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皇太子夫人の楽しいお茶会

今日のドレスは大公様から貰った、クリーム色のドレス。

舞踏会とか正式な場じゃないからゴージャスに着飾ってるっていう感じじゃないけど、それなりに気合入ってます! って感じのドレス。

生地全体に細かい刺繍がしてあって、胸元や高い位置から広がるスカートの随所に小さな花模様が縫いこまれてる凝った作り。

スカートの下にはお約束的なたっぷりもさもさしたペチコートを着用。

袖口とお尻部分にたっぷりのレース。

肌を露出を極力抑えるのがマナーらしいから、私が想像してた芸能人の結婚式とかパーティとかのドレスとは違うデザイン。

教科書に載ってる、中世ヨーロッパ的な感じ。

ルイ何世かみたいな首にフリルは付いてないけど、完全にコスプレだよね。

ワイングラス片手にルネッサーンスとか言いたくなる気分。

え? 古い? 

「すでにお三方はお揃いでございます」

少し心配してくれている様子のイライザさんが先導しながらそう言った。

これから向かうのはあのイケメン皇太子の夫人たちのお茶会だから、仕方がないかな。

そんなに心配してくれなくても大丈夫なのに。

心配するほど三人の仲が悪いって事も考えられるか。

「三人ってどんな人?」

「第一夫人のリジェーナ様は温和でお優しいお方で、他のお二方のご夫人をまとめていらっしゃいます。今回のお茶会もリジェーナ様の御計らいです。第二夫人のモルデイレン様は聡明でいらっしますし、第三夫人のキャロライン様も明るく可愛らしいお方です」

うわ、思いっきり上辺的な紹介だね、イライザさん……。

私はもっと、性格とか相性とか内面的なのが聞きたかったよ。

「三人の仲は?」

よし、核心に迫ってみよう。

「……わたくしは皇妃様付きでしたので、皇太子殿下の後宮事情には疎うございます。ご希望に添えず申し訳ございません」

明言を避けたな、イライザさん……。

これはかなり酷いドロドロ具合とみた!

わくわくした気持ちを抑えつつ歩いてると、ふいにイライザさんが止まった。

そこには真っ白な大きな扉があって、門番みたいに警備してる人が槍を持って立ってる。

門兵さんはイライザさんをちらりと見て頭を下げ、扉の向こうに合図をした。

「いらっしゃい、ようこそラファリエット皇国へ」

扉が開き、通された庭園には柔らかに微笑む女性。

紅茶を溶かしたような長い髪を留める額冠は瞳と同じ緑の宝石が飾られていて、ドレスもゆったりとした柔らかい印象のもの。

見た目はどっかのゲームに出てくる女神様みたいに優しくて穏やかな人。

「わたくしはリジェーナと申します。ようこそ、異界の姫君」

おお、ゲーム女神様は第一夫人か。

「お招き、感謝いたします。どうぞ杏樹とお呼び下さい」

舌を噛みそうなセリフは苦手。

でも、相手に不快な思いをさせないように気をつけないとね。

昨晩ミュスカと練習したんだもん、丁寧な言い回し。

私はこの世界で育ってないからある程度の無知や無礼は仕方ないと許してくれるけど、だからと言って甘えて慇懃無礼な真似をするつもりはない。

一応、大人だしさ。

「アンジュ様。可愛らしいお名前ですね。どうぞこちらにお掛けになって。美味しい紅茶を皆さんでいただきましょう」

ゲーム女神様、もといリジェーナ様の案内で、庭園中央の丸テーブルに通された。

テーブルにはすでに二人の女性が席についてて、私をじろりと睨みつけてる。

いや、睨んでるのは金髪の美少女だけ。

「お二人とも、こちらはアンジュ様です。仲良くいたしましょうね」

リジェーナ様が微笑むと、二人は立ち上がって軽く会釈をした。

「お初にお目もじいたします。わたくしはモルデイレンと申します。第二夫人ですわ。噂通り可愛らしい御方ですのね」

くすりと笑う仕草がもんのすごくエロい。

小麦色の肌に真っ黒な巻き毛、茶色の瞳。

ぷっくりした唇はキスを誘っているんじゃないかって言うほど魅惑的。

大人の女らしい色気がムンムン、フェロモン過剰放出してる美女。

これはまさに某世界的泥棒の孫を手玉にとるヒロインそのもの。

実写版のフジコちゃんだ!

「わたくしは第三夫人のキャロライン」

そっけない口調は、さっきまで私を睨んでた金髪美少女。

ふわっふわの金髪に大きなピンクリボンのついたカチューシャつけて、真ピンクフリフリレースのロリータ系ドレス。

真っ白な肌にピンクの頬、ぱっちり大きな瞳は見事に真っ青。

動くフランス人形だ!

「お歳は二十歳だと伺ってましたけど、随分お若いのですね。それとも、若作りがお上手でらっしゃるのかしら?」

顎を上にあげての、上から目線。口調はまさに高慢ちきな貴族令嬢そのもの。

いきなりのイヤミ攻撃ですか、フランス人形ちゃん。

ふっふっふ、これは楽しいかも。

そっちがソノ気なら、こっちも戦闘モードオンだよっ!

「キャロライン、失礼ですわよ。このお方はジースト大公の御養女。ご身分はあなたよりも上ですわ」

「何をおっしゃいますの! わたくしはアス・ウィリム連合公国太公王の娘です! 同等もしくはそれ以上ですわ!」

フランス人形ちゃんはキャンキャン吠える小型犬みたいにキャンキャン言い出した。

「アス・ウィリムの太公王位は定期的に回ってくるもの。小さな島国の公王一族でしかないあなたが、聖域を治めるジースト大公の御養女とは張り合えないでしょう」

キャンキャン攻撃に怯みもせず、フジコちゃんは冷たく言い放ってる。

「わたくしは第三夫人です! 第四夫人より身分は上です! 何ですの、第二夫人だからと偉そうに! トロレドル帝国王妹だという事を鼻につけて……この年増っ!」

「なんですって、幼児体型のくせに!」

フジコちゃんとフランス人形ちゃんが喧嘩してる。

話の流れからして、フランス人形ちゃんはアス何とかっていう国のお姫様で、フジコちゃんはどこかの国の王様の妹なんだね。

それにしても、話が身分の話から体型についてに変わってる。

フジコちゃんを年増だとは思わないけど、人形ちゃんは確かに幼児体型だよね。

私より何歳かしか違わないと思うけど、ロリータドレスの胸元がスカスカだもん。

マニアにはたまらんくらいの貧乳っぷりだ。

「うふふ、お二人ともお元気ね。声を上げるのも健康には良いものですよ。でも、そんなに眉間に皺をよせてはいけませんわ。皺が張り付いてしまってよ?」

……すごいヒト発見。

喧嘩してる二人をのほほんと見て、一瞬で気勢を削いだリジェーナ様。

この人、何気に最強かもしれない。

睨み合ってた二人はぷいと顔を逸らし、目の前のカップを手に取り紅茶を飲み始めた。

「こちらの紅茶は北部のサーゼング地方で採れたもので、とても香りの高い紅茶ですの。原産はチキュウという異世界で、アンジュ様の故郷だと伺ってますわ。いかがかしら?」

チキュウ、と聞いて胸が鳴った。

こっちの世界の紅茶はやっぱり微妙に味が違ったもん。

いくら濃く淹れても渋くならないし、深みが足りなかった。

ジースト大公様の所で色々紅茶を取り寄せてもらったけど、なかなか地球味の紅茶とは出会えなかったのに。

「いただきます」

ひと口飲むと、懐かしい香りとコク。

うん、これは英国王室御用達の高級紅茶メーカーにもひけをとらない、立派なダージリン・ティ!

この茶葉を異世界に持ち込んでくれた、まだ見ぬ地球の方!

感謝でございます!

「とっても美味しいです」

素直な感想を言うと、リジェーナ様は嬉しそうに微笑んでくれた。

「お口に合ってよかったわ、取り寄せた甲斐がありました」

わざわざ私の為に取り寄せてくれたんだ、リジェーナ様。

サーゼング地方ってのが何処かはわかんないけど、ネットとか電話とかないこの世界で、取り寄せるなんてすごい労力がかかってるんだろう。

「たったお一人でこちらへ来られてさぞお心寂しいでございましょう? 困った事がおありでしたら遠慮なく言って下さいましね?」

……やっぱり女神様だ!

こういうドロドロした世界でこんなセリフは裏があるっていうのはセオリーだけど、この人の言ってる事は嘘じゃないって分かった。

リジェーナ様は女神よりも女神らしい人だった。


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