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ヒューマンズ  作者: 石川十一
本章
5/37

判明した事実

 瞼を開けると、窓を通して部屋に入り込んだ陽光が秋五の顔を照らした。思わず目を細める。



「・・・結局」



 夢ではなかった、のか。


 ボーッとした頭を覚醒させながら考える。今後について。


 そもそもこの世界は一体なんなのか。おそらくハドソン夫妻に尋ねたら、簡単に答えが返ってくるのかもしれない。しかし、それには自分のいた世界のことも交えて話をしなければならないのだ。


 それともう一点。もとの世界に帰る方法だ。これに関してはあまり問題視していない。一度戻ることが出来たのだから、探せばなにかしらの方法が見つかるかもしれない。十中八九、あの湖が怪しいと思うが。


 なんにせよ、帰る方法についてはある程度推測できるため、こちらは優先すべき問題ではない。最悪、夫妻から自分の存在を疑われることになるだろう。それを考えたら、後々困る事もあるだろう、が。ある程度のリスクを背負ってでもこの世界の存在を明確にすることが、現時点での最優先事項である。



 


 


 ベッドから降り、立ち上がったところで気が付いた。とてつもなくブカブカな寝巻きに着替えさせられていることに。胴回りは自分の二倍も三倍も大きく、袖も捲られすぎて肘膝が動かしにくい。おそらくソウルのものなのだろう。このサイズ感からして、もはや彼は人類の亜種と呼んだ方が適切ではなかろうか。



「さて、と…」



 いつまでも部屋にいても仕方がない。外からは小刻みに包丁の音がするし、おそらくマリーが朝食の支度をしているのだろう。ということは家族はみんな起きているはずだ。


 早速部屋の扉を開けてリビングに出ようとすると、ゴツゴツした壁のようなものに顔面をぶつけた。



「うおっ」


「ああ、おはよう。いま起こしにいこうと思っていた」



 壁の正体はソウルさんであった。彼の腹筋はどうなっているのだろう。岩にぶつかったような感覚だったのだが。



「おはようございます。昨日はご迷惑おかけして…」


「いや良い。もう体調は?」


「ええ、おかげさまで」



 そう挨拶を交わしイスに腰掛けると、入れ違いにソウルは部屋を出て行った。


 秋五は初めて高級レストランに入った貧乏人のように、キョロキョロと部屋を見渡した。昨日は非常に疲れていたこともあってあまり気にしていなかったのだが、部屋自体はスキー場のロッジのような北欧特有の温かな雰囲気でとても落ち着く。


 秋五は席に座るが特にすることもなく、持て余していた指を適当に遊ばせていた。他人の家というのはどうも苦手だ。なにより自分の家とはまるで勝手が違う、全てにおいて遠慮してしまうのだ。こんな調子で今後、この家でやっていけるのかと不安になる。


 するとレイラが目を擦りながら部屋に入ってきた。



「起きてたんだー。おはようお兄ちゃん」


「うん、おはよう」



 肩につくかつかないかの赤毛のショートヘアは、寝癖で爆発していた。吸い込まれそうなほどきれいな青い瞳は、寝起きということもあっていまいち焦点が合わない、といった様子だ。女性といえどまだ子供だからか、他人にそういった姿を見せることは気にしていないようだ。


 レイラは大きな欠伸をしながらマリーのいる台所へと姿を消した。マリーとの会話がぽつりぽつり聞こえてくる。今日の予定は何かだの、昨日は寝るのが遅かったわね、という日常にありふれた会話だ。そんなありふれた会話は、秋五にとってとても微笑ましいものだった。


 しばらくするとソウルは両腕に薪を何本も携えて戻って来た。どうやら表で薪割りをしていたらしい。それならそうと、居候の身として手伝うべきだったかもしれない。



「君は」



 暖炉に薪を入れつつ、ソウルは話を切り出した。秋五自身はそこまで寒いとは感じていないが、この地方に住む人たちの性質もあるのだろう。



「遠いところから来たそうだが」


「・・・そうですね」


「君が着ていた服装もそうだが、その容姿も我々とはかなり異なっている。何者なんだ?」



 いきなり核心に迫られてしまった。こちらがその話題を持ち出すタイミングを伺っていたにも関わらず、こうも早く、しかも向こうから切り込んでくるとは。こんな人が会社にやってきたら、「ビッグフット」というあだ名と共に「KY」のレッテルがつくことだろう。


 だがなんにせよこの話はいずれしようと思っていたのだから、それが早いか遅いかというそれだけのことだ。頭のおかしな奴だと思われても仕方がない。



「僕の名前は佐々秋五。日本の東京という場所で生まれ育ちました」


「・・・?」


「現在もその東京という地域に住んでいます。もともと両親の実家はまた別の地域にあったんですが、僕が生まれる少し前に東京に移り住んだみたいで」



 立て続けに言葉を並べていくと、怪訝そうな顔を向けられる。それはそうだ。そもそも「世界」が違うのだから、聞き覚えがないのは当然のことだ。


 すると話を聞いていたのか、パンを入れたバスケットを持ったレイラがニコニコしながら台所から戻って来た。そして言った。



「ニホン?聞いたことあるよ! お父さんの呼んでくれた本にあったよね!」



 ・・・。


 彼女はそう、口にした。「日本」という単語を聞いたことがある、と。



「ああそうだな。確かに・・・いやそんなことが・・・」


「き、聞いたことがあるって・・・、どういうこと?」


「お父さんが持ってる本に書いてあったんだよ! ニホンとかトーキョーってね」


「・・・それは、どういうことなんでしょうか」



 ソウルに尋ねると、彼は眉間に皺を寄せ「私が聞きたいくらいなんだが」と言って、ぽつぽつと話し始めた。



「・・・説明が面倒だな。端的に言えば、君の言う『日本』。この国は今から数百年前に消えてなくなった。いや、『日本』だけではない。他の大陸も、ほとんどが消滅した」



 今度はこちらが「なにを言っているんだこいつは」という顔を向ける番となった。いま自分の顔を鏡で見たら想像以上にひどいことになっているだろう。



「自然災害なのか人の手によるものなのか。まあどちらにしても不可能な事象ではあるがある日突然、なんの前触れもなく世界中の大陸の半分以上がなに一つ残さずに消滅した。……という古くからの言い伝えがある。そのことが本になっているくらいだ」



 つまりどういうことだ?


 ソウルの話はかなり突拍子がないものだ。信じがたいほどに。だが仮に、百歩譲ってその話が事実だったとしたら。



「ここは異世界じゃなく、未来の地球」



 ということになる。

高校生って大変ですね。

今年度、最後のテスト期間へ突入いたしました。


来週の末には全て滞りなく(?)テスト期間が終了しますので、更新がそれまでお待ちくださいませ。

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