彼の名前はどれいく
前回のあらすじ。
自宅の部屋に引き籠もっていたら、ファンタジーな世界にお呼ばれしました。
………………、
「きぃひっひひゃあああッッッフォォォォォォォウ!!!」
「うわ気持ち悪っ! いきなり奇声あげんな。どうした?」
「キタコレエエエエッ!! 願い続ければ叶うってウッソ本当だった先生疑ってすいませんでしたっひゃあああ!!」
「なあ、ちょっと、落ち着け。冷静になって話をしようぜ? 突然のことで気が動転するのも致し方ないけど、お前さんの発狂っぷりにはそら怖ろしいものを感じ」
「はわあ?! …気づいてはならない点に気づいてしまった。テレビとゲームがここにあるのはなんでだ。やっぱり夢か寝オチかよコンチクショウ!!」
「人の発言に被さるな。そろそろ限界だから、門は閉じるぞ」
ファンタジーな髪の人(略称FH)が手を叩いた。床のほんわかと光っていたのが消えて、テレビ画面になにも映らなくなった。ケーブルの先のコンセントが、もやもやのところで寸断されて千切れている。
マジモンだ。下手なマジックという線も捨てきれないがその辺に投棄しよう。
立ち上がって周りを見てみる。薄暗い石壁、火を灯したランプに山積みの本や紙切れが目につく。その内の一枚を覗いてみても、何処かの原住民が使っていそうな異世界文字や図形が確認できる。
どう考えても『アレ』の住処だ。もう『アレ』しか考えられない。
「魔法使いだ…、魔法使いに選ばれたんだ! この世界の救世主に!!」
「正式には魔術師な。特定の個人を選ぶなんて器用なことはできねえよ。お前さんはランダムで引っ張り出したんだ。救世主ってなんぞ?」
「世界を救うために、俺はこれから勇者の道を行くんだな! 胸熱だな! “ドレイク”なんてカッコウィー名前までもらっちゃったし」
「ドレイクじゃない、“奴隷くん”! …ちょ、いい加減人の話を聞けって。これから大事な話をするから」
「そうか、そうだな。お願いしますFHさん」
「誰がファンタジックヘアーだ」
ひとまず荒ぶる心を落ち着けて話を聞こう。この、ヨレヨレのシャツとズボンを着たFHこと魔術師さんが、色々説明をしてくれるらしい。
その前に、自己紹介。
「悪いね、急に勝手に呼び出したりして。ちょいと人手が入り用になってね」
「もう任せてよ。世界の命運を俺に託そうって魂胆だろ。引き受けてやらないでもないぞ。ん?」
「おーし、一発殴れば正気に戻るか? それはそれとして、だ。俺はフェイベルってしがない魔術師だ。お前さんの名を聞かせてくれ」
「もう名乗ったよ」
「いつだよ」
「さっき言っただろ? ―――俺の名は、ドレイクだ…!(どや)」
「だからちげーよ!! ドレイクじゃなくて奴隷くんだって言ってんだろその顔腹立つからやめろ!! 俺が聞いてんのは本名!!」
「そんなものはない!!」
「ないって訳ないだろうが! ならお前さんは、あっちの世界でなんて呼ばれていた?」
「知らん! あっちの世界なんてもう知らない! 俺はこのファンタジーな世界にやって来たことで生まれ変わったのだ。そう、世紀末の覇者『ドレイク』に!!」
「救世主から勇者、終いには覇者って、ブレまくってんぞ。世紀末でもないしな。…あのよ、礼儀って知ってるか?」
「ハァァ、嬉しすぎて死にそう…。この例えようのない喜び、まるで無くしたと思って諦めていたお金が枕の下から出てきたような幸福感っ」
「人の話を聞けと、例えようがないのに例えてるし、ささやかだなお前の幸福感!!」
脇でFHがごちゃごちゃ喚いているけど、もう俺の耳には入ってこない。これから始まる、夢と冒険に彩られた毎日に思いを馳せ―――、
「ハア。じゃあいいよ、お前さんを帰して別の奴をまた引っ張ってくるから。まったく、この術、かなりしんどいってのに…」
「は? おい、今なんて言った? 帰す? 別の奴? 別の奴なんていないよ。この世界を救えるのは俺だけだよ。寝ぼけたこと言ってんじゃないよ殴るぞ」
「寝ぼけてんのはそっちだ………ごはぁッ!? てんめ、本気で殴る奴、がフッ!! ………ちょっまて、待って。お願い。俺暴力嫌い。イジメ反対。そ、その握り拳をどうかしまって!! プルプル震わせないで!!」
二回くらいグーで殴ったら考えを改めてくれた。こいつ弱いな、本当に魔法使い?
「バリバリの武闘派なんて滅多にいない。俺達は、平たく言えば研究者だぞ。生身の殴り合いなんて論外だっての…っ」
「バトルする時に攻撃魔法くらい使うだろ」
「何処の世界の話かは知らんが、『攻撃魔法』なんてものは、ここにはない。……ッ痛ー、容赦なく殴りやがって……名前さえ聞き出せれば……『服従契約』が完了できれば……」
「なんか言った?」
「いやこっちの話だ気にするな。それよりな、だから名前を教えてくれって。頼むから」
「ドレイク・アスタリスク」
「それは聞いたって…、どっから出てきたアスタリスク!?」
お星様からさ☆