荒野の中心でオタが叫ぶ
ドレイク
「君は、Gを至近距離から見たことがあるか!」
フェイベル
「あるのか?」
ドレイク
「おおう。グロッチェグロッチェ」
白い石組みで建てられたフェイベル宅の外を、塀に登って眺めてみた。
なんにもなかった。
いや、あると言えば、ある。見渡す限りの大荒野が、地平線の果てまで広がっている。石垣で囲われた敷地内の何処から見ても、枯れた草木がちらほらとあるだけだ。
そこには、俺が追い求めて止まなかった夢と浪漫があった。
「…ここ明らかに日本じゃねえーっ!! キマシタワ〜!!」
…。
…。
うん、誰からの返事も来ないのは分かりきってた。ちょっと心細くなったけど誰も寂しいなんて思ってない。
いやしかし、久々の外出が憧れの異世界とは…。いるだけ無駄な人はほとんどいない、自動車の排気ガスで空気も汚染されてない。ついでに動植物も見当たらないのがぼっち感を際立たせるけど、長年引き籠もってきたドレイクさんには通用しない。孤独万歳!!!
それでは、澄み渡る青空と黄土色の大地を楽しみながら、新鮮な空気を胸一杯に堪能しよう―――。
「…―――ゲェッほ!! ごふぉほっは…けほ」
「…ここの式は要らんかなー。構造に欠陥さえできなければ…簡略するか…」
「ぶぇぇっ。…そ、外。風で、砂埃が……うぇっへ。ハァ、思いっきり、吸い込んだ…ぁあ苦し、気持ち悪っ」
「………、」
「ちょっと、そこの頭レタス。少しは気遣うとか心配するとかしてくれないのか泣くよ?」
「………、」
「空気扱いが一番堪えるっていうのに…」
机にかじりついてうんともすんとも言わない。放置プレイがお好みかこのアブノーマル野郎。
頭レタスもといフェイベル…名前もファンタジーっぽいな。カッコウィー…が、相手にしてくれないので、部屋の中を見て回る。
家の中は散らかり放題だ。特にフェイベルの自室が群を抜いている。そこら中に本やら書類やらがばらまかれて足の踏み場もない。俺の部屋と良い勝負だ。
「…G」
俺の部屋より状況は悪いらしい。箪笥の縁をカサカサ這ってる奴と目が合った。おおう、やたら動かしてる触角がキモ過ぎる。
長い間掃除してないのがわかる。俺の場合、あの人が定期的に片づけてくれてたからなぁ。なるほど、それで掃除してくれる人手が欲しくて俺を喚んだと。…ざっけんなテメエで片せやダラけてんじゃねえぞ。
他にめぼしいもの(ファンタジー要素)は見つからない。てことで、魔術師のお家見学は終了。
「ねー、お腹減ったー。なんか振る舞え」
「…甘えた声で傍若無人だな。お前さん、もうちょい遠慮することを覚えようぜ」
「あ、反応した。人を無理矢理引っ張り出して奴隷にしようとした輩に正論言われたくないんだ」
「飯を作って欲しいのはこっちなんだがな。炊事、洗濯、掃除……お前さん、どれができる?」
「ちょっとマイ布団に用事ができたから地下室行ってくるー」
「引き籠もるな寝に行くな! 質問に答えろ」
「必殺技の名前を考えるのが、好きです!」
「どうでもいい!! 日常に役立つ得意分野はないのか! なければ家には置いてやらんぞ。追い出すか、元いた場所に送り返すか、だ。どうする?」
「選択肢Cを選ぶ。―――どっちがご主人様か力ずくでわからせてやんよォ」
「その場合、誰も飯を作る人間がいなくなるが?」
「…………せ、洗濯と、掃除くらいなら、頑張ってやらないでも、ない」
「働くんだな?」
「…………働いたら、負けだと思って」
「メシ抜きで何日耐えられるのやら」
「身を粉にして働いてやろうじゃない!!」
俺の名は、ドレイク。奴隷くんじゃなくて、ドレイク。
現在の職業、居候人。
働かざる者食うべからず。…世知辛いファンタジーに迷い込んだドレイクの明日は、どっちだ―――。
「ブツブツ喋ってないで働け、奴隷くん」
「俺の名前はドレイク。ド・レ・イ・ク!!」
「どっちでもいいから、静かに頼むな。奴隷くん」
「くっ!」