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獣々承知!!  作者: 納 平子
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到着~骸骼都市




 大陸中間北部の海岸に面する港街、骸骼都市。どの国にも属さない独立した地域で、国々の商人が訪れて盛んに交易を行う一大拠点だ。全国各地からあらゆる品が持ち込まれて金銭取引が為され、流通が途切れることはない。

 街に住む者の半数は商人を生業とするが、残りは漁や農耕で生計を立てている。都市近郊は、延々と広がる周辺の荒野と比べて格段に実りが良く、交易の発展を促している。

 商業と陸海からの恵みによって栄える街、それが骸骼都市である。







「…あれ。おっさんとか、なんで正面からで大丈夫なの?」


 左右不揃いの大岩に設けられた石門を通過中、ふとトカゲの死骸から集中を切らしたドレイクが気づいた。

 門を守衛する二人の兵は、賞金首のトキや獣具を持つフェイベルを見咎めることなく通してくれた。コヨウは公的に認められているからいいとして、死骸を大事に持つドレイクには不審そうな目を向けたのに、無法者の出入りを許したのは何故なのか。

 先を歩くトキは応えず、代わりとばかりにコヨウとフェイベルが答えてくれた。


「骸骼都市は、どの国も不干渉ってことになってるからね。他国で指名手配されてるお兄ぃも、ここではお咎めなしなんだ」


「良いことのように聞こえてヤバくないか? 犯罪し放題ってことじゃん。この街、大丈夫なのかよ」


「取り越し苦労は止めときな、奴隷くん。この地で馬鹿をやる奴はいない。大抵の悪党は、街に入ることすらしないんだぜ」


「「…」」


 答えて───、犬猿の視線がぶつかり合ってバチバチと火花を散らした。

 すっかり険悪な仲に陥った二人にほとほと呆れるドレイクは、横槍を入れて衝突を回避させる。


「あー…、なにか、抑止力みたいなものでもあるの? この街にも獣騎士団がいるとか?」


「いないよ。いるのはそこそこ訓練された自警団だけ。それでこと足りるんだよ」


「なんで?」


「さあ……。昔から、そうなんだよね。ここでなにかをやらかそうとした賊とかは、どうしてか直前でことを起こすのを止めるんだ。何人か捕らえて尋問してみても、怯えて話そうとしなかったらしいし」


 上手く説明できなかったコヨウは、そこで機嫌悪そうにフェイベルを窺う。この男なら知っていそうだが聞くのは癪だなぁと、そんな表情をしている。

 予想は外れて、フェイベルもなんでかねーと嘯いてみせた。これ以上コヨウの反感を買わないように自ら退いたらしく、大人の対応にコヨウも突っかかれなくて口を噤んだ。

 疑問は解消されなかったが、無意味な抗争は免れたからよしとして、ドレイクは自分の課題に戻る。両手に乗せたペットは相変わらず干からびた状態で動いてくれない。今までどうやって蘇生の式が転写されていたのか、糸口すら掴めないままだ。


「これで練習しろとかさ…。もっとタメになる助言くれればいいのに。…ん?」


 愚痴は減らないわ進展はないわで心が荒んでいく中、ドレイクは奇妙なわだかまりを覚えた。

 ここ最近、自分に対するフェイベルの態度がかなり軟化しているような気がする。フェイベルの邸宅や大国では、現在のコヨウ並みに仲が悪かったはずなのに。カイムの庵にしばらく滞在していた頃から、軽口を混じえながらも、よく声をかけてくるようになった。

 そうだ。ちょうどその頃から、なにかを忘れているような………。


「奴隷くん、トカゲの調子はどうだい?」


「ぐ…っ。嗚呼、バッチリ良好だよ!!」


 嫌みったらしい声でドレイクの思考が途切れ、反射的に噛みついた。

 余計なことを考えている場合ではない、早くグレートアッシュを蘇らせて見返してやらねばと、ドレイクは熱意に燃える。

 歯軋りして再度トカゲの蘇生に戻る姿を、フェイベルはこっそりと覗き見ていた。

 意地の悪い顔で。


「…チョロいねぇ」


 何気なく手に担いだ箒を指で叩いて、そう独りごちた。







 四人は門から断崖の壁に挟まれた通路を進み、街の中へと入る。ドレイクはトカゲばかりを見ていて周りの様子が疎かになっていたが、フェイベルが感嘆の息を漏らしたのを受けて顔を上げてみた。

 その光景に、呑み込まれそうになる。


「なんだこれ……。洞窟、じゃないよな。自然にできたものか…?」


 街の空を、巨大な傘のような岩が覆っていた。

 陸から海にかけて弓形に伸びる太い岩の両端から、均等に複数の岩が曲線を描いて地上に伸びている。丸い屋根の柱だけを組み立てたような外観が物々しい雰囲気を、隙間から射し込む光と影の対照が白壁の四角い街並みの美しさをより際立たせる。

 街に初めて訪れたドレイクとフェイベルは、特にドレイクの方は、感心しながらずっと天上の傘を見上げた。

 この景観が醸し出す威圧感は、確かに悪さをしようとする輩を牽制してくれそうだ。精神論で本当に遠ざけられるかは定かではないが、コヨウの話にいくらか信憑性が持てた。


「…。なんだろ、この形」


 大岩の傘を見上げ続けるドレイクは、街中を行く三人から段々と遅れ出す。終いには立ち止まって、食い入るように眺め始める。

 街をすっぽりと覆う岩に、ある既視感を抱く。何処かでこれと似た形状を見たことがあるのだが、思いつかない。

 単なる記憶違いなのか、それにしては妙に気になる………、


 ヨコセ…。


「───」


 囁かれた。

 何者かに。

 体の内側から。

 満たすような。

 まとわりつくような。

 蝕むような。

 ゾッ とす る コエ が ・ ・ ・ 。


「ドレイクー、どうしたのー?」


「ッ!? あ、ああ、悪い。すぐ、行く…」


 コヨウに呼ばれて我に返り、ドレイクは急ぎ足で三人を追いかけた。

 首筋に嫌な気配を感じながら。この土地の不吉さに、これから悪いことが起こるのではと勘ぐりながら。

 ドレイクは骸骼都市へと潜っていく。







 …。


 ヨウヤク、訪レタ…。


 待チ焦ガレタ機会ガ、コノ戒メノ地ヘト、巡ッテキタ…。


 愛シキ片割レヨ、モウスグダ…。イマ、シバラクノ辛抱ヲ…。


 イマ、ヒトタビ………ッ。






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