恐怖からの解放
鼓膜を破ってしまうのではないかと思うほどの大きな叫び声と共に現れた大男。
他でもない、ソウル・ハドソンであった。
「な、なにアイツ・・・!!!」
「喰らえェ!!!」
ソウルが思い切り女に向かって大剣を振り降ろすとそこには女の姿はなく、大剣は鈍い音と共に地面に突き刺さった。
「ふぅ、危ない危ない。あんな大男、いちいち相手にしてらんないからねー」
ちょうど女は『神集の地』の出入り口とも呼べる、草や枝葉が複雑に絡み合うことで門のように形作られた場所へ移動していた。
「今回のことでキミ自身、退屈な人間にならないことをお祈りしてるわ。一応しばらくはキミから目を離しているけど、次に見に来た時まだこんな腑抜けた状態だったら殺しちゃうから」
「今回はここらで退散するわね」と一言言い残し、名前も言わずに魔術師は去って行った。と同時に秋五の体は女の支配を逃れ、フッと力を失くす。
「大丈夫か」
倒れた秋五のもとに駆け寄るソウル。見れば額に汗が吹き出、小さく息切れをしている。ソウル自身も、あの魔術師の力の大きさを感じ取ったのだろう。無理をさせてしまった、と秋五は内心後悔した。
「なぜ抜け出したのかは家で聞くとして、一旦この場から去るぞ。魔物たちも、よほど私たちの肉が食いたいらしいからな」
おそらく『神集の地』を抜けたら、秋五たちを待つ魔物がたくさん待ち構えていることだろう。ここからでは気配を感じずとも、猪突猛進な魔物たちのすることくらいは秋五にも分かった。
「動けるか?」
「え、ええ。すみません、ご心配おかけして」
「そんなことは良い。とりあえず走るぞ」
秋五とソウルは『神集の地』を抜けると森の外まで思い切り駆け抜けた。魔術師との対峙によるプレッシャーから逃れた後に全速力で走らされた秋五は満身創痍であった。
「うわーん、おにいちゃーん!!!」
「うわーん、秋五くーん!!!」
「前者はともかく、後者は明らかな泣き真似で便乗しないでください」
「つれないわねぇ」
扉を開けると、秋五の姿に真っ先に気づいたレイラが思い切り抱きついて来る。後から来た人妻の抱擁は、背後にいる夫の目を気にして拒んだが。
「出て行っちゃったかと思ったじゃないのさ、もー」
グスグスと胸で泣くレイラを見て秋五は、心から後悔した。
「いや本当ゴメン。いや誠に申し訳ありません」
思わず年下にまで敬語を使ってしまう始末。その態度はお得意様のもとへ菓子折りを届けに行ったときのソレに似ていた。
「なんにしても、二人が無事に戻ってきてくれて良かったわ。レイラなんかリビングと玄関を行き来して『戻ってこないよー』って嘆いてたんだから」
「おかあさん!!!」
「ありゃこれは失言」
マリーをポカポカと叩くレイラを見て、秋五は「今後この子を泣かせないようにしないと」と静かに胸に誓った。
「二人とも入りなさい。ご飯できてるから」
まあなんにせよ。
「生きててよかったー」
終わり良ければ全て良し、といったところだろうか。