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皇太子の後宮解説

年齢不詳の自称・イケメン母が部屋から出て行っても、私の頭は混乱したまま。

信じられん、全くもって信じられん。

「ねえ、本当にシシェン様はお母さんなの?」

「ああ。あれでもうすぐ五十歳になる、正真正銘の皇妃で私の母だ」

ええぇ、アレで五十歳!?

今まで知らなかったけど、この世界には『魔法』が存在するのか?

おぉ、これでこそファンタジー!

「何の魔法を使ったらあんな風に歳を取らないの? 後学の為に知りたいな」

「マホウ?」

何だ、そのイントネーションは。

魔法は魔法、タネのないマジックだ。

「魔法ってのは、呪文を唱えて火柱立てたり、隕石降らせたり、雷落としたりとかする、超常現象を引き起こす事。あるんでしょ、魔法? でなきゃ、シシェン様の若さの秘訣は何なのって話よ」

「そなたの言う『マホウ』は分からないが、よくあるお伽話の中にあるものだと仮定するのなら、そういった類のものは存在しない。母のあの若さは確かに驚異的ではあるが」

なんだよ、ないのか、魔法。

せっかく違う世界に来たんだから、ちちんぷいぷい的な事したかったよ。

「皇宮は華やかではあるが、実際は血で血を洗う権力闘争が繰り広げられている。そういった厳しい女の世界で血を煮えたぎらせているから歳を取りにくいのだろう、と一番上の姉が言っていたな。」

血を煮えたぎらせると歳を取らない? そんなの初耳。

そんなに権力闘争が激しいのか。

イケメン君の後宮より、皇帝陛下の後宮は相当権力闘争が厳しいんだろうな。

きっと、ドロドロした大奥みたいな、凄まじい女の世界が繰り広げられてるんだろう。

「そんなに権力闘争が激しいんだ、ここって」

「我が国だけでなく、どこの国でも同じであろう」

「どんな風に激しいのか、教えてよ」

ナマの話、聞きたいよねぇ。

「母の話など、どうでもよい。晩餐の準備が整っておるのだ、食すぞ」

「ああ、もうこんな時間なんだね」

窓の外は夕焼け色から紫に変わろうとしている。

えらく長い時間採寸してたんだな。

「失礼いたします」

イライザさんが部屋に入ってきて、食事係の下女さん達にテーブルの配置やクロスの配置をテキパキと指示し、あっという間に食事が出来る状態になった。

テーブルの上には素材の味を生かした、ってか、素材ものものが並ぶ料理の数々。

お城の料理だからフランス料理的なものを想像してのに、何の肉か不明の肉を塩コショウで焼いただけな感じだし、添えてある豆は塩茹でしてあるだけっぽい。

ま、昨日の夕飯もそうだったし、朝も昼もそんなシンプルご飯だったから期待はしてないけどさ……シンプルすぎて悲しいっての。

シンプル・イズ・ザ・ベスト?

そんな言葉、日頃贅沢してるからこその言葉だよ。

たまにはシンプルな味付けって凄くうれしくて美味しいけど、こうも続くと変化が欲しいのよね。

だってさ、サラダに塩かけて食べるなんて……マジで泣きかけた。

ドレッシングがほしい。ドレッシングがないならマヨネーズ。

私はマヨラーじゃないけどさ、マヨネーズが欲しいって切実に思ったよ。

「何かありましたらお呼びくださいませ」

イライザさんはイケメン君にきっちりした礼をし、他の侍女を引き連れて部屋から出て行った。

部屋にいるのは、私とイケメン君のみ。

しーんとした空気で食事するの、苦手なんだけどな……。

昨日は側に立ってくれてたのに、なんで今日は居てくれないんだろ?

「内密の話があるから人払いをさせた。先日は政務が多く話せなかったのでな」

「内密?」

人払い、なんて心躍る言葉だろう。

これこそ王宮ドラマ。

「あ、でも、その前にせっかくだからさっきの話、教えてよ」

「何だ、さっきの、とは」

「血みどろの権力闘争?」

ご飯食べながら血みどろなんて言葉は不釣合いだけどね。

「何故聞くのだ、そういう話を」

「う~ん、何故っていうなら、後学の為?」

嘘嘘。本当は興味だけ。

「……父帝には正妻である皇妃と三人の夫人がいる。我が国では世継ぎである男児を産むと地位があがる」

ほうほう。皇位継承権は男にあるのね。

「母は元々第三夫人であったが、世継ぎである私を他の夫人よりも早くに産んだため皇妃の地位についた。皇妃の地位を得るまで、そうとうな根回しや工作をしたのではないかと思う。母だけでなく、世の姫君の多くは綺麗に見えて中身は黒いものだ。対立しておるのは母が第三夫人であった頃より敵視しておる第二夫人――現在の第一夫人だけだがな」

『綺麗に見えて中身は黒い』か。なかなかの明言だ。

イケメン君ママ、つまりシシェン様が第三夫人から皇妃になったって事はかなりのジャンプアップだよね。そりゃあ、追い越された夫人達は嫉妬に狂うわな。

「母と第一夫人の対立は凄まじいものがある。まずは皇妃位を争い、次に皇太子位を。最近は毒やら暗殺者やらの話は聞かぬが、数年前までは日常的に行われていた」

「こわっ」

「私が皇太子に任命されてからは表立って動いておられぬようだが、水面下では激しく動いておるようだ。皇太子というものは余程の事が無い限りは廃位できぬ。暗殺するにも警備が尋常ではないし、第一夫人も手を変えたのだろう」

イケメン君は厳しい表情で薄いピンク色したお酒をひと口飲んだ。

「今、母と第一夫人は次代の皇帝位、つまり私の次の皇帝位を争っている。互いの皇子に子が生まれるのを今か今かと待ちわびているのだ。」

ああ、そっか。

今の自分の地位を守る為、権力を守る為に孫が欲しいんだ。

『リジェーナは十年――』の話はそこに行き着くわけだ。

ちっとも子供が生まれないから次から次に違うタイプの女の人を迎えるけど上手くいかない――っていう事ね。

ああ、でも何で子供が生まれないんだろう。

シシェン様程じゃないけど、リジェーナ様はじめ、他の二人もかなり綺麗だった。

リジェーナ様は清楚で上品な美女だし、フジコちゃんは色気たっぷりだし、フランス人形ちゃんはマニアヨダレものだし。

シシェン様が言うみたいに、三人の誰かは歯牙にかかりそうなのにね?

いくら政略結婚って言っても、あんだけ美女揃いだったら……ねぇ?

据え膳食わぬは男の恥、だっけ? そんな言葉があるじゃないか。

健全な男子だったら、子供の一人は二人、出来ててもおかしくない。

最後に輿入れしたフランス人形ちゃんでさえ一年半、って言ってたから。

……それとも、イケメン君は健全な男子ではないのか!?

いや、待て待て!

いくらファンタジーでもそれはちょっと遠慮する。いや、断固拒否する。










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