなのに、何の用だろ」

「いつぞやのドレスが出来上がったそうですよ」

独り言のつもりだったのに、イルクさんがニヤニヤした顔で言う。

「……ってのは口実で、実は姫に会いたかっただけだと思いますけどね」

う~ん、完全に騙されてるぞ。

イルクさんもハージェスさんも、当然だけど私をレイヴィスが交わした交換条件を知らないんだもんね。

ラブラブのフリをすれば厨房出入りOKの"交換条件"。

あれ以来、レイヴィスは毎日私の部屋にやってくる。

午前のお茶休憩に来れなかったら午後の休憩時に。

今日だって午前中に来たから一緒にお茶を飲んだ。

あれ?

そう言えば、フリなんてしなくていいって言ってたっけ?

でも私には厨房出入りさせてくれてるし。

一体どんな交換条件にしたんだっけ??

……ま、いいや。どっちみちお菓子作れるしね。


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