依頼達成率100%の天才令嬢は今日も勘違いする
【第18作目】話を考えていたら、登場人物がほぼ同じで話が2本できたのでまずは1本投下してみます。
ルートAとしておきましょう。
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メルヴィル伯爵家の次女、ソフィアには秘密があった。
それは伯爵令嬢でありながら、屋敷を抜け出して冒険者をしていることである。
今日も朝早く、自室の窓を開ける。
庭には見張りの使用人がいる。
正面門から出ることなどできない。
しかしソフィアは得意げに笑った。
「甘いですわね」
ひらりと窓枠へ乗る。
「行くわよ、リュート!」
銀狼リュートが呆れたような顔をした。
そして。
令嬢らしからぬ見事な跳躍で塀を飛び越える。
着地。
少しふらつく。
「ふふっ、完璧ですわ」
実は足首を少しひねっていた。
リュートは深いため息を吐いた。
その様子を遠くから見ている者がいる。
木陰に潜む三人の隠密護衛。
ゼロ、リン、ロックだった。
「今日も元気ですね」
リンが言う。
「元気だけはな」
ロックが苦笑する。
ゼロは無言で手帳を開いた。
本日の護衛任務開始。
すでに273日目だった。
ソフィアは冒険者ギルドで有名人だった。
依頼達成率100%。
飛び級でD級昇格。
どんな依頼でも成功する。
本人は自分の実力だと思っている。
でもこれは、過保護な父の執念の賜物でなのである。
実際は
迷宮で落とし穴があれば。
先回りしたロックが解除する。
危険な魔獣がいれば。
リンが見えない場所から始末する。
素材がなかなか見つからなければ。
ゼロがわざと目立つ場所へ置いておく。
そして、ソフィアは胸を張る。
「やはり才能とは隠しきれないものですわね」
誰も反論しなかった。
できなかった。
反論したら伯爵に怒られるからだ。
◇ ◇ ◇
その日の依頼は薬草採取だった。
森を歩きながらソフィアは語る。
「リュート」
銀狼が耳を動かす。
「わたくしは将来、剣聖になると思いますの」
リュートは無反応だった。
「あるいは伝説の英雄」
無反応。
「王国最強でも構いませんわ」
無反応。
「何か言いなさいな!」
リュートはそっと顔を背けた。
その時だった。
森の奥から悲鳴が響く。
「うわぁぁぁぁ!」
ソフィアの目が輝いた。
「事件ですわ!」
全力疾走。
駆けつけると。
そこには逃げ惑う若い冒険者二人。
追いかける三匹のグレートベア。
もちろん冒険者の正体はリンとロックである。
護衛達の即席茶番劇のはずだった。
だが本当はもっと弱い魔物を用意する予定だった。
ソフィアが予想以上の速度で来たため準備が間に合わなかったのである。
「大丈夫ですわ!」
ソフィアが剣を抜いた。
「私が助けます!」
リンが心の中で叫んだ。
<やめてください。>
<本当に危険です。怪我してしまいます。>
戦闘は始まった。
ソフィアが風魔法を放つ。
砂埃が舞う。
熊の目に入る。
ついでに自分の目にも入る。
「きゃっ!」
目を閉じる。
その隙を見てリンが飛び出した。
熊の足を斬る。
ロックが陰から魔法を撃つ。
ゼロはさらに遠くから援護する。
しかしソフィアだけは知らない。
怯んでいる相手に剣を振り下ろす。
「やりましたわ!」
一匹撃破。
「やれますわ!」
二匹撃破。
本人は完全に自分の手柄だと思っていた。
だが三匹目は違った。
巨大な熊。
怒り狂っている。
ソフィアの体力は限界ギリギリだった。
顔から汗が滴る。
肩で息をする。
足も震えてが出てきている。
それでも前へ出る。
「ここで逃げるわけにはいきませんわ」
リンとロックが青ざめた。
ゼロも表情を険しくする。
間に合わない。
熊が前脚を振り上げる。
その瞬間。
両者の間に入る者があった。
一筋の銀光が走る。
グレートベアが真っ二つになる。
静寂。
長身の青年が立っていた。
巨大な両手剣。
整った顔。
冷静な瞳。
伯爵領のギルドで有望株とされたA級剣士アーネストだった。
彼は倒れた熊を見た。
二匹の死体も見た。
戦場の跡も見た。
それから近くへ歩み寄る。
「大丈夫か」
低い声。
怯え腰を抜かす風の冒険者二人に手を差し出す。
「あっ、ありがとうございます」
リンは差し出された手を握り、ロックは服をはたく。
ソフィアは胸が高鳴った。
何て素敵な人なのだろう。
まるで物語の主人公みたいだ。
アーネストは周囲を見回した。
「無茶をするんだな」
静かな声だった。
ソフィアはどきりとする。
「す、すみません」
「謝る必要はない」
アーネストは首を横に振った。
「そういうところは嫌いじゃない」
ソフィアの顔が真っ赤になる。
リュートが遠い目をした。
アーネストは再び周囲へ目を向ける。
そして尋ねた。
「これは君がやったのか?」
ソフィアは慌てて胸を張った。
「え、ええっと……私です!」
アーネストは少し考える。
やがて短く頷いた。
「そうか」
それだけ言う。
何か納得したようにも見えた。
「また会うこともあるだろう」
そう告げて立ち去っていく。
ソフィアはその背中を見送った。
「リュート」
銀狼が振り返る。
ソフィアは胸を押さえた。
「運命ですわ」
恋だった。
一目惚れだった。
◇ ◇ ◇
それからだった。
アーネストが頻繁にソフィアの元へ現れるようになったのは。
森で会う。
町で会う。
依頼先で会う。
偶然にしては出来すぎている。
「また会いましたわね!」
「ああ」
アーネストは頷く。
「元気そうだな」
ソフィアは嬉しくなる。
「もちろんですわ!」
アーネストは僅かに微笑んだ。
「なら良かった」
ソフィアの心臓が暴れ回る。
◇ ◇ ◇
別の日。
「どうしてそんな危険な依頼ばかり受けるんだ」
アーネストが尋ねた。
「冒険が好きだからですわ!」
アーネストは少し考えた。
「放っておけないな」
ソフィアは真っ赤になる。
もう確信していた。
絶対に好かれている。
アーネストは時々、不思議なことも言った。
「君は人を守るためなら無茶をする」
「そうかしら?」
「ああ」
「自分を後回しにしている」
真っ直ぐな視線。
ソフィアは恥ずかしくなった。
そんなふうに見られていたなんて。
一方その頃。
リンは胃が痛かった。
「なんで毎回いるんですか、あの人」
「変装してソフィア様に近づけないじゃないですか」
「この前なんて変装している私に話しかけて来ましたよ」
「まあな、俺も話しかけられた」
ロックは笑う。
「完全にソフィア様に惚れてるんじゃないか?」
「そうでしょうか……」
リンは首を傾げる。
どこか違和感があった。
時々、アーネストの視線が自分達へ向いている気がするのだ。
怪しまれている?警戒されている?
あり得ない、そう思う事にした。
◇ ◇ ◇
そんな事を繰り返した数ヵ月後のある日。
依頼帰りの森の小道でアーネストが立ち止まった。
「話がある」
森の中でアーネストが言った。
ソフィアの心臓が跳ねる。
来た。
ついに来た。
運命の瞬間である。
間違いない。
100%告白だ。
依頼達成率100%の自分が言うのだから間違いない。
「リュート……」
ソフィアが震える声で言った。
「わたくし、今日で婚約者ができますわ」
リュートは何も言わなかった。
木陰のゼロも何も言わなかった。
なぜか?嫌な予感がするからだ。
アーネストがゆっくり口を開く。
「初めて会った日から気になっていた」
ソフィアの顔が真っ赤になる。
ほら!
やっぱり!
「君は強い」
ほら!!
「優しい」
ほらほら!!
「人を守るためなら無茶もする」
ほらほらほら!!!
やはり運命だった。
ついに英雄と伯爵令嬢の恋が始まるのだ。
ソフィアはすでに先の事を考え始めていた。
結婚式。
新婚旅行。
子供。
未来図が脳内で完成した。
「だから」
アーネストが歩き出した。
ソフィアはそっと目を閉じる。
告白を受ける令嬢らしく。
優雅に。
美しく。
完璧に。
しかしアーネストは通り過ぎた。
ソフィアの横を。
完全に通り過ぎた。
「!?」
目を開ける。
いない。
横を見る。
歩いている。
まだ歩いている。
どんどん歩いている。
目的地が自分ではない。
明らかに自分ではない。
「待ってくださいまし」
誰も待たなかった。
アーネストは木陰で立ち止まる。
そこに隠れていたリンを見て言った。
「俺と付き合ってほしい」
沈黙。
森が静まり返る。
鳥も黙った。
風も止まった。
虫まで空気を読んだ。
「え?」
ソフィアが言った。
「え?」
リンが言った。
「え?」
ロックが言った。
「……あー」
ゼロが言った。
唯一理解していた。
「えええええええええええええええっ!?」
ソフィアの絶叫で鳥の群れが飛び立った。
遠くの鹿も逃げた。
近くのウサギも逃げた。
ついでにロックも反射的に逃げ出しかけた。
「誰ですのその方!!」
「君の護衛のリンさんだが」
「名前じゃありませんわ!!」
その後の種明かしはさらにひどかった。
「手を差し出した相手も」
「え?」
「放っておけないと言った相手も」
「え?」
「強いと言った相手も」
「え?」
「全部リンさんだ」
「え?」
とどめ。
「あの時、『これは君がやったのか』と聞いたでしょう!?」
ソフィアが叫ぶ。
「ああ」
アーネストが頷く。
「リンさんに聞いた」
世界が終わった。
「じゃあ私が返事したのは!?」
「話を合わせた」
「え?」
「正体を隠している事情があると思った」
「え?」
「だから聞かなかった」
「え?」
ソフィアは空を見上げた。
青空だった。
晴天だった。
何も変わっていない。
変わったのは自分だけだった。
恋も。
未来予想図も。
結婚式場も。
子供の名前も。
全部消えた。
「全部勘違いでしたのぉぉぉぉぉぉぉ!!」
魂の叫びが森に響いた。
一方。
リンはまだ混乱していた。
「私、護衛ですよ?」
「知っている」
「危険な仕事です」
「構わない」
「任務優先です」
「問題ない」
「ソフィア様が面倒を起こしますよ?」
「知っている」
「かなり起こしますよ?」
「見ていた」
「毎日です」
「覚悟している」
リンは吹き出した。
つられてアーネストも少し笑う。
そしてリンは小さく頷いた。
「……そこまで言うなら」
頬が赤くなる。
「よろしくお願いします」
アーネストは初めて心から笑った。
「こちらこそ」
その後ろでは。
ソフィアの魂が抜け出ていた。
何も聞こえない、何も考えれない、真っ白である。
リュートが鼻先で慰めている。
ゼロは淡々と報告書を書いていた。
ロックは笑いすぎて地面を転がっていた。
◇ ◇ ◇
数日後。
冒険者ギルドで奇妙な噂が流れた。
『森で伯爵令嬢の抜け殻になっていた』
『三日間虚空を見つめていたらしい』
『依頼書を逆さまに持っていたらしい』
『リュートがずっと励ましていたらしい』
なお。
全部事実だった。
◇ ◇ ◇
それから更に一か月後。
冒険者ギルドの訓練場。
木剣を振る音が響いていた。
「はあっ!」
バシィッ!
案山子が吹き飛ぶ。
周囲の冒険者達が静かになった。
「今のかなりすごくなかったか?」
「勘違いで失恋したソフィア嬢だよな?」
全部聞こえていた。
聞こえていたがソフィアは振り返らない。
なぜなら恥ずかしさで死にそうになるたび、その感情を全部剣に込めているからである。
「アーネスト様……」
ゴゴゴゴゴ。
妙な圧力が漏れた。
近くの初心者冒険者が一歩後ずさる。
リュートも少し離れた。
遠巻きに見ているロックがつぶやいた
「うわ~っ、完全に覚醒してる」
ゼロは報告書をさらさらと書いていた。
剣鬼の才能アリと…
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次作が違う方向の話ルートBとなります。
【第19作】あの日、森で出会ったあなたを忘れられない
まあ、何事も実験実験。
もし、よければ過去に書いた話も見てやってください。(ギャグ系が多いですが)




