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ヒューマンズ  作者: 石川十一
本章(旅立ち)
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強さ

 お兄ちゃんはすごい。初めて会った時から、私はずっとそう思っている。


 郷に入っては郷に従え、ということわざをお兄ちゃんは教えてくれた。


 地域によって常識や習慣は違う。自分がもし、今まで当たり前だと思っていた常識や習慣が異なる地域に訪れることがあったら、自分の価値観を押し付けないでその土地のしきたりに従うべきだ。


 私はその通りだと思った。


 お兄ちゃんは実際に、その言葉通りに生活できていると思う。今まで経験したことがない習慣や、見たことがない食べ物を前にしても、周りの人達に(なら)って同じように振る舞う。


 それはすごく勇気が必要だと、私は思う。


 自分が今までしたことがないことをしないといけない場面になったら、私は迷ってしまうと思う。なんでも、私が住んでいたパトゥエからずっと南の森に住む人たちは虫を食べて生活しているらしい。私だったら食べられない。


 でも、お兄ちゃんだったらきっと食べちゃうと思う。多分、すごい苦笑いを浮かべながら。


 それに、この時代ではお兄ちゃんはひとりぼっちだ。


 もちろんお父さんやお母さん、そして私はお兄ちゃんを家族の一人として認めている。だけど、お兄ちゃんは血を分けた本物の家族がいるのだ。


 そんな家族を残して、一人でこの時代に来ているにも関わらず一度も寂しそうな顔をしたことがない。


 なんでお兄ちゃんはそんなに強いの?


 もしもそんな風にお兄ちゃんに聞いたら、「そんなことないよ」って答えると思う。だけどそう言われたら、私だって「そんなことないよ」って返すだろう。


 きっとお兄ちゃんは、私の方が強いと思っている。だけどそれは力の話だ。能力自体持って生まれたものなのだから、そんなの比べることじゃない。


 お兄ちゃんが強いのは心だ。私なんかよりずっと強い心を持っている。


 力なんて、お兄ちゃんがこれから練習していけば自然とついてくる。きっとすぐ私も追い越されてしまうだろう。


 だけど心の強さだけは、お兄ちゃんには適わないと思う。生きて来た時間もそうだけど、きっとお兄ちゃんはその間に苦しいことをたくさん乗り越えてきたのだ。私はこれまでの約13年間、ずっとお父さんとお母さんに守られてきた。だから本当に苦しいこと、辛いことをまだ知らない。


 お兄ちゃんはすごくよく物事を考えているけれど、同時にすごく純粋なのかもしれない。だからお兄ちゃんの純粋な気持ちから出た言葉が、あのギルドのお姉さんを泣かせてしまったのだ。


 ギルドで働くためには、すごく辛い勉強をしないといけないらしい。そして仮に働けたとしても、今度はすごく大変な仕事が待っているのだ。それこそ寝る間も惜しむくらいの。


 私なんかが想像できないくらいの努力をしているのだろう。辛い経験をしているのだろう。だからあのお姉さんは、お兄ちゃんから信用してもらえたことが嬉しくて泣いてしまったのかもしれない。


 あの時はお兄ちゃんもすごく困っていた。周りの人たちの視線は集まるし、ましてや自分が原因で泣かせてしまったかもしれないからだ。お姉さんを泣かせてしまった原因は何なのか、ずっと考えていたようだけど結局分からなかったみたい。


 その後、とりあえずギルドで働いている人たちが使うお部屋に移動して、みんなでお姉さんを慰めた。泣き止むとお姉さんはすごく恥ずかしそうにしていたけど、すごく嬉しそうでもあった。


 こんなにも人を心を動かしてしまえるお兄ちゃんが、私はすごいと思う。


 


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