発見
「見たことがないって・・・? 僕は見たんですよ、湖を。あそこに飛び込んだら、一度もとの時代に戻ることができたんです!」
秋五は思わず席を立ち上がり、声を荒げていた。
「この村の人間は皆、数百年間あの森と共に生きているのです。だからこそ、あの森には湖などないと断言できます」
「いや、でも・・・」
「しかし」
秋五は昂った気持ちをどうにか抑えようとしていた。冷静にならねばならなかった。いま冷静にならねば、自分の言う事を信じてもらうために何をしたら良いのか。何も考えられなくなるだろう。
そんな中、村長はこう切り出した。
「あなたのおっしゃっていることは、どうやら本当のことのようだ。でなければ、こんなに必死にならないでしょう。……村の若者を数人つけましょうか。午後になったら、あなたの言うその湖を見せてもらいましょう」
その瞬間、秋五は心の底から安堵した。
「どこまで行くんですかい」
「この先は魔物も多いですぜ」
午後になり、村長は村の若者を4人引き連れて秋五のもとへやって来た。筋肉隆々の強面揃いであったが、実際に話してみると実に気さくで優しい人たちだった。
湖がある場所は意外と森の深部に位置するらしい。微かな記憶を頼りに、自分が歩いた道を辿っていた。周囲の木々が割と特徴的であったことが幸いし、今のところは迷わずに来れている。
ソウルも口にしていた『魔物』。先ほど初めて目の当たりにしたのが、二足歩行をする、見るからに獰猛そうな狼であった。『ワーウルフ』というらしく、普通の狼に比べて非常に気性が荒いため、こちらを見た瞬間に襲って来た。しかしこちらの若者たちはかなり腕の立つようで、ワーウルフをものの数十秒でのしてしまった。素手で倒すというところが、常人では真似できないところである。
現在、一行は森の深部まで来ており、見るからに魔物の数も多くなってきた。秋五自身、森を出るまで魔物なんて一度も目にしていなかったため、「よく生きてたなあ」と一人感心していた。
「あ。あそこを抜けたところです」
「やっと着いたぜー」
「ここら辺は魔物も活発だからなあ。あんちゃんも、よく武器も持たねえでここを抜けられたな」
「これお前達、気を抜く出ない」
「へーい」
ようやく目的地が目の前まで迫ってきた。茂みの奥からわずかにキラキラと日の光が溢れている。
先ほどまで有り余るほどいた魔物も、目的地に近づくにつれて姿を消していった。まるで何かを恐れるかのようにそそくさと何処かへ去って行く。
そして。
「ここ、か・・・」
「こんな所があったのかよ・・・」
そう。確かにそこには、湖があった。秋五が実際に見たものとまったく一緒の。日光を浴びて妖しげに発光する湖が。




