初仕事
ギルドでの登録を済ませると、早速なにか仕事を受けてみたいというレイラの強い要望があったので、登録して早々に3人は依頼板のもとへ駆け寄った。
「薬草の採集、ペットの捜索なんかは俺たちでもできそうじゃない?」
「・・・動物探すの、得意」
「初仕事かぁ〜、緊張する!」
「仕事したいって言ったのはレイラじゃん」
「そうだけど! でもいざするってなると、緊張するよ! ジェットハートさんはしないの?」
「・・・あんまり」
確かに初仕事は緊張するものだ。秋五は思い出したくもない思い出をほじくり返した。始めは気が良さそうに見えた上司もしばらくしたら鬼に豹変し、笑って迎え入れてくれた職場の人たちもいつの間にかぽつぽつとその姿を消していく。
やがてタバコのにおいと先輩たちのうめき声による殺伐とした雰囲気が、入社して間もない秋五たちの首を締め、付け休む間もなくデスマーチへの参加を強制させられる。
・・・・・・。思わず涙がこぼれた。
「ええっ!? どうしたのお兄ちゃん、どこか痛いの?」
「・・・大丈夫?」
オロオロと心配しだす2人。
「え? あ、ああいやちょっと思い出し泣きを・・・」
「お、思い出し泣きって・・・?」
秋五自身も「思い出し泣き」なんて言葉は初めて聞いたが、別にあってもおかしくはなさそうだ。思い出し笑いの派生語みたいなものだろう。
「ごめんごめん。大丈夫。それじゃあこのペットの捜索の依頼を受けようか」
「う、うん」
「・・・わかった」
少々変な雰囲気になったものの、秋五たちは初の仕事を受けるために再びカウンターへ向かった。
仕事を受ける際に、職員のお姉さんからまた説明があった。
ギルドで紹介している仕事内容は主に2つに分かれているらしく、1つは一般人がギルドに申し込んだ依頼。もう1つはギルドが出している依頼であるという。
前者は「ノーマルクエスト」と言い、困っている一般人がギルドの制約に基づく形で報酬を設定し、ギルドを通じて冒険者に紹介される依頼だ。その内容は薬草などの採集から魔物の討伐まで様々なものが存在する。
後者は「フォーマルクエスト」と言い、それぞれの町や国のギルドが周辺地域に起こっている大規模な問題を、一般市民に影響が及ぶことのないよう速やかに解決するために出された依頼である。ほとんどは緊急時に出されるので、主にギルド職員を中心としたパーティに参加して依頼をこなすということになるらしい。危険度が高いものが多いが、そのぶん報酬金もノーマルクエストに比べてかなり高くなる。
そして両者とも、A〜Eまでのレベルが設定されている。そのレベルに達していなければ依頼は受けられないというような制限はないが、自分の力に見合った依頼を探す時の大まかな目安となっている。またレベルが高ければ高いほどその報酬金もまた多くなるらしい。
「最近は報酬金に目がいってしまって、自分のレベルに見合わない依頼を受けようとする方が多く見られます。ですので、あまりにもその依頼レベルと冒険者の方の力量が見合っていないとギルド職員が判断した場合は、なるべくお断りさせていただいております。ですが強制力はないので、どうしても冒険者の方が依頼を受けるとおっしゃった場合は承認させていただく形となります」
それで実際に多くの犠牲者が出ているのだろう。職員のお姉さんの顔が少し曇った。だがさすがに秋五たちはそこまで金に目がくらんでいるわけではないので、後先考えずに依頼を受けるというマネはしない。
「それは大丈夫です。さすがに身の程をわきまえていますし、最初は安全そうな依頼から徐々にこなしていくつもりです」
「そう言っていただけて安心しました。・・・それでは、ペット捜索の依頼でしたね。依頼人の方はこちらの住所に住まわれているそうですので、詳しい説明等はそちらでお聞きください。お気をつけていってらっしゃいませ」
「はい。いってきます」
ほっとした顔になったお姉さんから住所が書かれた紙を受け取った。まあ案の定まったく字が読めないので、ここはレイラに託しておく。
「よーっし! 初めてのお仕事がんばろー!」
「・・・がんばる」
こうして秋五たちの初仕事が始まった。