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ヒューマンズ  作者: 石川十一
本章(旅立ち)
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捜索活動

 先ほどギルド職員のお姉さんから受け取った住所を頼りに、秋五たちは15分ほどで目的の場所に到着した。



「普通の家、だな」


「とりあえずお話きいてみよ?」



 さすがに呼び鈴はないので、木製のドアを数回ノックした。すると女性の返事がすぐに返ってきて、少しするとドタバタと音を立てながら勢い良くドアが開かれた。



「お待たせしました〜! ・・・・・あれ? もしかして私の依頼を・・・」


「はい、ペット捜索の依頼の件で来ました」



 出てきた人は、後ろでまとめた長い金髪とそばかすが印象的な女性だった。見た感じ年齢は18か19歳ほどで、ふわっとしたワンピース姿も若々しくて実に可愛らしい。


 女性はドアを開くと同時に3人の姿を見て、秋五たちが何故来たのかすぐに分かったようだった。



「良かった〜、もう全然見つからなくて困ってたんです! あの、良かったら上がってください!」



 女性に促されるままに3人は家へと入る。ちなみにクークは町中を連れて歩くには少々辛いので、泊まっている宿の馬小屋につないでおいた。非常に利口なので別につなぐ必要はなかったかもしれないが、万一のことがあってはならない。


 

「こちらへ」



 リビングに通され、3人は横長のソファに座った。女性は「お茶をお持ちしますね」とキッチンへ消えて行く。



「優しそうな人だねぇ」


「初めての仕事で、依頼人がめちゃくちゃ怖い人だったらしんどかったな」


「・・・良かった」



 少しすると女性はお茶を持って再び現れた。


 そこでようやく依頼についての詳しい説明が行われる。



「わたしはシンディー・ホワイトです。今回依頼したのは、ペットのウィルがもう3日も帰ってこないのでその捜索をお願いしたくて」


 

 シンディーと名乗るその女性は俯きがちにそう言った。


 3日も帰っていないというのは一大事だ。もし貧民街なんかにでも入ってしまったらどうなってしまうか分からない。腹を空かした人たちに食われてしまう可能性だってある。



「ウィルは尻尾が短くて真っ黒くて、走るのが速い小さな犬です。3日も帰っていないとなると、もう遠くまで行っちゃってるかも・・・」


「大丈夫!」



 と、ここでレイラが立ち上がった。



「それならすぐ行こ! こうしてる間にウィルちゃんはどこかに行っちゃうんだよ!」


「・・・そうだね。それじゃあ行こうか」


「・・・よろしくお願いします!」



 シンディーからペットの特徴を書いた紙をもらい、3人はペット捜索に繰り出した。















 ストライモンは大きく分けて、4つの区域によって成り立っている。


 一般市民が暮らす家がたくさん密集している「住宅区域」。


 市場や店がそこかしこに立ち並ぶ「商店区域」。


 貧しい者たちや表向きに経営できない店などが多い「貧民区域」。


 国の役人や騎士が集まる「中心区域」。


 秋五たちが寝泊まりしている宿は商店区域、ジェットハートを買った奴隷商店は貧民区域に、シンディーの住む家は住宅区域にそれぞれ位置している。また中心区域は国を運営していくための施設などが密集しているため、国の役人たちはそこに集って会議などをしている。しかしストライモンの騎士たちもよく出入りするため、別名「武装区域」とも呼ばれ貧民街以上に表の人間の出入りが厳しい区域となっているのだ。


 これら4つの区域によって成り立つ国、ストライモンは尋常でないほど大きい。そのため、シンディーのペットであるウィルの捜索場所は相当広い範囲を対象としなければならないのだ。これは1日や2日で解決できるような依頼ではないだろう。秋五は悩んでいた。



 これだけ広いと、まずはどこから捜索すれば良いのか見当もつかない。そもそも1つの区域を隅々まで探して次の区域に移動したとしても、相手は犬なのだから入れ違いになってしまう可能性だって否めないのだ。


 勢いで飛び出してきたものの、どうしたら良いのか秋五には分からなかった。



「こんだけ広いと、どこにでも行ってそうだよな・・・」


「聞いてみたら? こんなワンちゃん見ませんでしたかー、って!」


「それしかないよなぁ。なんの足取りも掴めないままに探しても意味ないだろうし」


「・・・ワタシ」



 秋五とレイラが議論をしていると、ここでジェットハートが口を挟んだ。



「・・・動物さがすの、得意。さっきの家でにおい覚えたから。・・・多分、場所わかる」


「におい、って・・・」


「ジェットハートさん、わかるの?」


「・・・こっち」


 ジェットハートを先頭にして、3人は住宅街の路地裏を駆けた。ジェットハートやレイラは細いから大丈夫かもしれないが、秋五は少しきつい。



「やっぱり獣人はにおいも敏感なのか?」


「・・・だいたいみんなそう。耳とか目も、普通の人よりずっとよく利く」



 たくさんの奴隷のなかで、あのとき目が死んでいなかった奴隷は唯一ジェットハートだけだった。戦闘において自信があるように見えたし、なによりあの中ではとても異質な存在だったのだ。


 他の奴隷は悟っていたのだろう。下手に誰かに買われるよりも、あの地下牢にいた方がずっと安全だということを。買い手によっては、何をされるかもわからないのだ。だったらずっとあそこに暮らしている方が良いと、彼らは諦めてしまったのだ。


  だがジェットハートは違った。外に出たいと、強く望んでいたのだ。ジェットハートを買った人間がどんなにひどい奴でも、彼女にとっては外に出してくれた親切な人なのだ。たとえ何をされても、ジェットハートは受け入れてしまうだろう。


 だから良かった、と秋五は思った。こんなにも純粋な女性が仲間になってくれて。


 ジェットハートにとって、こうして先導してペットを探そうとしているのは秋五への恩返しのつもりなのかもしれない。外に出してくれたお礼として、主人の望むことをなんでもしようという思いを持っているのかもしれない。


 だが、今はそう思っていたとしても、いずれこのパーティがジェットハートにとっての「心地良い居場所」になったら良いな、と秋五は思った。



「・・・近い」



 ぼそっ、とジェットハートは呟いた。


 どれくらい走ったのだろうか。ジェットハートとレイラは今のところ疲れた素振りは一切見せていないが、秋五は既にヘトヘトの状態だった。もはや呼吸をすることすら億劫である。


 ここでジェットハートは大通りから再び狭い路地へ入るよう秋五たちを誘導すると、大きなゴミ袋がたくさん積まれた場所にゆっくりと近づいた。そして両手を大きく広げ、勢い良く全身で何かにしがみ付く。そのまま何かを抱えた状態で路地の陰に待機していた秋五たちのもとへ戻り、眠たそうな目をしたまま言った。



「・・・可愛い」



 その腕の中には、荒い息づかいをする真っ黒い小さな犬がいた。

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