終着~名もない平野
ひたすら真横に広がる草原の中、ドレイクは街道の脇に立って荷馬車を見ていた。トキは前席に座るちょび髭の男と交渉し、魔の黄砂と呼ばれる荒野地帯までの道のりを乗せて貰おうとしている。
多少の金貨と用心棒を引き受けることで手は打たれ、トキは荷台に乗れと手振りで指示した。ドレイクは地面に置いた荷物を持ち上げて荷台へと載せる。
慎重に、大切そうに、そっと置く。
ドレイクとトキは、あれから口を利いていない。
吹き抜け峠を上って浮流地帯を渡り、雪山を下って平野部まで戻った。その間、二人は一言も交わそうとしなかった。
洞窟で起こった出来事。ドレイクが千切れた翼を持っていたこと。一体、何があったのか。
荷馬車に揺られ、心地良い風に吹かれて。不意に、ドレイクは話す気になった。
「おっさん…。あのさ、アイツ」
「自害した」
え…と言葉に詰まる。
あの状況を考えれば分かる。背骨の折れた虹彩鳥は死ぬ寸前、ドレイクに翼を千切る手段は無し、ならば風を刃として操れる自分で切るしか方法はない。
分かり切っていたから、トキは何も言わなかった。
ドレイクは、それならと誤解を与えないように話しておく。
虹彩鳥は、失意の内に死んだ訳ではないのだと。
「アイツ、仲間に会いたかったんだって」
「…」
「だから、おっさんのことも助けるって。少しの間だったけど、一緒にいてくれた。仲間だって」
「そうか」
ドレイクの話を聞いて、トキの顔からやや固さが抜けた。
普段のしかめっ面と大差がなく、ドレイクには違いが分からなかった。
二人はまた無言に戻り、ガタゴトと荷馬車に揺られる。彼らを追いかけるように、風が乾いた空を吹き抜けていく。
仲間と共に、何処までも。




