幻の疑い
およそ一般人とは良いがたい肉体を持つ村長はその屈強な見た目とは裏腹に非常に穏やかな性格の持ち主であった。秋五の姿を見た途端にキッチンへ姿を消したかと思えば、お茶と大量の茶菓子を持って現れた。
「この村に客人というのも珍しい故、少々はりきってしまいました」
そう言って村長は軽快に笑った。
秋五とレイラはリビングに通され、茶菓子を片手に村長の話を聞いていた。村長は今年で御年178歳という長寿の極みらしいが、衰えを全く感じさせない見た目から、本当にそんなに長生きなのかと疑ってしまう。
「このような田舎には外からの来客はめったに訪れませぬ。馬を走らせれば20分ほどのところに町がありますが、それも他の町に比べたらちっぽけなものでして」
「はあ」
「それで、何か用があってこの村に参られたのですかな?」
「いえ、それが・・・」
秋五はこれまでの経緯を手短かに話す。話している最中、レイラは遊びたくてたまらないのかウズウズしだす一方、村長はお茶にも手を付けずに沈黙して話を聞いていた。……本当にソウルに似ている。
そして現在ハドソン一家にお世話になっていることまで、自分の現状を全て伝え終えたところで村長は「なるほど」とだけ呟いてお茶に手を付けた。
「にわかに信じられないことではありますが、どうやら真実なのでしょうな」
「はい」
「・・・レイラ、外で遊んで来て良いぞい」
「えっ、あ・・・はーい!」
ウズウズするレイラを見かねたのか、それともこれからする話を聞かせないためなのか。村長はレイラに席を外すように言う。レイラもよっぽど他の子供たちと遊びたかったのだろう。全速力で外へ出て行ってしまった。
「目覚めたときに身につけていたという、そのリングを見せてもらっても?」
「ええ、どうぞ」
指輪をはずし、村長の手に渡す。触れたときに、非常に皮膚が厚く硬いことに気づく。どれだけ鍛え上げているのか最早予想がつかない。
村長は懐から縁のない眼鏡を取り出して耳にかけると、指輪の文字を見るために目を細めた。文字自体、非常に小さいため、いかに常人離れした人間といえど目を凝らさねばしっかりと視認することはできない。
そしてリングを一周。隅々まで目を通してところで村長は眼鏡を外し、リングをこちらえ手渡す。
「確かに、これはスティング文字でしょう」
「読み取れたんですか?」
「ええ、それはもう」
村長は再びお茶を口にすると、先ほどまでの穏やかな表情とは一変。目を細め、非常に真剣な顔つきでこちらを見据えた。
「佐々秋五殿。あなたはこの時代に『召喚』されたようです」
召喚。いわゆる魔術師かなんかが魔方陣を介して特定の空間から人を呼び出す魔術。
佐々秋五は何者かによって『召喚』されたのだと。村長はそう、口にした。
「非常に高位の魔術師の仕業でしょう。細やかに設定された召還呪文が書かれております。しかし本来『召喚』とは、絶対に失敗しないようにかなり大規模な魔方陣を使った儀式を必要とします。魔方陣外に召喚されたということから、おそらく大規模な団体ではなく、個人の仕業かと。それでも成功したのは奇跡ですな」
「そしたら、どうして湖に入ったことで一度もとの時代に戻ることができたんですか?」
「・・・その湖はどこにあったのでしたかな?」
「村の近くにある森の中ですが」
村長は苦々しい表情を浮かべる。そして一拍置いてからこう告げた。
「確かに近くに森はあります。この村の者は、その森に生息する魔物を狩ったり素材を集めて生活しているため、その森の内部の構造は隅々まで知っているつもりです」
「どういうことですか?」
「そんな湖は見たこともない、ということですよ」
だいぶ間が空いてしまい、すみません。
この後の展開を整理する作業が意外と長引いてしまいました。
今後の展開に注目して見て下さいませ。




