お得意さんがやって来た
この度、作者が晴れて無職になりました(実話)。なので、これからはこの作品に気合いを入れて執筆していこうと思います。なんといってもニートだし。
…ニートだし!
北東から南西にかけて、帯状に長く伸びる大陸がある。複数の国が各地を治め、交流を繰り返しては友好を深め、時には争いを起こして血を流す。
大陸の半ばにあるのは、広大な砂漠と荒野が入り混じる不毛な土地。昼夜の激しい気温差、水や食料が極めて乏しい上に、羅針盤の針が特殊な磁場で狂う為、一度入れば生きては帰れないと忌み嫌われる。
誰も近寄らない、誰も住めない。そんな物悲しい場所で、実際には平然と暮らしてのけている魔術師の敷地の前で、針が正確に定まった羅針盤を片手に持った一人の男が立ち止まった。
無地の軽装に身を包んだ男は、短く刈り上げた黒髪の頭を灰色頭巾で覆っている。表情は堅く、無愛想。睨みを効かせれば大抵の者は逃げ出すだろう威圧感を纏う。
男は塀に設けられた入り口の前に立つと、扉に付けられた紐を軽く引っ張った。家主を呼び出す鐘と繋がっている。
…。
二、三回繰り返すが、応答はない。
「………」
男は憮然としながら、背に担いだ旅荷物を置いた。薄茶色の鞄に取りつけてある長い物体を取り出す。
それは赤黒い鎚矛。手で握る部位以外が鱗に覆われ、殴打する部位は、蛇が蜷局を巻いたような形をしている。
両手で持たなければならない大きさを片手で振り上げた男は、躊躇いもなく扉へ振り落とした。
火属の魔力を込めて―――…。
夜更けから昼前まで、激戦が繰り広げられていた。
まずはフェイベルのターン。
「出ていけぇー!! これ以上俺の邪魔はさせんぞ! お前さんの好きなファンタジックな世界で好き勝手生きてこい!! そして二度と戻って来るな!!」
俺のターン。
「自分で喚び出しておいて放り出すのかよ無責任野郎!! この俺がたった一人で生きていけるかっ、世話してくれなきゃ死ぬぞコラア!! 」
リピート。
「ああ、さっさと何処ぞで野垂れ死んでこい!! その寝床がちょうど墓穴になるだろうよ!!」
「風で毛布が吹き飛ぶだろうが!! ちょっ、おい、だから無理に布団を引っ張って行くな!! うおおお、負けるかあ〜〜〜ッッ」
「ええい、往生際が悪いッ! 出〜て〜い〜け〜!!」
「い〜や〜だ〜〜〜!!」
一晩中布団の中で抵抗する俺を、アンチクショウが布団ごとズルズル引っ張っていく。階段もとっくに過ぎて、すでに上の階まで引きずり出された。
このままだと野外で放置プレイは免れない。なんとか奴の気を逸らして止めさせないと…。
「あ! ほら、Gがこっちを見てるよ。みっともないやりとり見られちゃってるよ。というか、追い出すならあっちにしろよ」
「デカさで言えば鬱陶しいのはお前さんだ。まずはお前さんから追い出す。ふんぬりゃあ!!」
「やせ細った体の何処にそんな力が!? あーほらほら、なんかリンリン鳴ってるよ。あれなんだろうね、確かめた方が良いんじゃない!」
「鐘の音なんぞどうだっていいわ。俺の今の最善はお前さんを追い出すことで…」
鼻息荒く布団を引っ張っていた手が止まった。誘導作戦成功!
それは良いけど、フェイベルの顔が様変わりしたのが気になる。真っ赤だったのが急に青ざめて「不味い…」とか呟き出した。
そういえば、この鐘は…?
「…〜〜〜旦那ぁぁ!! 今開ける! すぐに開けるから壊すのは待っ………」
俺をほったらかしで、喚きながら家の外に出て行った。と考えていたら、
ゴドムッ!! と、派手な爆発音と破壊の衝撃が伝わってきた。
「ひいっ、なん、何!?」
思わず布団に潜って防災シールドを展開、気になってフェイベルの後を追って開かれた戸口に移動。
毛布頭巾を装備して恐る恐る外を覗いてみた。
「…俺が開けるまで待っていてくれって、何度頼めばわかるんだよ! 終いにはそこにも式を組み込むぞ!?」
「誰もここに入ることが出来なくなるな。生活用品の調達と辺鄙な場所まで通う手間が省けて助かる。コイツの整備は……、別の魔術師を捜すか」
「おいおいおいそれは禁句だぜトキの旦那。仮に物資は良いとしても、ソイツを余所に預けてしかも弄ばせるなんてのは考えただけでもゾッとしないね。やめてくれ」
「どっちも嫌なら、次からは早く開けに来い。また無駄な計算にでも没頭していたんだろう」
「あーいや、違う。ちょっとした大問題が起きてね…」
「…、」
フェイベルとやたら柄の悪そうなおっさんが話している。如何にも冒険していますと言った格好の男で、近くには黒こげの木の板がバラバラに散らばってて、塀の入り口は綺麗さっぱり無くなってる。
おっさんの右手には、ヤバそうな鈍器が。もしかして、アレが件の獣具? 扉を吹っ飛ばすとかワーオ超素敵☆
近くで見たい。けど、あの強面には近づきたくない。
人見知りスキルが早速発動したよ。変な汗出てきた。
「…そうだな。トキの旦那、積もる話も後にして、提案したいことがある」
「ろくでもない話か?」
「旦那じゃあるまいしぃ……マジメな話。こき使える奴隷が一人いるんだ、要らないかい?」
緑がとち狂ったこと言い出したし。
「好きに使って良いのか」
相手も乗り気だし。
「…無償とは、怪しいな。なにを企んでる」
「企むなんてそんな、俺と旦那の仲じゃないかよ。要らなくなったらその辺に捨てても構わないんだ。手頃だぜ?」
「ふむ…」
譲渡成立しそうだし…ッ!!
あ、ヤバい。自己主張しに行けない。成り行きに流される。面と向かっての会話とか難問過ぎる。
………ああ、うん。
これだから、現実って、嫌いっ。