ギルド
新しい仲間、ジェットハートを引き連れて一行はギルドへと足を運んだ。
以前に訪れたコルグの町では、預金をするためにギルドを利用した。しかし預金はギルド本来のサービスではないのだ。
ギルドは職種によっていくつか種類がある。秋五たちが利用するのは冒険者ギルドという、冒険者を対象とした仕事や情報などの仲介を主とする組織だ。また訓練場も設けられており、ギルドに所属していれば事前予約をしておくことで訓練を受けることも可能である。
さらに冒険者ギルドに限らず全てのギルドは共通の金融機関でもあるので、ギルドの所属登録とはまた別に、本人登録さえしておけばいつでも預金や引き出しを行うことができる。
レイラはもともと本人登録は行っていたので、コルグの町ではすんなりと預金することができた、というわけだ。
今回、秋五たちがギルドへ赴いた目的は預金ではない。ジェットハートが新たに仲間に加わり、本格的に冒険者として始動するためにはギルドからの援助が必要不可欠であると判断したためだ。
まずギルドに所属することで無償で訓練を受けることができるし、仕事中に万が一その命に危険が生じてもギルド所属登録の際に作ったギルドカードで危険を知らせることによって、ギルド職員がすぐに駆けつけてくれるシステムになっている。
さらに駆け出しの冒険者を対象としたセミナーも定期的に行われており、道具の正しい使い方や戦闘における知識なども勉強する事ができるのだ。
そして一番重要なのが、人脈である。どこのギルドも大抵が同じ作りの建物で、1階がギルド所属登録をしたり仕事の依頼を受けたりといったギルド本来の役割を担うフロア。そして2階はバーとなっており、冒険者たちは主にそこで仲間を作ったり情報交換をするのだ。そこで同じ冒険者たちと交流を深めることで、ひょんなことから最強のパーティが出来たり中には結婚に至る者たちさえいる。そういった場で人脈を広げていくことで、今後の冒険もかなりやり易くなるに違いないと秋五は考えた。
「それでは、以上でギルドの説明を終わりとさせていただきます。質問等はございますか?」
「いえ、ないです。2人は?」
「うん、大丈夫」
「・・・・・・多分」
レイラはもともと父親であるソウルがよくギルドを利用しているので、話を聞いたりして既にギルドについての基本的な知識は備わっているのだろう。分からない事などもう何もない、とでも言いたそうな自信に満ちた表情をしている。その一方でジェットハートはあまり分かっていなさそうではあるが、彼女が1人でギルドを利用する事はおそらくほとんどないと思うのでそこまで心配することではないかもしれない。
「それでは登録に移りたいと思います。お一人ずつ順番に、それぞれこれらの書類の上に手をかざしてください」
秋五が一番にその書類の上に手をかざすと、書類の中心には自分の手形が緑色の光で縁取られていた。するとこの一瞬で登録の手続きは終了したようで、ギルド職員のお姉さんは「それでは次の方」と言って同じような書類を取り出した。
レイラとジェットハートも同じ段取りを踏み、全員分の登録手続き自体は1分とかからなかった。全員がそれぞれ書類に手形を残すと、職員のお姉さんはギルドカードを発行するために書類を持って裏手の方へ行ってしまった。
「なんか、あっという間だねぇ」
「確かに。登録って言うから書類にいちいち署名していかないといけないのかと思ってたから、意外と簡単で助かったな」
この世界の文字は非常に複雑だ。基本的にはアルファベットが使われているものの、その構成は英語などとはわけが違う。やはり数百という年月は文字すらも根本から変化させてしまうには十分らしい。
しかし未だによく分からないのが、言語についてだ。秋五自身は今も日本語で話している。だがこうしてレイラやジェットハートと話していても、なんの問題もなく言葉による意思の疎通が取れているのは何故なのだろうか。パトゥエ村にいた時に疑問に思い、ソウルともそういった話をしたが結局はなにも分からなかった。ソウルたちも普通に話しているだけだと言うし、もしかしたらあの女魔術師の仕業かもしれないという仮説も立ててみたが真実かどうかは分からない。
もし再びあの魔術師に出会ったら、と考えると背筋がゾッとする。彼女の前では、どんなに強い能力を持っていたとしても太刀打ちできないのではないかと思ってしまうのだ。
彼女の能力である「チャーム」は、互いの目と目が合わないと発動しない。それだけならなんとかなるかもしれないが、彼女は魔術も使う事ができる。
もしまた出会ってしまった時、以前のような無様な姿を晒すことは絶対に出来ない。なぜなら、こっちは仲間を背負っているのだ。次にまたあの女魔術師と相対する時、自分は絶対に仲間を守らなくてはいけない。レイラを、ジェットハートを、クークを、傷つけさせたくはない。
ギルドの所属登録をしたのはそのためでもある。訓練をしたり他の冒険者との交流によって、戦闘能力や知識をつけていく必要があるからだ。そうでもしないと、この世界で生きていくことは・・・。
「・・・お兄ちゃん?」
「へっ?」
深く考え事をしていると、突然レイラが声をかけて来た。上目遣いで心配そうにこちらを見つめている。
「どうしたの? なにか心配事?」
「・・・なにを、心配してる?」
2人から問いつめられる。
とは言え、「仲間全員を守れるように、もっと強くならないといけないって思ったんだよ」なんて小っ恥ずかしいことは口が裂けても言えない。おそらく、いや確実に、このパーティ内で一番弱いのは自分に違いないのだ。どれだけ頑張れば良いのかなんて、現時点で想像もつかない。
なので、正直に言うのはやめておいた。
「いやさ。そういえば宿の部屋、ツインだったなって。シングルベッド2つだと、1人寝られないからさ」
「・・・えぇー、あんなに真剣な顔してそんなこと考えてたの? 別にそんなに狭いわけじゃないし、ジェットハートさんと私が一緒に寝ればいいんじゃない?」
「・・・ワタシは床で良い」
「いや、さすがに女の子を床で寝させるわけには・・・」
「そうだよ! 床で寝たら風邪引いちゃうだろうし、一緒に寝よ!」
少々誤摩化すには微妙に言い訳だったかもしれないが、とりあえず良かった。実際、宿屋の問題も少しひっかかっていたのでレイラのおかげで助かった。ベッドを一人で占領するのは心苦しいが、さすがに男と女が同じベッドで寝るわけにはいかない。
そうしていると、先ほどの職員のお姉さんがカード3枚を手にしてカウンターに戻って来た。
「お待たせいたしました。それではこちらがギルドカードになります」
「おおー。なんか色々書いてあるよ!」
「手形だけでよくこんな・・・」
「・・・すごい」
茶色い横長のカードにはびっしりと何かが書いてある。おそらく自分の名前だとか年齢だとかそういったことなんだとは思うが、よく手をかざしただけでこんな情報を読み取れるなと感心する。最早かつての科学技術など目じゃないほどに、この時代は進歩しているのだ。
「ギルドで仕事を受けたり訓練場の予約をする際には、こちらを提示してください。また本人確認が必要な場面では身分証明書としても使用することができます。それでは以上でギルド所属登録の方を終了させていただきます」
こうして無事、一行はギルドに所属することができた。
お久しぶりです。
今まで見てくださっていた皆さん、お待たせして申し訳ありません。
受験なのです。
まだ終わっていないのですが、暇を見つけてチョコチョコ書いていたものを今回アップいたしました。