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ヒューマンズ  作者: 石川十一
本章(旅立ち)
30/37

狼少女

 『奴隷を買う』


 簡単に言うが、同じ人間を買うのだ。犬猫を飼うのとは訳が違う。


 この世界で奴隷を買うのは貴族階級を中心とする大金持ちの連中らしい。もちろん冒険者の中には奴隷を買ってパーティを組む者もいるようだが、如何せん金がかかる。人ひとり養うのは本当に大変だというのは独身の秋五も十分分かっているつもりだ。


 しかし奴隷だって動ける。働けるのだ。もちろん全てとは言わないが最低限の生活費くらいは働いて稼いでもらえば良い。タダ飯を食わせるために奴隷を買うわけではない。今後もスムーズに旅を続けて行くために奴隷を買うのだ。


 闘える人間が一人増えるだけで今後の旅はだいぶ楽になるだろう。敵も多く倒せるだろうし、倒すまでの時間も短縮できる。人数が増えればその分効率も良くなる。


 といったようなことを、秋五はレイラに説明し続けていた。



「・・・まあ一応お兄ちゃんの言ってることもわかるけどぉ」


「でしょ?」


「・・・」



 でもなんか納得がいかない、と言いたげな顔で秋五を睨むレイラ。正直睨みを利かせたところで怖くはないのだが。レイラは、秋五が奴隷を勝手に買ったことに怒っているのは明らかであるが、自分を置いて出かけて行ったことについてもかなりご機嫌ナナメのようだ。



「でもさ、その奴隷の人ってどんな人なの? 今後その人と一緒にやっていくわけだし、性格とかさ」


「うーん、よくわかんないけど。もの静かで知的な感じだったかな。レイラとは正反対って感じ」


「うーむ・・・その人って女の人?」


「そうだね。まあ人っていうより獣人のようだけど。犬耳生えてたし。まあ割とスレンダーな体系だから力はそんなでもなさそうだけど、攻撃アイテム持たせて敵をかく乱できるくらいには動けるんじゃないかな」


「むー・・・」



 それでもちょっと納得いかない、と言う顔で更に睨んで来るレイラ。



「うーん、まあ確かに勝手に買うって決めたのは悪かったよ。俺もなんか気がついたら買うって言っちゃったんだよ。とりあえずさ、今から会いに行ってみない?」


「え、今から!?」


「今行かないでいつ行くのさ。ほら準備して」



 有無を言わさず勝手に再度出かける準備をする秋五。レイラは一拍遅れて着替える服をリュックから引っ張り出した。


































 秋五とレイラが奴隷商のもとへ訪れると、先ほど案内された地下室ではなくまた別の場所にある建物へ連れて行かれた。少々薄汚い外観で中に入ったら今にも何かが出てきそうである。事実、奴隷商なんて公にできるような商売ではないのでこちらの建物はフェイクなのだそうだ。


 奴隷商から案内されるがままに、二人は扉をくぐってすぐにある待合室のような所でしばらく待たされた。



「お待たせいたしました。準備の方、整っておりますよ」


「お、おおふ・・・そうですか」



 ちょっともう一回見てから買うか決めたいんですけど、とは言えなそうな雰囲気だ。まあ事実、即決してしまった秋五の方に非があるので仕方ないのではあるが。




「ど、どうするのお兄ちゃん・・・やっぱり考えさせてくれって言った方が・・・」


「いやもうこれ駄目じゃない? 言えるものならレイラ、言ってご覧よ」


「いや買うって言ったのはお兄ちゃんでしょ!」



 一応宿を出た後にギルドで預金していた金を全て引き出した。と言ってもそんな大金を預けているわけではないので、現在手元にあるのは金貨八枚と銀貨六枚だ。これだけの金を稼ぐのもかなりの苦労があったが、ここでほとんどが消えてなくなるのだと思うと少々苦しい気もする。秋五はギルドからここまで、どうしようかちょっと悩んでいた。



「奴隷の方にはこちらで用意した新品の服も着せております。その他の服、下着類もサービスいたします。奴隷、こちらへ!」



 商人の呼びかけの後から、奥の扉から出て来た女性。



「こちらウルフタイプの獣人、ジェットハートでございます」


「・・・ジェットハート」



 奴隷商の紹介の後から自分の名だけアッサリと言うその女性、ジェットハート。茶色い髪の毛から出るその耳は犬ではなく狼だそうだ。とはいってもその四肢には狼のような毛は生えておらず、あくまで狼の部分は耳だけのようだ。少々つり目な感じもするが。


 まずこうして見ると全体的に細い印象を受ける。おそらく体のラインを強調させるピチッとした服を着ているせいだろうか。手足も長く、全体で見ると顔もかなり小さい。七か八等身くらいありそうだ。


 大きな赤い瞳とそれを強調する長いまつげ。地下牢で見た時はどこか小汚い印象だったが、こうして衣装を整えるとどこからどう見てもモデルのそれである。



「俺は佐々秋五、冒険者だよ。こっちは仲間のレイラ」


「う・・・わぁー・・・」



 レイラはジェットハートの姿に思わず見蕩れてしまったようで、だらしなく口をポカンと空けている。その気持ちも分からんでもない、と秋五は思う。



「? なに・・・?」



 ジェットハートは秋五とレイラの反応がよく分からないようだ。自分の姿を一度鏡に映してみたら良いのに。



「き、きれー・・・」


「まったくもって同意」


「お気に召していただけたようでなによりでございます」



 奴隷商は嫌らしく手をもみながら秋五のもとへ近づく。



「あの・・・・・・ちょっともう一度彼女と話してみても良いですか?」


「もちろん良いですとも」



 秋五はジェットハートのもとへ近づくが、未だ彼女の姿に見とれているレイラはその場から動けないようである。秋五はレイラの背中をポンと押してジェットハートの前にやった。



「レイラ。彼女になんか質問とかある?」


「し、質問!? え、えっとぉー・・・そんなに背が高くなるにはどうしたら良いですか!」


「そういうことじゃないんだけどなー」


「・・・・・早く寝て早く起きる・・・ご飯は残さず食べる」



 ジェットハートは律儀にも、レイラの純粋な質問に返答した。至極簡単な答えではあるが、レイラは「おおー」と声を上げる。



「じゃ、じゃあ! そんなにキレイになるにはどうしたら!」


「キレイ・・・? ・・・ワタシが?」


「すっごくキレイじゃないですか!目はおっきいし顔はちっちゃいし!」


「ん・・・意識したことない」


「ガーン」



 レイラは崩れ落ちた。実際ジェットハートの発言は嫌みにしか聞こえなかったからだろう。しかし自分の顔を意識したことがないというのは本気のようだ。短時間話しただけでも、彼女はかなり抜けているところがあるのは一目瞭然であった。



「お兄ちゃん! やっぱり駄目だよ、こんなキレイな人といたらお兄ちゃんだってどうなっちゃうか!」


「いやまあ危惧するのも分かるけど・・・でも俺、年下興味ないし」


「ガーン」



 なぜか再び崩れ落ちるレイラ。


 秋五はあまり年下に目を向けることはない。もともと職場上、家を空けることも多々ある中で年下の小煩い女と付き合うのは秋五自身かなり疲れるのだ。いつもより帰るのが少し遅れ、それについて何も連絡せずにいようものなら、半同棲の彼女はただのヒステリックな煩い女に変貌する。


 だったら同年代か年上の、自分の行動について寛容な人が良い。秋五は密かにそう思っている。



「秋五・・・何歳?」



 さっそく呼び捨てで名前を呼ぶジェットハート。



「俺? 24だけど」


「ええ!? に、24歳!?」


「え、そうだけど。あれ、俺そんなに老けて見える? ちょっとショック」


「い、いやそんなつもりで言ったんじゃないんだけどね。いやもう少し若いのかなって、20くらい? いや24歳だって言うならそれでも良いんだよ? でもそうすると年の差とか・・・」



 レイラは完全に自分の世界にトリップしてしまい、もはやその言葉も小さすぎて聞き取ることができない状態である。するとジェットハートはポツリとそれを口にした。



「・・・ワタシも24歳」


「「え!?」」



 レイラと声が重なった。



「え、24歳なの?」


「・・・うん」


「え、じゃあなに? 俺と同い年なんだ。なんだもっと若いのかと思った、17とか18とか」


「獣人の寿命は人間と同じくらいですが、狩りをするために細胞は比較的衰えないのです」



 奴隷商はまめ知識を一つ。


 細胞があまり衰えない、というのは凄いと思った。種族的なものなので、獣人からしたらそれが当たり前なのだろうが人間からしたら羨ましいことこの上ない。



「・・・・・気に入らない?」



 上目遣いでこちらを見るジェットハート。非常に男心をくすぐる仕草の一つである。



「・・・・・レイラ」


「・・・・・一ヶ月間、私の言うことなんでも聞いてね」



 狼の獣人、ジェットハートが仲間になりました。

お待たせして申し訳ないです。

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