そして旅は道連れ
「今までお世話になりました」
午前中は村中の人々に挨拶をして回った。
寂しそうな表情を浮かべた人たちを見て、一瞬決意が揺らぎそうになったがここまできたら自分の信じる方向へと進んで行くしかない。
挨拶周りを終えてハドソン家に戻ると、ソウルとマリーから預けられた荷物をまとめた。と言っても武具や、日持ちする食料をカバンに詰めただけなので時間はかからなかったが。
そしてこの二ヶ月間過ごした部屋をキレイに片付け、今こうして玄関の前でハドソン一家の前で頭を下げている。
「寂しくなるわねぇ」
「いつでも戻って来い。ここはもう、お前の家だ」
「本当に、ありがとうございます」
そこで気づく。レイラの姿がない。
「あの、レイラちゃんは?」
「ぷくく、どこかしらねぇ。秋五くんのこと忘れて遊びにでも行ったんじゃないかしら、ぷくく」
「……」
マリーはあからさまになにかを狙っている表情、そしてソウルは無言で目を逸らす。嘘を吐けない家族だな、としみじみ思った。
「まあ良いですけどね。レイラちゃんにはよろしく伝えて下さい。それじゃあ」
「うんまたね、ぷくく」
「またいつでも戻って来い」
悪意たっぷりの表情を浮かべたマリーと相変わらず無表情なソウルを尻目に、秋五は村の門へと向かった。
「あー風が気持ちいー」
こんなにも清々しい気分なのはいつ以来だろうか。高校の時のサッカーの大会で優勝した時だって、ここまでの爽快な気分は得られなかった。なぜなら始めから終わりまで補欠だったからである。
「とりあえず夕方までに食料を手に入れないとな。マリーさんからもらった食料も温存したいし」
ブツブツと今後のことを試行錯誤しながら歩いていると、既に目の前は村の出口であった。
一度村の方を見て「さらばパトゥエ村」と一言。そして村の外へ、と思ったその時。
「ちょっと待った!」
「え」
背後からは聞き慣れた声が。姿を見ずとも分かる、この元気な声は。
「レイラちゃん」
「黙って行こうだなんてお兄ちゃん、なに考えてるのさ!」
「いや君、家にいなかったでしょーが」
こちらの話を聞いているのかいないのか。フフンと鼻を鳴らして一言。
「村を出て行くなら、この私も連れて行っても良いのことよ!」
ドーン! 彼女は胸を張ってそう言った。
「うん、それ無理」
ドーン! 秋五に取ってはもはや考える時間など不要だった。
「なんでなんでー! 連れて行ってよ私もー! 一緒に行きたいのー!」
「いやいやいや駄目でしょ! だいたい勝手に村出たら両親が悲しむじゃないか!」
「許可ならとってるよ」
「なーんだなら良」
ん?
「っくねぇよ! なんで許可出してんだよあの二人!」
「私が『お兄ちゃんについていきたいんだけど』って言ったら即オッケーだったよ!」
「オーマイガ」
本当にあの夫妻は考えてものを言っているのだろうか。一人娘をそう簡単に一人の男の託すことが、はたして出来るのであろうか。答えは否、断じて否である。
「レイラさん、でしたね。なぜ私と一緒に旅に出ようと考えたのか。簡潔に述べてください」
するとレイラは背筋をピッと伸ばして、自衛隊よろしく見事な敬礼ポーズのまま言い放った。こういうノリの良いところが彼女の魅力の一つだ。
「わ、私は将来冒険者になるための修行を積むために、秋五さんのもとについて行くことが最良だと判断いたしました!」
「本心は?」
「だって寂しいんだもーん!」
こりゃもう駄目だ。確かにこの数ヶ月間、2人目目の実の妹のように可愛がって来たのでこうして一緒に付いて来ようとすること自体はとても嬉しい。だが、みすみす危険な場に連れて行くというわけにもいかない。
だが分かる。これは何を言っても聞かないパターンだということを。
それは小さい頃に妹の世話をしてきた経験則である。あとパトゥエの子供たち。
「……あーもうわかった。良いよ、一緒に行こう」
仕方がない。だったら自分がレイラを守れるだけの力をつけていくだけだ。
秋五はため息を吐きながらそういうと、レイラの顔はパッーと輝き「やった!」と嬉しそうに叫びながら高々とジャンプした。彼女のこういう思い切りの良いところは見ていて気持ち良い。
「そうこなくっちゃ! ほらほら行こうお兄ちゃん!」
レイラは木陰に隠しておいた自分のリュックサックを素早く手に取り、もう行く気満々である。
「準備万端かよ。はあ、行きますか」
思っていたものとは違ったが、旅は道連れ。仲間もいれば自然と旅も楽しくなるだろう。
ここでやっと、マリーの不自然に笑いを噛み殺したような表情が一体なにを意味していたのかを理解した秋五であった。
ここからが「本当の本編」。
やっときました。