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獣々承知!!  作者: 納 平子
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襲撃~フェイベル邸




 徹夜明けの人間は、誰しもが高揚とした気分となる。窓から差し込む朝日を拝んだフェイベル・ラインバルも同様、勢い良く席を立って万歳の格好をした。

 机に置かれた、新たに制作した獣具の完成を祝う。


「できあがったぞ〜!! やーっほ〜うぃ!!」


 高らかに雄叫びを上げて、改めて完成した品を眺めた。

 虹彩鳥の片翼をそのまま使用した柄に、前腕から手のひらの羽根は残して虹色の尾羽を付け加えた逸品。

 その名もずばり『風羽根の箒』。

 フェイベルは箒を手に取り、くるくる回りながら邸宅内を掃き始めた。


「あははははは!! 見よ、チリもホコリも逃さない風羽根の力を!! 隅から隅まで徹底的に吹き飛ばし、部屋の外へ追い払ってくれる!! 正確に操られた気流は積み上がった書類等も巻き上げない、まさに主婦の心強い味方!! これこそまさに、究極のお掃除用具也ィッ!!」


 ぶわっと風が吹き荒び、部屋中のゴミを巻き上げて窓の外へと運んだ。

 気取った姿勢でふっと笑うフェイベルを、本棚の陰にしがみついていたGが見ていた。恐れ入りましたとばかりにすごすごと退散していく。

 我が家の清潔を取り戻した。その充足感を胸に、フェイベルは箒を机に戻した。

 そしてうなだれる。




 や ら か し た 。




「なんてこったい。掃除しなきゃ掃除しなきゃと考えてたら、なんとまあ箒ができあがっちまったよ。驚きったらないね。誰が想像したんだろうな、俺は知らん」


 半ば投げやりで愚痴を零すフェイベル。元を正せばあの奴隷くんが悪いんだ、と責任をなすりつける始末。

 なにはともあれ完成した獣具、箒として以外にも別の使い方ができるよう式は組み込んである。その点を説明しさえすれば、売却先に文句を言われることはないだろう。


「依頼主の情報を聞いた限りじゃあ、飾り棚に仕舞われるのがオチだろうがな。さぁて、後はトキの旦那に渡すだけだ」


 あれから一週間と二日、トキとドレイクが目指した小国までの道のりを考えれば、戻ってくるのにもう数日はかかる。それまではとりあえず惰眠を貪ろうとベッドへ向かったフェイベルは、


 背後を取られ、首筋に死神の鎌を押し当てられた。切り裂かれる寸前だ。


 フェイベルはなにも言わず、暗殺者もなにも語らない。手短に、無駄なく、鎌を横に引いて首を切り落とす。

 鮮血が舞うはずだった。そうならなかったのは、フェイベルが一瞬の内に凶刃から逃れて距離を取ったから。

 その手にはいつの間にか、机に置いた風羽根の箒が握られている。招かれざる客を相手に、睡眠不足で機嫌が悪くなっていくフェイベルは辛辣に問いかける。


「勝手に人の家に上がり込んで無礼を働くとは、とんだ教養を身に着けた輩が来たもんだ。…お前さん、何者だ?」


「お前如きに名乗る名はない」


「いや結構。そのふてぶてしい言い様で察しはついた。妙なのが家に入り込んだと思ったら、やっぱりアイツらの類だったか」


 フェイベルはふうと溜め息を吐き、白装束の男ジンを睨んだ。

 彼の所属する組織の名を、言う。


「いつかはやってくるだろうと思っていたよ、『輝けるもの』(デーヴァ)。まだ支配者面を気取っていたとはね。ご苦労なこったな」


「黙れ、裏切り者。我々は支配しているのではなく、管理しているのだ。低俗な人間達がこの世界を食い潰さないために!」


「それで、高尚な皆々様がこの世界を滅ぼして差し上げるとでも? 前回の痛手から一世紀足らずで、なにも進歩しておらんようだな。懲りない連中だ」


「…ッ。知った風な口を叩くな!!」


 フェイベルの軽口を黙らせようとジンが駆けた。真横に振るわれた大鎌がフェイベルの首を狙い、箒の柄に食い止められる。


 “強度変換・硬化”。


 その獣具の硬さが変わり、羽は鋭い刃と化す。

 箒から薙刀へと形状を変え、フェイベルは豪快に振り回して突風を産み出し、ジンを遠ざけた。

 犬歯を剥き出して態勢を立て直すジンとは対照的に、フェイベルは慌てず騒がず獣具の具合を確かめる。


「ふむ。感度良好哉、と。良い仕上がりだ」


「ふざけるなよ……っ」


「誰もふざけてなどおらんよ。自分の制作した獣具の出来栄えを確認するのは、魔術師にとって常識だろうが。お前さんも、末端でなければ理解できよう?」


 それとも家名をお持ちでない? とフェイベルが茶化すと、ジンは意外にも言い返さなかった。図星だったらしく、なんと言えばいいのか、フェイベルは口を塞ぐ。

 末端ならば、組織に対してそこまで入れ込まないのをフェイベルは知っている。それならばジンがフェイベルに憤慨する理由はなんなのだろうか。

 そこまで考えたフェイベルは、もう一つあることに気づいた。


「ふぅむ。どうも『輝けるもの』は、毛色の変わったモノを飼い始めたようだな」


「…、」


「お前さん、ナニモノだ? ぱっと見は人だが、まさか………」


 言葉の続きを、ジンは言わせなかった。

 逆鱗に触れた。ジンの目から正気の色が失せて、殺意しか抱かなくなった。

 地を刈る大鎌を床に刺し込み大地に干渉、土の鉤爪を出現させる。

 ズズ…ッと、地鳴りが邸宅に響いて、そして―――。




 巨大な鉤爪の一群が、フェイベル邸を含む荒野一帯を、根こそぎ飲み込んだ。






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