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獣々承知!!  作者: 納 平子
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戦闘~棍杖使い“未絡”

ドレイク

「鎚矛はメイス、鞭はウィップ、棍杖はクォータースタッフと、読もう…ぐふ」


トキ

「生きていたのか。しぶといな」


ドレイク

「参考資料は『図解 近接武器』定価:1300円、なりぃ…ガク」




 トキの攻撃は全て防がれた。

 獣具の能力に頼ることなく岩を粉々にする一撃が、片手で振られる棒きれ一つにことごとくあしらわれてしまう。マフラーの男は、鼻歌を口ずさみながら軽快なステップを踏んで、踊るように捌いていく。

 戦いの最中、気軽に話しかける余裕すらあった。


「お兄さん、変わった獣具を持ってるね〜。それって黒艶大蜥蜴の尻尾でしょ? 凄く希少な素材なんだよ、知ってた?」


「黙れ…っ」


「特に僕が注目したいのは、組み込まれてある『式』だよね。獣具に式を組むのって難しいんだよ〜? それを製作した魔術師って名うてなのかな?」


「知るかッ」


 黙らせようとして横薙ぎに振り回した鎚矛は、縦にかざした棍杖にまたしても阻まれた。

 コンッという軽い音が、トキの迫力や凄みすら半減させる。

 それは、物理的に有り得ない現象。


「でもさ、獣具に組み込まれた式が解る上に、自分の意志で式の内容を操作出来るのなら、僕のしていることも理解出来るんじゃない? 僕の技とお兄さんの獣具に組まれた式の一つは、同じなんだから」


 なおも繰り出す攻撃を掻い潜り、男の空いた手がトキの肩に当てられた。

 男はニコッと笑い、一言呟く。


 “重量変換・過多”。


「―――ッ!」


 見えない力が働いた。

 上から押さえつけるような重さがトキの全身へ加わった。立っていることすら不可能となり、為す術無く岩盤を砕いて沈んだ。

 相当な負荷が生身の体を襲い、ミシミシと悲鳴を上げる。激痛に歯を食い縛るトキを見下ろす男は、楽しい見世物でも見るような調子でいる。

 男にとってこれは戦いではなく、ただの遊びでしかないらしい。


「ぎ、ぐ………ッ」


 自由を奪われてされるがままのトキに、苛立ちの火がつく。


「あれ、彼処にいるのは風羽根かな? 何だかご機嫌ナナメ〜…」


 動けないトキから余所見をし始めた男。遠くでは、気絶するドレイクの近くまで進み出た虹彩鳥が敵意を募らせている。

 油断するその足元で、鎚矛の柄頭が丸く広がって火炎が灯った。


「お? …―――、」


 男が視線を戻した瞬間、火蜥蜴の尻尾が爆発した。

 黒煙が谷間を埋め、中から逃れるようにマフラーの男が飛び出す。顔にあるのは心からの笑みで、実に楽しそうな表情だ。


「あは、成る程ね〜。何の為の“形状変換”かと思ったら、蜷局を巻いた尻尾を状況に応じて広げ、一旦熱量を内部に溜めてから一気に解き放つんだ。これなら破壊力を格段に上げることが出来て〜、」


 無難に着地してペラペラと喋りまくる男を、さらに風の刃が襲う。粉塵を掻き消して飛び交う刃は危なげなく避けられてしまったが、男の解説は中断されてややふてくされ気味に。

 重量過多から解放されたトキが、余計な手出しにがなる。


「死にたがりが、引っ込んでいろ…っ」


 憎まれ口を叩くその頭上を、虹彩鳥が羽ばたいた。風を操って渦巻かせ、マフラーの男めがけて烈風を浴びせる。


「風羽根の一種、虹彩鳥。風属の操作能力は低いって話だけど、辺境の地で生き延びているだけあって鍛えられてるんだね〜…」


 虹彩鳥の猛攻を受けても男の余裕は無くならない。

 力の差を、まざまざと見せつける。


「ザコだけど」


 無慈悲な言葉を真上から浴びせて。

 男は瞬く間に上方へ移動し、棍杖を虹彩鳥の背中に叩き込んだ。棍杖の重さは通常の何百倍にも引き上げられ、華奢な背骨はへし折れた。

 虹彩鳥は短い悲鳴を上げて墜ちていく。男もふわりと下に降りて、痙攣する虹彩鳥の眼前へ。

 今までとは打って変わって、溜め息を漏らしながらトドメを刺す。




 振り上げた棍杖に、火蜥蜴の尻尾が巻きついて引き止めた。




 後ろから、多少回復して動けるようになったトキが、荒い息を抑えて立ち上がっていた。

 持っていた鎚矛(メイス)は、その形状を(ウィップ)へと変えている。


「相手を、間違えるなよ。お前は、俺が殺す」


「へ〜! 柄全体を軟化させて鞭としても使えるんだ。ビックリ箱みたい、あはは♪」


 緊張感なく笑う男の言葉をトキは聞き流す。

 持ち手に握力を加え、火属の魔力によって高熱を発生させる。巻きついた棍杖を焼き切ろうとするが、明らかに木材であるはずの棍杖は焦げつきさえしない。


「無理だよ。これは、お兄さんの持つ尻尾くらいには特別だからね。ちょっとやそっとじゃあ壊せない。それに、迂闊じゃないかな」


 “重量変換・過少”。


「……ッ!?」


 トキの体から重さが限りなく無くなった。男の細腕でグンと引っ張られ、大気中を満たす風属の影響で浮かんで来たトキを、意地の悪そうな笑顔で仰ぐ。

 二人の体がぶつかる直前、トキは鞭を鎚矛へ戻して次弾を装填し、男は棍杖を指で器用に回した。


「さあて、お兄さんの奥の手はまだあるのかな? もっと楽しませてくれると嬉しいなあ」


「チッ」


 トキの攻撃は通らない。男の奇術は変幻自在で防ぎようがない。

 それでも、足掻く。

 ただ死ぬことを選んだ虹彩鳥への、最大限の嫌味を込めて。

 死に物狂いで、手にした獣具を難敵へと振り下ろしていく。






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