考察~魔術師?“DRAKE,N”
この世界に伝わる魔術の系統は三つ。
一つは錬金の技。もっとも多く残された技術で、有名無名に括らず広く使い手がいる。四属の魔力を持つ材獣からその力を引き出す獣具を造り出すことを主とする。
一つは召喚の技。難易度が高く、会得する使い手が極少数に限られる。異界から生物を呼び出し、服従契約を結んで従える。
一つは死霊の技。使い手が残されていない禁術とされる。死した者を呼び覚まして従えるが、詳細は不明である。
これらを世界に伝えた魔術師は祖となる者達であり、由緒正しき家名を持っていた。それぞれの家ごとに錬金、召喚、死霊のいずれかを得手として研究が進められ、その流れは今日までに至る。
原因はお前さんにある───そう指摘されたドレイクは、至って真面目な顔のフェイベルをまじまじと見つめた。
この世界に喚び出され、歓喜に湧いた自分に才能がないと釘を刺したのはフェイベル自身だ。その身に宿した魔力は無属で獣具は扱えない、魔術を理解して行使する頭脳もないと。それが、ここに来てなにを言い出すのか。
ハッと鼻で笑い、ドレイクはフェイベルの真意を深読みした。
「からかってるんだな? 俺がそういうのに憧れてたから、担ぎ上げて良い思いをさせて、実は嘘でしたーって落として傷つける腹だろ。そうなんだろ!? 残念でした、その手には乗らないもんね!」
「人を疑うしかできんとは、さもしい奴よな。信じる信じないはとにかく、良いから手のひらを見せてみろ」
取り合わないフェイベルは、勝手にドレイクの手を持ち上げた。
目線の先でジィと見て、そっと人差し指で手のひらの中心に触れる。
バチッと、触れた部分から青白い火花が飛び散った。鋭い痛みがドレイクの体をくまなく駆け抜けた。
「うギッ? アアッ??!」
「ふむ。……転写? ずいぶんゴチャゴチャとしてて解りづらいが、その他の式を書き写すって内容か。我流にしてもお粗末だな───おふっ」
一人で考え込むフェイベルに手刀が振り下ろされ、スコンと小気味よい音が鳴った。
痛がる男と半ギレした男が、互いに睨み合う。
「人が親切に調べているというのに、お前さんはなにをするか」
「それはこっちの台詞だ。いきなり妖しげなことしやがって、俺の手になにをしたんだよ!!」
「調べただけだ!! …ああもう、加減なんぞせずに全体を解析すれば良かった。人の親切も知らんで…」
ブツブツとボヤくフェイベルに、親切? と聞き返すドレイク。彼なりに気を遣ったらしいが、相手には伝わらなかった。
ハアと溜め息を漏らしながら、フェイベルが話を戻す。ドレイクから聞いた話と、たった今調べて分かったことから、二つを関連づけて説明に入る。
フェイベルの話を聞くにつれて、ドレイクの目の開きが拡大化されていった。
「お前さんの体には死霊の技、その式が組み込まれている可能性がある。転写の式が刻まれたその手も合わさって、死者の一部に触れることで死霊を呼び覚ますことができるんだろう。一時的な蘇生に過ぎんがな」
「死霊って、幽霊とか、お化けとか、ゴーストとか、…………マジで?」
「全部同じ意味だぞ奴隷くん。落ち着け」
「いやいやいや! なんか信じられない。俺を騙そうとしてない? 本当はアンタがなにか仕組んだとかじゃないの!?」
「俺の得手は錬金だと何度言えば分かる。今は召喚の技も扱えはするが、死霊の技なんて式は一度だって試したこともない」
「…」
聞き終えたドレイクは、放心状態で座っていた。まさかの技能発覚に頭の理解が追いついていないらしい。
駄目押しとばかりに、フェイベルは先の説明に補足を入れ始める。
「まあ、俺も信じ難いさ。死霊の技ってのは、現代で使える魔術師は残されていないのが通説だからなぁ。だが、現に今も蘇生中の生物がいるだろう。お前さんの髪に紛れた、そのトカゲが」
「コイツが…? え、てことは、やっぱり………お前はあの時食べたトカゲかあ!!」
またもや驚いたドレイクは、トカゲを掴んでジタバタもがく姿を確かめた。似ているなと感じてはいたが、まさか本当だったとは…。
それから、フェイベルはうんちくを傾け続けた。蘇生する対象が小さければ、その式が十全に転写されて長く蘇ることが可能だということ。逆に対象が大きければ、転写される式が不十分となり、蘇る時間に限りが生じてくるなど。
但し、蘇生する際に費やす霊属の魔力によって時間の長さは変動する…と、若干興に乗って語っていたフェイベルだったが、ドレイクは途中から聞いていなかった。
理想と実際の能力との違いに思い悩む。
「死霊の技かぁ……。勇者っぽくねえな」
「選り好みできる立場かい。ついでに言っとくが、多用するのもお勧めはしないぞ。そいつはな、」
「………ふ」
「奴隷くん? おい、聞いてるのか…」
「ふはははははは!!」
ドレイクの様子がおかしい。その正気を訝ったフェイベルが確かめようとした、矢先の出来事。
急に立ち上がったドレイクが歓声を上げた。近くで眠りこけていたカイムがビクッと跳ねた。
「王道展開キタコレぇええ!! ネクロマンサー・ドレイクの活躍を、乞うご期待!!」
諦めかけていた特殊能力がついに開花した、ここから俺の時代が到来するのだと、そんな喜びに胸を膨らませて狂喜乱舞した。
誰の声も届かなくなった阿呆を前に、説明を諦めたフェイベルはぼそりと呟く。
「死霊の技が何故に廃れて使い手もいなくなったのか。無闇に使って手痛い目に遭っても知らんぞ」
まあ知ったこっちゃないが、と言い添えて。
フェイベルは本題に取りかかる。先ほどの説明には含まれなかった内容、ドレイクの体に組み込まれた式にまつわる謎について。
肝心要の問題は、なに一つ解明されていなかった。
(奴隷くんに技の知識はない。“何者かが奴隷くんの体に式を組み込んだとしか考えられない”)
転写の式はともかく、死霊の技に関して言えば、フェイベルの目から見ても高度なものだと分かる。それも恐らくは一端に過ぎない。
誰が、なんのために、彼の体へ死霊の技による式を組み込んだのか。
(奴隷くんのいた世界には魔力の概念はなかったはず、俺もそれを狙って喚びかける先に指定した。なのに喚び出した男には魔術の痕跡が残っていた。“その世界に魔術師がいた、確かな証拠だ”。その魔術師とは一体、)
疑問、追及、視線が、灰色トカゲと風羽根の箒を掲げて浮かれている男に集約される。
「奴隷くんは、何者なんだ」




