突撃!美人なお姉さま?
採寸が終わり、スーパーモデル級美女の前でドレスを脱がされる私。
これって一体どういう事なんだろうか。
初対面の、しかも超美女の前でほぼ裸にされるという羞恥プレイ。
私にそんな趣味はないんだけど!
出て行って欲しいけど、皇太子の姉に向かってそう言うのは駄目だろうと思って黙っておく。
イライザさんが居たらどうにか取り繕ってくれるんだろうけど、シシェンと名乗る美女が現れてからというもの、侍女sは壁に貼りついて一言も発しないし。
ああ、孤立無援……。
「衣装合わせでこのように見栄えがするのであれば、当日は相当美しく仕上がるのでしょうね?」
シシェンさんはデザイナーさんに優雅に微笑む。
「はい、もちろんでございます。我が腕にかけまして、姫君の美しさをより一層引き出させていただきます」
デザイナーさんは緊張ガチガチで、喋り方が若干おかしい。
皇太子の姉って身分は相当なものなんだろう。
「期待していますよ」
うわ、にこやかに見えて実は黒い笑み。
綺麗な顔して実は腹黒。典型的なお姫様例――この人はマジでお姫様だ。
「出来るだけ早く仕上げなさい。姫のドレスを見て、わたくしが宝飾品を用意しましょう」
「か、畏まりました。十日ほどでお渡しで出来るかと思います」
「十日?」
シシェン様の眉がひそみ、不機嫌丸出しな表情になる。
「い、いえ! 一週間で仕上げます」
「そう、優秀ね」
可哀想に、デザイナーさんも針子さんも怯えてる。
やっぱり美女が凄むと怖い。
「姫がお疲れですよ、お茶の準備をなさい」
壁に張り付いていたマリアムとアーセラが弾かれたように動き出し、神速でお茶を注ぎ始める。
平伏しながらデザイナーさん達は部屋を出て行き、部屋は何とも言えない空気が漂っている。
「姫、あの三人とお会いになったのですって?」
優雅にティーカップを傾けながら、これまた悠然とシシェン様が微笑む。
絵になるってこの事だね。
「三人って……いえ、三人とは?」
権力者相手には言葉使いを注意しないと。
学校の先生、いや違う、お父さんのお店に来てくれてたお偉いさんに話す感じで。
「レイヴィスの夫人達です。リジェーナが茶会を開いたと聞いていますよ?」
「あ、はい。お招きにあずかりまして、ご紹介を受けました」
まずいな、尊敬語と謙譲語がよく分からない事になってきてる。
デザイナーさんの話し方を心配してる場合じゃない。
「リジェーナは十年、モルデイレンは三年。キャロラインは一年半…」
はい?
お姉様、独り言ですか?
「リジェーナの清楚な美しさ、モルデイレンの見事な肢体と美貌に目もくれず、政務に明け暮れて。ひょっとすると幼児趣味か思いとキャロラインを招いたけれど事態は変わらず――」
お姉様、どこを見てるんでしょうか?
目が据わって怖いんですけど!
「この国の未来は、姫、あなたにかかっているのです。頼みましたよ」
えええ?
いきなり話をふらないでよっ。
ってか、何の話ですかっ。
「先ほどの姫のドレス姿を見ればあの朴念仁も変わるでしょう。あなたの異国情緒漂う愛くるしさでレイヴィスを篭絡し虜にしてくださいな」
「とっ!?」
何言ってるんだ、お姉様!?
篭絡の意味はよく分からないけど、朴念仁とか虜とか――かなり際どい発言だぞ!?
よくよく思い返せば、あのド派手皇太子にロリコン疑惑かけてるよ!このお姉さま!
一番可哀想なのはキャロラインな気もするけど、ここはスルーで!
「――何なんですか、こんな所に押し掛けて。ここは私に与えられた宮の一角ですよ、主の私に許可もなく立ち入るのは遠慮していただきたい」
南極の風かと思えるような、冷たい声。
イケメン君だ。
このお姉様といい、こいつといい……いきなり現れるな!
ノックぐらいしろって話よね!
「何をしにいらしたのですか?」
「何を、ですって? そんなもの、決まっているではありませんか。わたくしは、あなたの新しい夫人を拝顔させていただいただけです。想像以上に愛らしい姫なので安堵しましたわ」
「……」
「この姫ならば、今度こそ期待しても良いでしょうね、レイヴィス?」
シシェンお姉様の顔がどす黒く見える。
これこそ大奥。
お姉様は大奥総取締的な存在だ。いわゆる影のボスってヤツ。
「さあ、どうでしょうか」
相対するイケメン・レイヴィス君はそ知らぬ顔。
「今までもそうですが、過度の期待は落胆の材料にしかなりませんよ。気長にお待ち下さい」
「私も陛下も十分過ぎるほどに待ちました。気長に、などと暢気に言っていられません。うかうかしていると、その地位さえも危ういという立場をわかっておいでなのかしら?」
「別に私は暢気に構えているわけではありませんが」
「暢気以外の何者でもないでしょう。十年あれば何人も御子が生まれていて不思議ではない年月です」
姉弟でビチバチ火花が散ってる幻影が見える……きっと気のせいじゃないと思う。
「……これからそちらの――アンジュ姫と夕食の予定が入っています。早々にお引取り下さい」
コラ。
怖いお姉様を追い払う材料に私を使うんじゃない。
「まあ、そうなの。それは邪魔してはいけませんね」
途端に笑顔になったシシェン様は優雅に立ち上がりドレスの裾をササッと翻した。
何気に仕草がカッコイイ。
「では、今日の所は帰ります。アンジュ姫、不肖の息子を骨抜きにしてくださいませね」
――はい???
「むす、こ???」
「うふふ、わたくし、この子の母ですわ」
「嘘ぉぉぉぉ!?」
嘘でしょ!?
だって、シシェンさん、どう見ても三十代前半だよ?
イケメン君は二十六歳だって聞いてるから、どう考えても姉弟でしょ?
「とても嬉しい間違いをしてくださってありがとう、姫。またお会いいたしましょうね」