滞在~商店街表通り
ドレイク
「作者がぁ…」
トキ
「ん?」
ドレイク
「章になってから、無属の魔力の説明をしていないことに気づきました」
トキ
「嗚呼、そういえば」
ドレイク
「説明しないとね。なんといっても、主人公の持つ魔力だもんね!」
トキ
「俗に凡庸と言われ」
ドレイク
「主人公の魔力だかんね!!」
トキが子供達の相手をしている間、ドレイクはカザリナと一緒に買い出しへと繰り出す羽目になった。
“羽目になった”というのは、…大通りに出るイコール雑踏に出る→人が溢れている場所に出るのは対人関係が苦手なドレイクには荷が重たい→断りたかったけどあのトキは正直見ていられない…という連鎖があったからだ。
荷物持ちを頼まれたので、頭に毛布を被ることも許されない。緊張と不安で足腰をガクビクさせながらドレイクは歩いていく。
或いは、持たされた荷物の総量によって、足腰が悲鳴を上げていた。
「カザリナ〜、まだ買うのかな〜? ドレイクさん、そろそろ限界だよ〜…」
「あとですね。これとこれとこれを四つずつと、それからその大きな野菜を下さい。二玉♪」
「ねえ、加減して!? 俺もう限界だよっ? どうして虐めるの、可哀想とか思わないの!?」
「あ…、ごめんなさい。トキ様に同行されているのなら、それなりの苦行はこなしているのではと…。このくらいの仕打ちなら耐えられるのでは?」
「仕打ちって言っちゃったよ!! 酷いって自覚があるんじゃねーかよ!! 冗談じゃないよ!!」
泣き叫んでもカザリナの買い物は終わらない。ドレイクの両手、両腕、両肩、首と、余すところなく積んで提げて持たせていく。
終いには喉から奇声を発するまでになったドレイクは、周りの注意をこれでもかと引くようになった。不幸中の幸い、それを気にするだけの余裕がドレイクにはなかったが、さすがに不憫に思ったか、カザリナは道の端っこにドレイクを誘導して休ませることにした。
「それにしてもおっさんめ、いつの間にあんなものを…」
「あんなもの?」
「獣具だよ」
荷物を降ろしたドレイクは、地べたに腰を下ろして唸る。フェイベルの話では風羽根の加工、制作に一週間はかかると言っていたのに、あれだけの数を半日で造れるとは知らなかった。知っていれば自分のものも、とドレイクは悔やんでしまう。
それを聞いたカザリナは可笑しく笑い、ドレイクはむっとした。
「笑わなくても良いだろ、俺も欲しかったんだよ」
「いえ、あの…。ドレイク様、あの首飾りは獣具ではありませんよ」
「え?」
「そもそも、あの子達は全員『無属』の魔力ですから、風属の獣具は扱えないのです」
言われて、ドレイクは思い出した。
獣具を扱えるのは、四属の魔力を持つ者のみ。その他大勢の人は特出すべきもののない無属の魔力に分類され、獣具の操作は行えないのだ。
他ならぬドレイクも無属の魔力の持ち主であり、風羽根の獣具を手に入れてもなんにもならない、無用の長物となる。
「くう、理不尽だ…。俺にもなにか特典くれよ、勇者だぞぅ…」
真剣に落ち込むドレイクを見て、カザリナはやや困ったように顔を伏せた。“自身のこと”がバレないように話題を逸らす。
「ドレイク様、そろそろ行きませんか? 早く戻って夕食の支度をしませんと」
「あー…、おk。この大荷物を運びますかぁ。…―――カザリナは凄いな、毎日これだけの量を一人で買い込んで。運ぶの大変じゃないか?」
「それは……違いますよ」
立ち上がりながら感心するドレイクに、カザリナは顔を俯かせて否定した。そんな反応をされるとは思わなかったので、ドレイクはつい物憂い様子のカザリナを見つめる。
「子供達とは、明日でお別れなんです。孤児院を経営する、私のご主人様からの伝言にありました。だから、今日の晩は美味しいものを沢山食べさせたくなったのです」
「お別れって、アイツら何処に行くんだ? 引っ越し?」
「いいえ。間違いではありませんが、少し異なります。あの子達は“売りに出されるんです”」
は? と間の抜けた声を出した。
聞き間違えたのかと考えたドレイクに、カザリナは何てことはないとしてにこりと笑った。
極々ありふれた、人身売買であると。




