とある少女の傍観日記
初投稿です。思いつくまま書いたので雑な部分もありますが、宜しくお願いします。
誰もいない第二図書室、人目につかない位置にあるテーブルの上に置き忘れたと思われるA5サイズのノートが一冊。青年はそれを手に取ると、確認するように最後のページから音を立てて勢いよくめくり始める。
『4月1日(月)
またこの日がやってきた。せめて3月を迎えてからこの日を迎えたいと思うのは、私の我儘だろうか?
愛沢さんと風紀委員長があんな結末になろうとは、周囲もそうだけど本人も予想してなかったんだろうな。
心中エンドは間違いなくバッドエンド。でもこれで風紀委員長とのエンディングはコンプしたと思われるので、二度とこんな思いはしたくないと切実に思う。
4月2日(火)
流石に10回も同じセリフを聞いてると飽きる。言ってる本人は飽きないんだろうかと思う。
今回は誰ルートなんだろう?
誰でも良いが鷲崎兄弟のような死亡エンドは勘弁してほしい、死ぬ気概があるんなら駆け落ちもできるだろう。』
「何なんだ、これは……」
白紙のページが続いた後に現れた、書き込まれたページ。
内容から日記だというのは明白だが、まともではない内容に手が止まる。頭のおかしい人物が書いたのかと思わずにいられない代物だが、そこを飾る人物の名を青年は見過ごす事ができなかった。
『12月9日(月)
この休日は風紀委員長とデートだったらしい。前周だとクリスマスの事で盛り上がっていたのに、その話題が出ないのは何でだろう?
副会長の時はストーリー別でクリスマスのイベント内容が変化していたようだから、今回もそういう事なんだろうか。
双子だからと言って似てない二人、こういう部分は同じなのかと突っ込みたくなる。
12月16日(月)
なんか二人の様子がおかしい。ケンカでもしたんだろうかと思うが、風紀委員長が愛沢さんを見る目が怖い。
友情エンドと恋人エンドとくれば今回はバッドエンド狙いなんだろうが、副会長の二の舞は嫌だ。』
『11月6日(水)
漸く付き合う事になったらしい。体育祭と文化祭は告白イベのフラグ?
それにしても風紀委員長の独占欲が、今までで一番ひどい。
風紀委員長、実はヤンデレ属性でしたってオチ?
11月11日(月)
離れているのが嫌だからって、無理やり風紀委員長の補佐させるのはどうだろう。
愛沢さんが男子生徒を見るたび、風紀委員長の笑顔がチョー怖いんですが。
11月15日(金)
放課後、風紀委員長がイイ笑顔でやってきた。
それに比べて愛沢さんの顔は引きつっていたけど、何かあるのかな?
11月18日(月)
愛沢さん、疲れた顔で登校してきた。それに引き替え風紀委員長は相変わらずいい笑顔。
風紀乱すな、このヤロウ!』
ゆっくりとページをめくると、11月と12月の日付が書かれたページが現れた。
1ページにひと月分の内容だが、その内容は他人の恋模様のみである。ストーカーなのかと青年は気味悪さを覚えるが、文面から狂気じみたものは感じない。
残りのページも読むべきか青年は悩むが、創作にしてはお粗末すぎるし日記だとすれば問題がありすぎるだろう。
「取りに来るとしたら、明日の朝か……」
最終下校時間にはまだあるが一般の下校時刻は過ぎているし、第二図書室の使用時間も過ぎている。
色々と思うことはあるがノートには持ち主の名前は書いておらず、書体から女生徒だろうということしか解らない。他人の目に晒すものではないのは一目瞭然であり、それならば必ず取り戻しに来るだろう。
青年はノートを閉じると左手に持ち、制服のポケットから鍵を取り出すと第二図書室の扉を施錠し歩き去っていく。
朝練をしている運動系の部活の声を背に、一人の少女が静まりかえった校舎を歩く。
第二図書室の前まで来ると、辺りを窺いながら中に入る。静けさに包まれた室内に安堵の息を漏らすと、人目につかない場所にあるテーブルに向かった。
目的の物――テーブルの上に置かれたノートを見つけると、「良かったぁ」と呟きながら手を伸ばす。
「――何が良かったんだ?」
誰も居ないと思っていた部屋に声が響き、少女はノートを片手にビクリと肩を揺らす。
声がした方に少女が視線を動かすと、テーブルの近くにある本棚の影から制服を着た青年が現れる。
「……お! おはょうございますぅぅ!?」
キョロキョロと視線をさまよわせながら挨拶をする姿は、まさに挙動不審である。
「あぁ、おはよう。色々と訊きたい事があるんだが、良いかな?」
長い前髪と眼鏡で表情は解らないが拒否を許さぬオーラを出しながらゆっくりと近づく青年に恐怖を覚え、少女はゆっくりと後ずさる。
「あ、ははははー……」
意味もなく無理やり笑う少女に、青年は足早に近づくと右腕を掴む。
「……見ちゃいました?」
腕を掴まれたことで諦めたのか、ため息を一つ吐くと少女はポツリと呟く。
「少し。とりあえず場所を変えようか?」
青年の逃がさないという決意を感じ、少女は青年に連れられるまま移動する。
――こうして少女の傍観生活は幕を閉じた。