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ヒューマンズ  作者: 石川十一
本章
15/37

魔術師

「帰ったぞ」



 ソウルが自宅に着いたのは、9時半くらいだ。いつもならレイラが玄関まで出迎えに来るのだが、なぜか今日に限ってはその姿を一番に拝むことはなかった。



「マリー。レイラはどうした?」



 マリーは、ソウルが帰ったことにいま気づいたようで、その素振りはどこか慌ただしい。



「大変。秋五くんがいないのよ。いまレイラが探しに行ってるんだけど、まだ帰ってこなくって」



 その言葉を聞き、すぐにソウルは家を飛び出した。もちろん秋五の身も心配ではあるが、一番はレイラだ。夜は魔物が活発化する時間帯。森の奥に潜む竜種が、ヒョッコリと平原にその姿を現してもなんらおかしくはないのだ。


 

「レイラ・・・!」



 こんな時、小さな村で助かった。


 村中をくまなく探していると、すぐにレイラの姿を発見できた。



「お父さん! お兄ちゃんがいないの。夕方に平原に出て今まで行ったとことか探したんだけど・・・ぜんぜん・・・」



 不安な気持ちからか、その瞳から涙がこぼれる。レイラよりも弱い人間が夜の平原に一人で出たらどうなるか。結果は決まっている。



「レイラ、家に戻れ。秋五は私が探す」


「お父さん・・・」


「なに、心配するな。必ず探してみせる。このまま家に帰って寝て起きたら会える」


「・・・うん」



 半ば強引に納得させレイラを家の近くまで送り届けた後、ソウルは全速力でその足を森の方向へ向けた。



「(以前、長と一緒に森になにかを探しに出かけたと言っていた。なにを探しに行ったのかは言わなかったが、それだけ重要なものなのだろう。その情報があれば十分……!)」



 
















「はぁ、っくはぁ、うあー着いたー」



 秋五の向かった先。そこは言わずもがな『神集の地』である。



「休んでる場合じゃないな。もしかしたらソウルさんあたりが追ってきているかもしれないし」


 

 活発化した魔物がたくさんいる中、ここまで来ることは容易ではなかった。いまだにスライムすら一撃で倒せない人間なのだ。もちろん魔物の姿を見つけたら、ばれないように木や岩の陰に身を隠しながら慎重にここまで進んできた。おかげでだいぶ時間が過ぎてしまったが。


 息絶え絶えになりながら、湖に向かって歩を進める。そのときだった。



「ストーップ」


「!?」



 背後から聞こえた声に一瞬戸惑いながら、急いで身を翻した。



「ハロー、過去からやってきた青年。ササ・シュウゴクン」


「な、なんで知っているんだ!」



 そこには南米の踊り子のような、褐色肌の四肢が際立つ服装を着た長身の女性が立っていた。身長は170cmといったところか。身長175cmほどの秋五より少し小さいくらいだ。



「うーん。と言いつつも、察しはついてるんじゃない? アタシはね、わっるーい魔術師なの」


「魔術師・・・」



 終わった、と思った。冗談でもなんでもなく、本気で。



「あ、あんたが俺を召喚した張本人だって言うのなら聞きたいことがある。なぜ俺なんだ」


「なぜ、かー。そう聞かれると困っちゃう」


「なに?」



 小馬鹿にしたような態度と、ネットリと絡み付くようなやらしい口調で話す女。それによって生じる焦りと苛立ちが、秋五の冷静さを欠く原因となっていた。



「別に誰でも良かったんだよね、キミじゃなくっても。適当に呼び出したらたまたまキミだったってだけ」


「適当、だって・・・?」


「そう適当。自分は特別だからだー、とか考えてた? そんなのナイナイ。あなたの時代に存在する約七十億人の中から呼び出されたのが、たまたまキミだったってだけだよ。まあ召還した場所がちょっと予想外だったけどね。アハハ」


「こ、こいつ・・・!」



 いかん、冷静になれ。


 秋五は自分に言い聞かせる。


 この女がどれだけ最低最悪な性格で危険な人物なのかは、この短時間の会話で十分すぎるほどに分かった。となれば、ここでとる行動は一つ。



「あ。ち・な・み・にぃ〜」


「!?」



 走る体勢をとろうとしていた秋五に言葉が投げかけられる。



「湖に飛び込んでしまえば勝ちだ、って思ってたらそれは間違い。わかんないかな〜。以前一度この世界に来たとき、湖に飛び込んだらもとの時代に戻れたよね。だけどその晩、またこっちの世界に飛ばされた。これ、どういう意味かわかる?」


「ま、まさか・・・」


「うん、そゆコト。アタシはね、一度召喚したものは、仮に前みたいに神集の地の力を使って自分でもとの場所に戻ってもまた召喚することができる。もうキミのニオイは覚えたからね、また戻ってもすぐ召喚しちゃうよ」



 秋五にはもう、手だてがなかった。

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