表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

レッツ!ドロドロライフ

持ち込んだお菓子は大好評だった。

保存がきくように甘めに作ったのがウケたみたい。

まだ幼いパレアナは余程気に入ったのか、リスみたいに頬張ってクッキーをばくばく食べてくれた。

うん、作りがいがあったわぁ。

作った当人の私は少しつまんだだけ。

だってこの後は楽しみの夕食が控えてたし、何より情報収集が目的でお茶に誘ったんだからね。

おかげで色々収穫はあった。

夕食の準備に入るからって、ミュスカを除く四人は皆部屋から出て行っている。

ミュスカは部屋付きの侍女だから、私の部屋の隣に併設してある部屋に住む事になっている。

部屋つき侍女は主の要望に二十四時間応じれるように隣に自室をもらうんだって。

“何かあったらいつでも駆けつけてくれる”っていう事は安心だし、心強い。

もっとも、呼びつけるような真似するつもりはないけど。

部屋付き侍女は侍女より格が上なんだって。

侍女、部屋付き侍女を監督するのが女官で、その上には女官長がいる。

私の侍女ちゃん達を管理するのはイライザさん。

テキパキと指示して、自分も倍速で動いちゃう人。

お菓子効果なのか、イライザさんも結構話してくれた。

びっくりだよ、イライザさん、実は子持ちだったの!

しかも十歳と七歳の双子のお母さんだって!

三人の子供持ちには見えないよ、本当に。

皇妃様付きの女官だったけど、私が輿入れしたから移ってくれたんだって。

こっちの世界じゃ、働くお母さんっていうのは普通みたい。

侍女のひとり、フランはちょっと大人しい子で、伯爵家の超箱入り娘だったらしい。

王宮に出仕するまで外出した事なかったんだって。

箱入りすぎよね。どうやって暇を攻略してたのが聞いてみたい。

マリアムは伯爵家、アーセラは男爵家のお嬢様。

皇宮に侍女として上がるには伯爵家以上の家格がないと駄目みたいなんだけど、アーセラの場合はマリアムの従姉妹らしくて、その関係上で上がれてるんだって。

決まりとかはあるけど、どうにかすればスルー出来るって事だね。校則と一緒だよね。

パレアナは公爵家の三女らしくて、将来的には女官になる身分なんだって。

フランとマリアム、アーセラは降嫁した皇女様つきの元侍女で、パレアナは初出仕らしい。

ちょっとおしゃべりなマリアムとアーセラが、イライザさんが席を立った時に私の聞きたい事をさらっと言ってくれた。

「皇太子殿下には三人の御夫人がいらっしゃるんです。皆様お美しい方なんですけど、どの御方にも御子様がいらっしゃらないんです」

「殿下の最初の婚姻は十年程前だという話ですし、一番お若い第三夫人様も婚姻されて一年半ほど経ちますけれど、残念ながらまだ御懐妊の噂は聞かれないのです。皇帝陛下、皇妃陛下のみならず下々の者まで御子様の誕生を待ち望んではいるのですが……」

「どうしてか不思議なんですよ。皆様違ったお美しさだから、お一人くらいは寵愛を受けてもおかしくありませんのに」

「ここ南宮は皇太子殿下の後宮ですのに、最近は近寄られる事が少なくなったとか」

うわ~、三人も奥さんがいたよ、あのイケメン君。

大変なんだろうなぁ、今晩は一号、明日は二号、みたいな感じでとっかえひっかえで。

男の人の身体の構造はよくわかんないけど、そんな毎日頑張れるもんなのかな?

最近は近寄らないって事は、そういう性活に疲れた、とか?

だからさっきの『妃を娶るつもりはない』発言になるのかな?

まぁ、本心はイケメン君にしか分からない事だけどさ。

私はその四号になるわけか。

さぞかし正妻争いが激しいんでしょうねぇ。

『殿は今晩はわたくしの閨にお渡りになるそうですわ』

『まあ、そうですの。昨晩はわたくしの閨でしたわ』

『お二方とも楽しそうで何よりどすなぁ。わたくしはもう三月も月のものが来ておりまへんので胃の腑が気持ち悪うて仕方がありませんのえ』

――ずっと前に見てたテレビドラマの大奥の話で、こんな感じの会話があった。

ドロドロな世界を実体験するのかな?

うふふ、わくわくだ。

「アンジュ様、何をにやついてらっしゃるんですか」

お風呂でひと泳ぎして髪を乾かしてた私を見て、呆れ顔のミュスカが夜着を持ってきてくれた。

「えー、だってさ。明日は女のドロドロした世界に足を踏み入れるんだよ? 楽しみじゃん」

「……恐ろしがるとか、嫌がるとかの反応が正しいように思われますが」

「うん、そうだろうね。でもさ、何事も経験だよ、経験」

「不敬ですけど、アンジュ様ってつくづく変わった御方だと思いますわ、私。もし私でしたら胃がキリキリして仕方ないと思います。異世界の方はお考えも違うのですね」

ミュスカは結構言いたい事を言ってくれるので助かってる。

腹の探り合いとか本心を隠しておくのって苦手なんだよね。

こういう性格のミュスカが侍女として近くにいてくれるのって、ほんとに有難い。

「違う違う。私が特殊なんじゃない? 私、滅茶苦茶嫌な体験した事があるから、それ以上の事はないだろうって思ってんの。何でも楽しむクセが出来ちゃってるんだよね」

私の黒歴史は相当なもんだからね。あの時代より最悪な事はないはず。

それくらい私はどん底を経験してるの。だから平気。

「……どんな理由がおありでも、アンジュ様はお強い方だと思いますわ。私、不肖ながらしっかり仕えさせていただきます」

ミュスカは『何があったのか』を聞きはしなかった。

多分、侍女として主人のプライバシーまで立ち入ったら駄目だって思ったんだろうけどね。

そういう優しいトコ、好きだな。

あのね、ミュスカ。

人間、どん底を見てたら強くなるんだよ。

少し前まで経験してた事と比べたら、きっと明日から始まるドロドロの日々なんて屁みないなもんさ!

あら、屁だなんてお下品でしたわね、オホホホホ~。

お上品に楽しくドロドロライフを満喫しようっと!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ